インドの古典舞踊からオランダ、イギリス、台湾のコンテンポラリー・ダンスが踊られたフォール・フォア・ダンス最後のプログラム

ワールドレポート/ニューヨーク

三崎 恵里
text by Eri Misaki

New York City Center, 2016 Fall For Dance Festival Program Five

ニューヨーク・シティ・センター主催、2016年フォール・フォア・ダンス・フェスティバル プログラム5

ニューヨーク・シティ・センターのフォール・フォア・ダンスの最後のプログラムでは、一つの古典舞踊と三つの新しい作品が踊られた。
この日はインド古典舞踊家のシャンタラ・シヴァリンガッパ(Shantala Shivalingappa)が、インドの舞踊の神シバに奉納する踊り、『シバ・タランガム(Shiva Tarangam)』で幕を開けた。これはシバ神を賛辞する詩に基づいて踊られるもので、舞台の上で4人のミュージシャンが歌い、インド古典楽器を演奏した。

シャンタラは、舞台奥に合掌してバレエで言う1番のグランプリエの姿勢で控えており、その姿勢から静かに立ち上がって踊り始めた。美しい紫色の衣裳に手足の先を赤く塗っている。足に鈴をつけ、その音が音楽に彩りを添える。歌詞は「シバ」を何度も唱える。シャンタラは楽し気な表情で、スタイライズされた物語を語るような動きで踊る。花をたくさん乗せた小さなテーブルを舞台上手手前においてあるのは、儀式のしきたりだろうか。ひとしきり軽快だがどっしりと安定した踊りを踊った後、シャンタラは艶やかにテーブルに近づき、その下においてある盆のようなものを取り上げる。舞台の奥まで持って行って床に置くと、その縁に両足を乗せ、盆に乗って前後に動いた。これは雲に乗って飛ぶことを意味するものだろうか? 盆から降りると、何やら感じ入った様子をする。だんだん音楽が激しくなり、ダンスも盛り上がり、暗転して終わった。まさにインドの精神文化そのものを見ているようだった。

Shantala Shivalingappa Photo (C) Stephanie Berger

Shantala Shivalingappa 
Photo (C) Stephanie Berger


オランダのコンテンポラリー・ダンス・カンパニー、ネザーランド・ダンス・シアター(Nederlands Dans Theater)は、『目覚めたら目が見えなかった(Woke up Blind)』を上演した。振付はマルコ・ゴエック(Marco Goecke)。
暗い舞台の中でうごめく男女のダンサーの踊りで始まる。すぐに女性が去り、体格の良い男性のソロとなる。裸の上半身は凄い筋肉に包まれている。英語の歌詞の曲に時折ハァー、ハァーと息を吐く。やがて群舞となるが、くねくねと体を動かす非常に分かり辛い抽象的な動きだ。しかし、クラシック・テクニックの基本は保持した動き方で、ダンサーはみんな素晴らしい体格と柔軟性を持っている。古典とは動き方が違うが、センターが強く、くねくねとした腕や胴体の動きをしっかり支えている。時折ダンサーが声を含んだ吐息を出す。男女の役割というものはなく、ユニセックスの踊りとなっている。複雑な動きだが、クラシック・バレエの知識でコントロールされ、美しいラインが出てくる。動きだけで魅了する緊張感とエネルギーを持つ不思議な振付だ。リズミカルな音楽になると、するすると奇妙ながら、美しい早い動きが続く。動きは複雑でも、ダンサーがしっかりと振付を理解しており、また少人数に収めていることもあり、ごちゃごちゃして見えない。凄いエネルギーに満たされた力強い舞台となった。
最後に最初にソロを踊った男性が再度ソロを踊った後、観客を指さして「Good night(お休み)」と言って、観客の爆笑を買って終わった。今度目が覚めたら、目が見えますようにという意味だろうか?

ネザーランド・ダンス・シアター Photo (C) Stephanie Berger

ネザーランド・ダンス・シアター Photo (C) Stephanie Berger

今回のフェスティバルの目玉の一つに、最近、現役に復帰したアレッサンドラ・フェリ(Alessandra Ferri)とABTのプリンシパル、エルマン・コルネホ(Herman Cornejo)のデュエット『目撃者(Witness)』があった。振付はイギリスで活躍するコンテンポラリー・ダンスの振付家、ウエイン・マクレガー(Wayne McGregor)。
幕が開くと舞台は蛍光灯を縦に繋いだような光るセットのみで、二人がシルエットで立っている。シンプルな黒のワンピースのフェリとベージュのトップと黒いズボンのコルネホがモデラートなピアノ曲で踊り始める。暗い照明の中に美しいシルエットのデュエットが続く。視覚的だけでも楽しませるものがあるが、時代の先端を行くマクレガーの動きらしきものは見られない。舞台の前に小さな照明を置き、二人のシルエットが黄色に変わったバックドロップに浮き上がる。着かず離れずの人間関係を表現したのかと想像させるものはあったが、残念ながらこの振付とダンサーの組み合わせはミスマッチと思われた。タイトルの意味も作品の意図も伝わらないが、フェリもコルネホもさすがに美しく、見るだけで楽しませた。

アレッサンドラ・フェリ、エルマン・コルネホ Photo (C) Stephanie Berger

アレッサンドラ・フェリ、エルマン・コルネホ 
Photo (C) Stephanie Berger

この日の、そしてこのフェスティバルの最後を飾ったのは、クラウド・ゲート2 (Cloud Gate 2)による『招き(Beckoning)』であった。このカンパニーは、中国語圏で初めて設立された台湾のカンパニー、クラウド・ゲートから1995年に若手を中心として生まれた。
振付はチェン・ツン・ラン(CHENG Tsung‐lung)。低音と波のような音が流れる中、一人のダンサーが舞台奥に後ろ向きにうずくまった形からゆっくり立ち上がる。腹に響くような不快な低い音が強くなり、ダンサーのうねる様な動きが、強い背中の筋肉の動きを見せる。上体を弧を描くようにうねらせているが、どっしりと安定している。呼吸とキネティシズムで動くと言うのだろうか。もう一人の男性が加わり、ユニゾンで動く。そこには日本の舞踏に近い集中力がある。次々と男性が加わり、くねくねとした奇妙な動きを二人のユニゾンで行っては、そのうち一人がすたすたと消える。男性たちが舞台下手の方まで移動すると、今度は下手から一群の女性たちが出てきて踊り始める。この振付の動きは円を基本にしており、動きは大きいが不思議な静けさを持っている。やがて、リンを打ち合わせる音で男女が激しい動きで踊りだすが、デュエットというよりは二つのエネルギーの掛け合いの様だ。次々と展開する動きにはすべて癒しの感覚があり、激しい大きな動きにも拘わらず、しんと鎮めるものがある。まさに踊る禅のようだ。デフォルメされているが、きちんと振付けられていて飽きがこず、難度の高い動きだが非常に穏やかで、観客をトランス状態にする。多くのダンサーが出てきて、全員で集まり、頭で円を描くようにすると、またもや脳内モルヒネを分泌するような、不思議な世界に連れて行かれた。様々な動きのペースや場面や、音楽も変化を見せるが、全体に東洋独特の瞑想的で精神的な舞台であった。最後に全員の群舞で、エネルギーを高めて観客をぼんやりとした高揚に満たして終わった。
(2016年10月7日夜 New York City Center)

クラウド・ゲート2 Photo (C) Stephanie Berger

クラウド・ゲート2 
Photo (C) Stephanie Berger

Photo (C) Stephanie Berger

Photo (C) Stephanie Berger

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