NYCBが「巨匠の仕事」としてロビンズの『ダンシーズ・アット・ア・ギャザリング』とバランシンの『火の鳥』を上演
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掲載
ワールドレポート/ニューヨーク
- 三崎 恵里
- text by Eri Misaki
New York City Ballet ニューヨーク・シティ・バレエ団
Masters at Work 「巨匠の作品」
"Dances at a Gathering" by Jerome Robbins、"Firebird" by George Balanchine
『ダンシーズ・アット・ア・ギャザリング』 ジェローム・ロビンズ:振付、 『火の鳥』ジョージ・バランシン:振付
ニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)の秋の公演、最後のシリーズは巨匠の作品集だった。
『ダンシーズ・アット・ア・ギャザリング(Dances at a Gathering)』は、親しまれているフレデリック・ショパン(Frederic Chopin)の名曲に振付けられたジェローム・ロビンズ(Jerome Robbins)の作品。特別な集会を前提とした作品ではないが、様々な人間関係が描かれている。ロビンズの作品にはこうした親しまれやすい内容の作品が多い。雲が浮かぶ青空のような背景の前で、ライブのピアノソロで踊られた。 元気な若者のソロがあれば、しっとりとした恋人たちの語らいのようなデュエット、男性一人と女性二人の三角関係を思わせるトリオ、男女の戯れ合いのような群舞、3人の女性たちによるうつろ気なおしゃべりのようなトリオに男性が加わって、恋の悩みの相談でもしているようなダンス、仲良しかつライバル同士のような二人の男性の愉快なデュエット、いろんな男性に次々と話しかけてアピールする女性など、様々な人間関係が表現される。
Sterling Hyltin, Rebecca Krohn, and Lauren King in Jerome Robbins' Dances at a Gathering.
Photo (C) Paul Kolnik
バレエリュスに強く影響を受けた時代の作品らしく、ロシアの民族舞踊の振りが多く含まれている。テクニックはそつなく美しく踊られたが、残念に思われたのは、特にデュエットの場合、ダンサー同士の間で会話をしようと思えばいくらでもできる振付であるにも関わらず、そうした工夫が欠けている場合が多く観察されたこと。その中で抜きんでて表情豊かな演技をしていたのは、レベッカ・クローン(Rebecca Krohn)であった。また、いつもはテクニック中心に踊りがちなメガン・フェアチャイルド(Megan Fairchild)が、この作品では片っ端から男性にちょっかいをかける役に取り組んでおり、いつになく表情がある踊りで非常に印象的な場面を作った。相手の男性の反応もおもしろく、楽しそうに相手をする男性もいれば、うまく彼女をまいて消えてしまう男もいてリアルで面白い。最後にフェアチャイルドが観客に向かって「なんちゃってね!」という様子の振りをして観客の笑いを誘った。
Sara Mearns in Jerome Robbins' Dances at a Gathering.
Photo (C) Paul Kolnik
Ashley Bouder in George Balanchine's Firebird.
Photo (C) Paul Kolnik
もう一つこの日に踊られたのは、ジョージ・バランシン(George Balanchine)とジェローム・ロビンズの共同製作の『火の鳥(Firebird)』だった。音楽はイゴール・ストラヴィンスキー(Igor Stravinsky)の同名の曲。この製作は1910年にバレエリュスの興行主セルゲイ・ディアギレフが製作させた作品をバランシンが1幕ものに再振付したヴァージョン。緞帳が上がると、シャガールの絵が描かれた内幕で、これだけで素晴らしい芸術作品。この作品のセットのみならず衣裳も元々シャガールが担当したが、衣裳はその後NYCBの衣裳を多く手がけたカリンスカ(Karinska)がもっと踊りやすく改良したという。
シャガールの絵の内幕が上がると、月の様な円が描かれた背景に更に黄金の果実に照明で当てられている。ここは魔王カスチュイの庭園。そこへイワン王子(ザッカリー・カタザロ/Zachary Catazaro)が走り出てくる。そして火の鳥(アシュリー・ボーダー/Ashley Bouder)が現れる。イワン王子は火の鳥を捕まえるが、火の鳥は自分の羽を与えるから逃がしてくれ、困った時は羽を出すと助けに来ると懇願する。火の鳥に敬意を表してイワンは火の鳥を逃がす。やがて、カスチュイに魔法をかけられた13人の王女たちが現れ、楽し気に踊る。そこに突然現れたイワン王子に王女たちは怯えるが、礼儀正しく挨拶する王子に彼女たちも打ち解ける。そのうちの一人(アシュリー・ララシー/Ashley Laracey)と惹かれ合ったイワンは彼女に求婚する。そこへカスチュイとその家来が現れたため、王女たちは散り散りに逃げ、イワンは捉えられてしまう。イワンはカスチュイに魔法をかけられそうになるが、火の鳥の羽を取り出すと火の鳥が現れ、魔物たちを追い払う。魔法が解けた王女とイワンはめでたく結婚する。
火の鳥役のボーダーは、残念ながら若干太り気味で、リフトもジャンプも素晴らしいが、手足が短く見えた。しかも、出てきたばかりのところでポアントが滑ったか一瞬転倒して、観客の意識が飛んでしまったのは残念だった。そのせいか、もう一つ物語の最初の方がはっきり伝わってこなかった。しかし、最後にイワンに呼び出されて出てきたときは、非常に安定した踊りで、スムーズな流れるようなブレ―に滑らかに羽ばたく腕で、鳥らしさが良く表現された。特に魔物をやっつけた後の最後の入りが素晴らしかった。
カスチュイとその手下は、おもしろお笑しい面を被ったり、奇妙な着ぐるみを着た子どもたちとダンサーたちによって踊られた。
クラシック・バレエの形態をとりながら、新しいスタイルを追求した感がある作品で、これもロシア民族舞踊の影響の強い振付となっている。また、主役が結婚するにも関わらず、盛装した人々が集まる中、主役が真っ赤な華やかな衣裳で現れただけで、結婚の宴となるような、華やかなグラン・パ・ド・ドゥは省略された。
コンテンポラリー・バレエを中心とするニューヨーク・シティ・バレエだが、こうしたストーリー・バレエを見るのも楽しいものである。
(2016年10月14日夜 David H Koch Theater at Lincoln Center)