伝説の黒人ダンサー、リチャードソンと振付家ローデンが率いるコンプレクションズ20周年公演

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ西村
text by BRUIXA NISHIMURA

Complexions Contemporary Ballet
コンプレクションズ・コンテンポラリー・バレエ

" Head Space " (World Premiere)、" Hissy Fits " " Innervisions " by Dwight Rhoden
『ヘッド・スペース』『フィッシー・フィッツ』『インナー・ビジョンズ』ドワイト・ローデン:振付

11月18日から30日まで、ジョイスシアターにて、コンプレクションズ・コンテンポラリー・バレエの公演が行われました。プログラムA、B、C、Dの4種類の上演がありました。カンパニーのダンサーは14名ですが、マルチカルチャーで多人種のダンサーで構成されています。黒人ダンサーの割合も多いです。私は3つの作品を上演したプログラムBを11月26日夜の公演で観ました。
今回は、コンプレクションズ・コンテンポラリー・バレエの20周年記念の公演でした。(この20周年のために用意された特別企画として、11月20日のプログラムDを1日だけ、ABTプリンシパル・ダンサーのマルセロ・ゴメス振付の"Igual"(イグアル)という初演作品が上演されました。そして20日だけ、芸術監督のデズモンド・リチャードソン本人が踊りました。)

コンプレクションズ・コンテンポラリー・バレエは、1994年にドワイト・ローデンとデズモンド・リチャードソンが創立した、ニューヨークを拠点とするダンスカンパニーです。数々の賞を受賞し、世界中に招聘されて公演を行っています。
このカンパニーはダンス教育にも力を入れていて、2006年から「サマー・インテンシヴ・プログラム」を開始し、1年目には80名のダンサー教育からスタートして、今では3都市で年間300名以上のダンサーを受け入れています。2009年からは冬季の教育プログラムを始め、さらにプラス年間400名以上を受け入れるようになりました。芸術監督のローデンとリチャードソンとカンパニーのメンバーたちが講師としてマスタークラスで、コンプレクションズ・テクニークをシェアして教えています。
ニューヨークの私の知人ダンサーたちも、この教育プログラムに参加して学んでいます。伝説の黒人ダンサーのリチャードソンから集中的に直接学べる感動を語ってくれて、素晴らしい体験を聞きました。地元ニューヨークの現役ダンサーたちの「コンプレクションズはカッコいい振付だから踊ってみたい」という良い評判を時々耳にしていました。そのため、今回の20周年公演を見たかったのです。

「ヘッド・スペース」photo/ Ani Collier

「ヘッド・スペース」photo/ Ani Collier

ドワイト・ローデンは、オハイオ出身で17歳からダンスを始め、いくつかのダンス・カンパニーで活動した後、アルヴィン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアターのプリンシパル・ダンサーとして活躍しました。そして数々のTVスペシャル、ドキュメンタリー番組、コマーシャルに出演してきました。1994年以降、コンプレクションズのために80以上のバレエ作品を振付し、他の数々の世界中のダンス・カンパニーのためにも多く振付作品を提供しています。
デズモンド・リチャードソンはサウスカロライナ州出身で、ニューヨークで高校生の頃からダンサーとしての才能を認められて頭角を現していて、アルヴィン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアターをはじめいくつかの奨学金を得ていました。その後、アルヴィン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアターのプリンシパル・ダンサーとして活躍し、ブロードウェイ・ミュージカルにも出演しています。1997年には、ABTのプリンシパル・ダンサーとして『オテロ』の主役を踊り、他にも様々な世界中のバレエ団やダンス・カンパニーで踊り、まるでギリシャ彫刻のような見事な肉体で、身体能力にも非常に恵まれています。40代半ばの現在でもその肉体を維持しており、まだ現役ダンサーとしても時々踊っているので、すさまじい努力家なのですね。

