ドーランスがグラント、エドワーズとともにトシ・レーガンの音楽で踊った迫力あるタップダンス

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ西村
text by BRUIXA NISHIMURA

Dorrance Dance with Toshi Reagon & BIGLovely
ドーランス・ダンス with トシ・レーガン&ビッグラブリー

"in The Blues Project" featuring Derick K. Grant and Dormeshia Sumbry-Edwards
「イン・ザ・ブルース・プロジェクト」デリック・K.グラント、ドーメシア・サンブリー・エドワーズとともに

11月15日から27日まで、ジョイスシアターにて、タップダンスのドーランス・ダンス with トシ・レーガン&ビッグラブリーによる「イン・ザ・ブルース・プロジェクト」の公演が行われました。去年の公演はチケットがソールドアウトだったので、今年は早くから申し込みをし、初日を見しました。今年も客席は満員でした。
抜きん出た実力派のタップダンサー、ミシェル・ドーランスが率いる自身のカンパニー、ドーランス・ダンスの公演は今年で2回目です。観たかったので楽しみにしていました。音楽も実力派の女性ブルース・ミュージシャンであるトシ・レーガン&ビッグラブリーの生演奏でしたので、音楽的にも豪華でした。ドーランスは10代からトシ・レーガンの大ファンだったそうです。
http://www.dorrancedance.com/

ミシェル・ドーランスのタップを以前、ATDF(アメリカン・タップ・ダンス・ファンデーション)のタップシティーなどで何度か見た時に、そのすさまじい実力に圧倒されて以来、気にかけていました。男性、女性を含めて、世界のタップダンサーの中でドーランスの実力は圧倒的です。今や世界一といってもいいのではないかと思います。ドーランスのタップダンスは、短距離のアスリートのような鍛え上げた足腰で、重心が安定していて、メリハリの効いたすごい迫力です。
ドーランスが得意なステップの足技でよく使うものがありますが、これを速く打つのはプロ教師も難しいと言っていました。そのドーランスの得意のステップは「新しい世代のタップ」とニューヨークのタップシーンでは呼ばれています。

Photo by Yi-Chun Wu

Photo by Yi-Chun Wu

このように、今までの世代のプロの実力派タップダンサーたちが使わない(使うことが出来ない)、新たな難しいステップをドーランスは駆使するので、タップを良く知らないダンスファンが観ても、「すさまじいタップだ」と感じます。これは、もともと持っているタップの才能とリズム感だけではなく、長年にわたって鍛錬を積み上げ続けた努力の結果だと思います。プロになるための尋常の努力だけでは、ここまでの実力を持つのは難しいでしょう。
ミシェル・ドーランスは受賞歴も多数で、マッカーサー・フェローシップ賞(2015)、アルパート賞(2014)、ジェイコブズ・ピロー(ダンスアワード)賞(2013)、プリンセス・グレース賞(2012)、フィールド・ダンス・ファンド(2012)、ベッシー賞(2011)などです。

ミシェル・ドーランスは1979年ノースカロライナ州生まれ、37歳です。8歳からノースカロライナ・ユース・タップ・アンサンブルに入りタップのトレーニングを受け、ニューヨークのオフブロードウェイ"STOMP"に2007年からキャストとして参加していました。セヴィアン・グローヴァーとも共演しています。バレエダンサーの母親とサッカーコーチの父親の元に生まれ、ダンサーとアスリートの高い身体能力を受け継いだ肉体に恵まれたサラブレッドで、タップダンスの才能を幼少時から存分に育める環境で育ちました。
母親はバレエダンサーとして活躍したエムリス・ゲーリー・ドーランス(M'Liss Gary Dorrance)で、エリオット・フィールズ・アメリカン・バレエ・カンパニーとナショナル・バレエ・オブ・ワシントンDCの元ダンサーで、ノースカロライナにバレエ・スクール・オブ・チャペルヒルを創立し、ディレクターと教師をしています。ミシェルもそのバレエスクールで幼少時からクラシック・バレエとジャズ、タップダンスの教育を受けました。背景を調べると、やはりタップだけではなくバレエの基礎があるからこそ、プロのタップダンサーでもなかなか出来ない独自の得意なステップがあるのだなと思いました。バレエは全てのダンスの基礎となるので、どのジャンルのダンスにとっても、その上達の助けになるものです。
http://www.balletschoolofchapelhill.com/mliss-dorrance/
父親のアンソン・ドーランスは、ロースクール出身ですが、現役のサッカーコーチです。アメリカ女性サッカーチームを1991年にワールドカップ優勝へ導いた経歴の持ち主です。

