気鋭の振付家たちによる3つの作品集、ニューヨーク・シティ・バレエ

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ 西村 Text by BRUIXA NISHIMURA

New York City Ballet ニューヨーク・シティー・バレエ

" 21st Century Choreographers "「21世紀の振付家たち」
"dance odyssey" by Peter Walker, "Pictures at an Exhibition" by Alexei Ratmansky, "Year of the Rabbit" by Justin Peck
『ダンス・オデッセイ』」ピーター・ウォーカー:振付、『展覧会の絵』アレクセイ・ラトマンスキー振付、「イヤー・オブ・ザ・ラビット」ジャスティン・ペック:振付

4月24日から6月3日まで、ニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)の春のシーズン公演でした。
5月1日に「21世紀の振付家たち」として3作品が上演されたプログラムを観に行きました。
ピーター・マーティンスが今年初めに辞任した後も、活発に若手振付家の作品を登用して機会を与えてきたことは、今も引き継がれています。このシリーズでは、現在の時代の空気を反映している斬新な作品です。
マーティンス辞任後は、まだ新たな芸術監督は不在のまま、ジョナサン・スタフォード、ジャスティン・ペック、クレイグ・ホール、レベッカ・クローンの4名がインターン・アーティスティック・チームを組んで監督しています。

上演作品1つ目は、" Dance Odyssey "「ダンス・オデッセイ」、2018年2月初演です。振付はピーター・ウォーカー(Peter Walker)で、NYCBへ2作目の振付作品です。ウォーカーはNYCBのコール・ド・バレエに2012年から所属しているダンサーです。
音楽はイギリスのクラシック作曲家のオリバー・デイビス(Oliver Davis)作曲。プリンシパル・ダンサーは、タイラー・ペック、アンドリュー・ヴェィエッテ、ザッカリー・カタサロ、アンソニー・ハクスリーです。
軽快な速いリズムの音楽に乗って、バレエベースですが個性のある若々しい振付で新鮮でした。ペアの踊りが流れるように入れ替わっていったり、ソロの踊りになったり、数名の群舞になったり、次々に展開していきますが、どの踊りも音楽に合っているものでした。
特徴的だったのは、パ・ド・ドゥで片方のダンサーがもう一人を背後から身体を合わせて踊る振付がところどころありました。男性が女性をリフトして上で持ち上げて回転させて、上に抱えたまま歩いて去るところもあり、難易度は高いです。群舞では、ペアが数組になったりまた大勢固まったり、流動的にくっついたり離れたりして踊りました。最後は男性が床に座ったまま、女性がそっと離れていき、男性と見つめ合って、パ・ド・ブレしてだんだん遠ざかって消えていくシーンで幕を閉じました。

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Lauren King and the Company in Peter Walker's dance odyssey 「ダンス・オデッセイ」by Paul Kolnik

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Tiler Peck and Zachary Catazaro in Peter Walker's dance odyssey 「ダンス・オデッセイ」by Paul Kolnik

2つ目の作品は、" Pictures at an Exhibition "『展覧会の絵』。2014年10月初演です。振付はアレクセイ・ラトマンスキー( Alexei Ratmansky)、音楽はロシアのモデスト・ムソルグスキー(Modest Mussorgsky)。プリンシパル・ダンサーは、スターリン・ヒルティン、サラ・マーンズ、タイラー・ペック、アビ・スタフォードです。
ピアノが1台舞台上にあり演奏されました。静かな曲で、ロマンティックな踊りでした。パ・ド・ドゥはリフトが多く、男性が女性を抱えてリフトし、女性が空中で1番ポジションのドゥミ・プリエのままの姿勢で男性がくるくる回したり、男性が女性をヒザの上に乗せてそのままリフトの状態で去っていったりしました。男性4人女性1人が踊り、回転が多く楽しそうな表現をしたり、パ・ド・ブレしてからポーズで静止したまま後ろへそっていました。女性4人は踊って手をつなぎ、下をむいてカニのように歩き去っていったところもありました。男性ソロでは、軸を中心として外向きに回転していました。

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Sara Mearns in Alexei Ratmansky's Pictures at an Exhibition 「展覧会の絵」by Paul Kolnik

演劇の要素もあり、パントマイムのような動きをしていました。床の上を何か探しているような仕種もしていました。様々な場面を表現した踊りが、たくさん次々に展開していきました。暴れたり、激しく2人で引っ張り合ったりしているところもありました。ロマンティックな優雅な部分や、軽快で楽しいものだけではなく、喜怒哀楽を全て表現していて、全体で様々な絵画の展覧会のように、場面が流れていきました。最後は、1人の女性を男性大勢が上に持ち上げて支えて、女性が上で両手を広げてポーズをして終わりまました。

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New York City Ballet in Alexei Ratmansky's Pictures at an Exhibition 「展覧会の絵」by Paul Kolnik

3つ目の作品は、" Year of the Rabbit "『イヤー・オブ・ラビット』、2012年5月初演です。振付はジャスティン・ペック( Justin Peck )です。ペックはNYCBのダンサーのソリストであり、常任振付家です。
音楽はアメリカのスフィアン・スティーヴンス(Sufjan Stevens)作曲。スティーヴンスは1975年7月1日生まれ、アメリカ・ミシガン州デトロイト出身、ニューヨーク・ブルックリン在住のシンガー・ソングライター、マルチプレイヤーで、ストーリーテリングを得意としています。2000年に初のソロ・アルバム『ア・サン・ケイム』を発表。2015年に、母と義理の父の名を冠したアルバム『キャリー・アンド・ローウェル』をリリースしました。2017年の映画『君の名前で僕を呼んで』中の3曲の作曲家で、主題歌の"Mystery of Love"を作曲しました。この映画は、2018年のアカデミー賞で作品賞、主演男優賞、歌曲賞、脚色賞にノミネートされ、ジェームズ・アイヴォリーが脚色賞を受賞し、話題になりました。

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Teresa Reichlen and the Company in Justin Peck's Year of the Rabbit 「イヤー・オブ・ザ・ラビット」by Paul Kolnik

プリンシパル・ダンサーは、アシュレー・ボーダー、テレサ・レイチレン、ジャード・アングル、アンソニー・ハクスリー、テイラー・スタンリーです。
これは、ペックがNYCBに提供した2つ目の振付作品で、作曲家のスフィアン・スティーヴンスとのコラボレーションで、彼のエレクトロニカ音楽アルバム"Enjoy Your Rabbit"「エンジョイ・ユア・ラビット」が使われました。このアルバムは、中国の十二支の干支をもとに作られました。その一部の曲を使って表現した作品です。それぞれ、ウサギ、寅、龍など7つの干支の踊りがありました。女性っぽい優雅な踊りがあったり、男性的ですばしっこい動きの踊り、ジャンプが多用されている踊り、丁寧なゆっくりした踊り、大勢のダンサーが床に寝転がって踊るなど、干支の特徴をバラエティーに富んだ振付で見せてもらいました。動きのベースはバレエです。
男性2人が女性1人をリフトして抱えて持ち上げているところもあり、この男女3名はみんなポーズを決めて静止。他のダンサーたちも床に座ってポーズをとり、全員でポーズを決めて、照明が消え幕を閉じました。
(2018年5月1日夜 David H. Koch Theater )

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New York City Ballet in Justin Peck's Year of the Rabbit「イヤー・オブ・ザ・ラビット」by Paul Kolnik

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