「ヘッド・スペース」photo/ Ani Collier

「ヘッド・スペース」photo/ Ani Collier

プログラムBの一つ目の作品は、" Head Space "(ヘッド・スペース)、ドワイト・ローデン振付、音楽はテレンス・ブランチャード( Terence Branchard )です。今回が初演の作品で衣装は黒一色で、レオタードやタイツ、身体にフィットした短パンなど、ダンサーたちの肉体の動きがよく見えるもので、全員バレエシューズでした。出演ダンサーはカンパニー全員で、黒人やラテン系が過半数、韓国人女性もいました。
音楽はピアノ曲で、リズムの速さはいろいろに変化しました。
主役級で踊っていた長身の褐色の男性ダンサーは、とても肉体がしなやかで、素晴らしい身体能力です。最初、この男性が1人中央にいて、後ろに大勢のダンサーたちが立ち、それぞれ同時に踊りました。ダンサーたちは優れた身体能力をみせ、柔軟性もテクニックもあり、肉体は鍛え上げられていて、とてもレベルが高いです。
クラシック・バレエベースの、コンテンポラリーで、アルヴィン・エイリーの振付と共通性はありますが、また違った現代的なイメージでした。バレエの要素が強く、振付家が現在も活躍中なので、今の時代の雰囲気が現われています。
2番ポジションでプリエをした状態で静止し、そのままポーズをしているところが多いのが特徴です。アラベスクをして、ダンサーが180度開脚して静止したところも何回か出てきました。男女のペアが1組から3組くらい出てきて踊り、リフトも多かったです。男性4〜5人や、女性数人で踊るところなど、小さなグループごとに踊って、次々に入れ替わっていきました。大勢で踊った後に、主役級の長身の黒人男性が長いソロを踊りました。途中から、ジャズの音楽になり、速いテンポで伸びやかに踊っていました。
最後は、この黒人男性が中央で立っている周りを、女性一人がグルグルと時計回りに周り続けているところで、終わりました。
すべての振付が音楽とピッタリ合っていました。カッコよくバランスがとれていて、自由な動きで、それでいてバレエベースで基礎がしっかりしているので、見ていて安定感があります。かなり長い作品でした。

「ヘッド・スペース」photo/ Ani Collier

「ヘッド・スペース」
photo/ Ani Collier

「ヘッド・スペース」photo/ Ani Collier

「ヘッド・スペース」
photo/ Ani Collier

「ヘッド・スペース」photo/ Melissa Bartucci

「ヘッド・スペース」
photo/ Melissa Bartucciト

2作目は、" Hissy Fits "(ヒッシー・フィッツ)、ドワイト・ローデン振付、音楽はバッハです。これは短めの作品で、10名のダンサーが出演しました。リズムはバラバラでランダムな、ピアノとストリングスの曲でした。基本は、一つ目の作品と同じような振付が多かったです。薄くスモークが焚かれていました。モダンバレエの要素も多く、一般的にイメージするようなコンテンポラリー・ダンスの振付でした。正統派の基本を忠実に押さえた踊りです。

三つ目の作品は、" Innervisions " (インナービジョンズ)、ドワイト・ローデン振付、音楽はスティービー・ワンダー( Suite of songs by Stevie Wonder )です。ワンダーの様々な曲がたくさんメドレーになってつなげられていました。大きな音響設備の劇場で10曲以上のワンダーの素晴らしい音楽を聴くと、普段聴いていたのとは違って、大迫力で重低音も響き、ダンサーの踊りと一体化して感動しました。古いモータウン時代の曲が多く選曲されていました。改めて、ワンダーの曲は良いものだな、とつくづく思いました。
踊りは男性のソロで始まりました。黒人っぽいソウルフルなリズム感を強調した振付で、バック宙もありました。衣装は、スキニージーンズや短パン、ノースリーブシャツなどの普段着でした。
男性ダンサー3人が、横向きに開脚したままの状態から、手などを床につけずに、両足を少しずつ閉じていって立ち上がっていました。これは難易度が高い振付でした。 楽しい雰囲気の踊りが続き、男女のパ・ド・ドゥもあり、リフトを多用していました。1組の男女の踊りが終わると、また次の別の男女の踊りが続いて、次々と入れ替わって踊りました。ジャズダンスの要素が多い振付のところもありました。「フォー・ワンス・イン・マイ・ライフ」の曲では、男性ソロで、シアターダンスのような手足を伸びやかに大きく使ったドラマティックな踊りでした。「スーパースティション」の曲では、黒人らしいヒップホップの要素を加えた踊りでした。男女のパ・ド・ドゥで、女性をリフトして上に持ち上げたまま、女性が180度開脚した状態でそのまま男性がその女性をグルグルと回すところもありました。
最後は全員が出てきて、ヒップホップの振付で踊りまくり、飛び跳ね続けて、元気良く踊ったまま幕が閉じました。伸び伸びと柔らかい肉体を存分に生かして、踊っていました。
ニューヨークらしいダンス・カンパニーだと思います。観てよかったです。
(2014年11月26日夜 ジョイスシアター)

「ヘッド・スペース」photo/ Melissa Bartucci

「ヘッド・スペース」photo/ Melissa Bartucci

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