この公演の音楽は、トシ・レーガンと彼女のバンドであるビッグラブリーの生演奏で、ミュージシャンはレーガンも入れて5人編成。オリジナルメンバーのエレクトリックギターのAdam Widoff、ベースのFred Cass 他2名です。音楽はすべて、トシ・レーガン作曲、音楽監督によるものです。演奏も素晴らしくて、ストレート・アヘッド・ブルースで、レーガンは恰幅の良い大きな身体から男性並みの太い声量で歌い、ギターを弾いていました。最初は、男性かと思ったほどでした。歌も上手で、声も大きく、すごい迫力でした。マルチな才能を持っています。現在はニューヨークのブルックリン在住だそうです。

Photo by Yi-Chun Wu

Photo by Yi-Chun Wu

Photo by Yi-Chun Wu

Photo by Yi-Chun Wu

タップダンサーの中堅世代で世界的な実力が認められている2人、デリック・K.グラント、ドーメシア・サンブリー・エドワーズも出演し、フューチャーされていました。ドーランスも彼らに影響を受けていて、この公演はこの3名、ミシェル・ドーランス、デリック・K.グラント、ドーメシア・サンブリー・エドワーズによって制作され、振付もされました。主な振付はこの3名で、他はそれぞれのダンサーたちがインプロビゼーションで振付を加えたそうです。
出演タップダンサーは、男女9名で全員レベルが高く、上手でした。衣装は、古き良きアメリカ風のワンピースなどのカジュアルでした、
ドーランスのタップのスタイルはリズムタップですが、この公演では、足だけにほとんど集中して振付がそぎ落とされた本来のリズムタップだけではなく、シアター向けにストーリーのある演技や、手足を大きく使った振付をたくさん加えていました。身体を上下に大きく動かす振付もあって、普通のタップダンスではない独自のダンスの振付を意識してベースに加えていました。一つのダンス作品の延長としてタップを入れているような印象の作品でした。タップシューズを脱いで、裸足でダンスをするところもありました。スニーカーをはいてダンスしたところもありました。そして、リズムタップによくある、舞台の真ん中でほぼタップの速打ちに徹するのではなくて、広い舞台のスペースを大きく使ってダンスをするものが多かったです。例えば、ダンサーが、右へ左へと大きく動いたり、舞台上を右から左へ、左から右へ通り過ぎたりしていました。
もちろん、リズムタップならではの盛り上がるシーン、1人ずつインプロビゼーションの速打ちのタップを次々に披露し続けるところも用意されていて、すごい迫力で楽しかったです。
ミシェル・ドーランス、デリック・K.グラント、ドーメシア・サンブリー・エドワーズのそれぞれのソロのタップが合間で挿入されていて、かなり長い時間のダンスが披露されました。3人ともそれぞれ、同じリズムタップといっても違った特徴と個性がありました。

Photo by Em Watson

Photo by Em Watson

Photo by Em Watson

Photo by Em Watson

ドーランスのソロは、舞台上で、途中で横を向いて観客に足の動きを見せてくれて、絶句するほどの難しい速打ちで床を打ちまくっているすさまじい迫力のタップで、客席全体もそのタップに引き込まれて次第に感動が高まっていって、大勢が同時に「ウオー!」という大歓声を上げていました。この客席の乗せ方も見事で、細かく、速く、正確な鋭いタップという印象です。私にとってはやはり、ドーランスのタップが一番上手いと感じました。
グラントのソロは、舞台上を大きく使い、右へ左へ、前後にぐるぐる周ったりしていました。男性的な力強い大きな音で床を打ちつける、迫力のあるタップです。肉体は筋骨隆々としていてアスリートのようです。汗だくで踊りました。客席に話しかけて盛り上げるところもありました。すごい拍手でした。
エドワーズのソロは、速打ちで見事ですが、同時に女性らしさが表れていて、なめらかでしなやかな動き、ソフトでかつ力強いタップでした。身体の重心がビシっと動かず、安定していて、どんな動きをしてもビクともせず、見ていてとても余裕があるタップでした。さすがです。縦横無尽に舞台上を動き回って、こちらも大拍手に包まれました。
フィナーレは9名全員が、激しい迫力で力強い音のファンクタップを踊り盛り上がりました。とても見ごたえのある素晴らしい公演でした。(2016年11月15日夜 ジョイスシアター)

Photo by Em Watson

Photo by Em Watson

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