ヒップホップ、タップ、バレエ、ダンスシアターを4カ国のカンパニーが競演したフォール・フォア・ダンスのプログラム3

ワールドレポート/ニューヨーク

三崎 恵里
text by Eri Misaki

New York City Center, 2016 Fall For Dance Festival Program Three

ニューヨーク・シティ・センター主催、2016年フォール・フォア・ダンス・フェスティバル プログラム3

ニューヨーク・シティ・センターのフォール・フォア・ダンス・フェスティバルの第3プログラムは、ヒップホップ、タップ、バレエ、ダンスシアターという組み合わせだった。
舞台はフランスのロシェル国立振付センター(CCN de La Rochelle/Cie Accrorap)の作品『Opus 14』で開幕した。 振付はカデル・アトウ(Kader Attou)。
全体を通じてヒップホップでまとめられているが、アクロバットやモダンダンスも採り入れられている。こうした様々なスタイルの折衷がこのカンパニーの特徴だという。音楽はヒップホップ曲ではなく、独自に作曲されたオリジナル曲だ。ほとんどが完全に振付けられており、ユニゾンやシンメトリーになって踊る場面もあれば、ソロ、デュエット、トリオ、群舞と様々な形式で踊る。統制されたフォーメーションで踊ったかと思うと、突然それぞれの即興になったりする。時にゾンビに見えたり、軍隊に見えたり、はたまた動く彫刻のように見えたり、ウエーブの様に動く場面も有ったりと、いろいろ面白い試みが込められている。
非常に統制が取れ、良くリハーサルされていてユニークだが、ここまで統制が取れてしまうと、ヒップホップというよりはコンテンポラリー・ダンスに見えてくる。それぞれのダンサーが持つテクニックは素晴らしいが、作品そのものが掲げるメッセージはなく、むしろテクニックのショーケースに見えた。観客席からは、片手だけで体を支えての回転や、ヘッドスピンなどに大歓声や拍手が沸き、アスレチックなヒップホップ技に感服するようなため息が漏れる。こうした新しい演出に、ヒップホップはどこへ行くのか? と思わせるものがあった。

タップダンサーのアヨデール・ケイセル(Ayodele Casel)の『私の出番 (While I Have the Floor)』は、なかなか世間に届かなかった多くの女性パフォーマーの声を代弁するもの。舞台は今は亡きタップの大御所のグレゴリー・ハインズ(Gregory Hines)の映像が舞台背面いっぱいに映し出され、ケイセルのことを「今日世界でトップに入るタップダンサーの一人」と語るのを彼女自身が見ている姿から始まる。音楽は一切なく、ジェニ・ルゴン(Jeni LeGon)、ファニタ・ピッツ (Juanita Pitts)、アリス・ウィットマン (Alice Whitman)、ルイス・マディソン (Louise Madison)の言葉がスクリプトとして流れる中、ケイセルの足から素晴らしいリズムが叩き出される。スクリプトの内容は、人間として、ダンサーとしてのプライドを述べるものだ。そういう声が世に出なかったということは、女性ダンサーたちが人間として、アーティストとして尊重されなかったことを物語っている。ケイセルのタップの技術は素晴らしく、時にユニークなステップも見られた。リラックスした演技から出てくる軽やかだが情熱的なリズムは、それだけで人生談を語るかのようであった。

香港バレエはフィンランド人振付家ヨルマ・エロ(Jorma Elo)の『Shape of Glow』を踊った。幕が上がった途端、青と黒のシンプルな衣裳に身を包んだダンサーたちの美しさが強い印象を与えた。洗練されたラインと非常に強いテクニックで、男女ともに粒が揃っている。作品はモーツァルトとベートーヴェンの曲を視覚化したものだが、アジアのダンスカンパニー独特の情緒のある踊り方と、動きの丁寧さ、きっちりとしたフォーメーションの維持で、一瞬も観客の意識を外さない。
女性は細く長いラインが非常に美しく、男性は比較的小柄ながら良くトレーニングされた美しい体をしている。そして男女ともに体格を揃えてある。男性の中には日本人の有水俊介(Shunsuke Arimizu)が含まれていた。物語性を持たない、コンテンポラリー・バレエだが、展開が速く、次々と見せ場がある。ユニークな動きも含まれているが、エロの他の作品から見ると、比較的保守的に作られており、バレエの本来の形を尊重した振付であった。振付をダンサーたちがきちんと理解して丁寧に踊っており、整然としながらもエネルギッシュな演技であった。

Photo (C) Stephanie Berger

Photo (C) Stephanie Berger

Photo (C) Stephanie Berger

Photo (C) Stephanie Berger

この日の舞台の最後は、オーストラリアのバンガラ・ダンス・シアター (Bangarra Dance Theatre) の『魂(Spirit)』が締めくくった。このカンパニーはオーストラリアを代表する舞踊団だけでなく、絶滅の危機に瀕するオーストラリアの先住民アボリジニ族とトレス・ストレイト島民の団体でもある。従って、このカンパニーの製作は昔から先住民問題を主張するテーマが多かった。今回もそうした製作の新作を発表した。
顔や体を白い粉で塗り、腰みのをつけた男性が木を打ちながら、素朴な先住民の歌を歌う。舞台の奥から隠れ蓑にする木を持った男たちが出て来て、狩猟の舞となる。先住民の装束の男性が語りや鳥のさえずりを交えた、歌というよりはチャントに近い謡いに、ダンサーたちが踊る。途中でダンサーたちは頭に白い粉を塗り長い棒を片手に持つ。恐らくはアボリジニの狩りの仕方なのだろう。民族舞踊のような動きがアレンジされて、コンテンポラリー・ダンスになっている。ユニゾンの群舞もあれば、マーシャルアーツに見える場面もある。また動物の動きも取り入れられている。ユニークな動きが多いが、ダンサーはよく訓練されている。男たちが消えると、今度は女たちが手に笹を持って出て来て、民謡に合わせて踊る。白い粉が舞台を舞う。非常に素朴だが、フォーメーションが美しく維持され、よく計算されている制作だ。突然、クリスマス曲と英語の録音が入る。西洋文化が侵略してきたのだ。爆撃の音の中、滑らかな動きで男性ダンサーがソロを踊る。奇妙な動きの連続だが、民族の悲劇を表現している。煙が立つ器を両手に持った女が出てくると、彼は彼女に抱き着き、煙が男の体を包む。絶滅するほどにまで追い詰められた先住民の悲しみと苦悩が表現された。最後に暗く煙が漂う舞台に、顔を白く塗ったダンサーたちが出てくると、男女に分かれて向き合って座り、動物的な動きをする。先住民の言語で台詞が流れる。やがてダンサーは全員床の上に倒れる。先住民の扮装をした男女が出てきて、ダンサーの間を縫うように踊る間、倒れていたダンサーたちが少しずつ起き上がる。西洋文化に絶やされそうになったが、私たちは消えないという主張を込めた、力強い作品であった。
(2016年9月30日夜 New York City Center)

バンガラ・ダンス・シアター 「魂(Spirit)」 Bangarra dance ensemble Ochres 2015 Photo by Jhuny-Boy Bor

バンガラ・ダンス・シアター 「魂(Spirit)」
Bangarra dance ensemble Ochres 2015 Photo by Jhuny-Boy Bor

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