ドラマティックな出来事が次々と起こる『冬物語』をウィールドンが効果的に演出・振付けた

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ西村
text by BRUIXA NISHIMURA

The National Ballet of Canada カナダ国立バレエ団

"The Winter's tale" by Christopher Wheeldon
『冬物語』クリストファー・ウィールドン:振付 クリストファー・ウィールドン、ジョビー・タルボット:台本

ニューヨークで毎年夏恒例の、リンカーンセンターフェスティバル(今年は7月13日から31日まで)にて、カナダ国立バレエ団が招聘され、7月28日から31日まで公演がありました。選ばれた演目は、クリストファー・ウィールドン振付の全幕作品『冬物語』です。演奏は付属のオーケストラ(指揮者:デヴィッド・ブリスキン)です。私が観劇したのは、7月29日夜の公演です。2回の休憩をはさんで、3幕で構成されていて、2時間35分の作品でした。

カナダ国立バレエ団は1951年創立で、英国ロイヤル・バレエ団の踊りのスタイルを受け継いでいますので、そこの演目を上演することも多く、このウィールドンの『冬物語』も2014年に英国ロイヤル・バレエ団で初演されました。 クリストファー・ウィールドンは1973年英国生まれ、英国ロイヤル・バレエ団出身で、ニューヨーク・シティ・バレエに1993年に移籍後、97年からニューヨーク・シティ・バレエに振付を始め、2001年からニューヨーク・シティ・バレエの常任振付家として活躍し、世界の様々なバレエ団にも振付を提供し続けています。

カナダ国立バレエ「冬物語」(写真は他日公演のものです) Photo Credit: Karolina Kuras, courtesy of The National Ballet of Canada

カナダ国立バレエ「冬物語」(写真は他日公演のものです)
Photo Credit: Karolina Kuras,
courtesy of The National Ballet of Canada

この作品は、ウィールドンと共に長く制作をしている息の合ったチーム(舞台セットデザイン、衣装デザイン、照明)によって、手掛けられました。現在も上演中のトニー賞ブロードウェイ・ミュージカルの『パリのアメリカ人』( An American in Paris )も制作したチームです。2015年には、このチームは『パリのアメリカ人』で、クリストファー・ウィールドン(振付)、ボブ・クロウリー(舞台セットデザイン)、ナターシャ・カッツ(照明)がトニー賞を受賞しました。

Photo Credit: Karolina Kuras, courtesy of The National Ballet of Canada

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『冬物語』は1610年に完成したシェイクスピアの戯曲です。ウィールドンは『冬物語』を全幕作品の制作材料として選んだ理由について、登場人物たちがとても強いキャラクターだということと、オペラ的な状況と感情と、良い肉体的なキャラクターがあり、ストーリー性の富んだバレエ作品に仕上げやすかったから、と語っています。
今回の作品では、ダブルキャスト、トリプルキャスト以上で上演されました。私が観劇した日は、シチリア王レオンティーズはエヴァン・マッキー、シチリア王妃ハーマイオニはジュルジタ・ドロニナ、パーディタ(リオンディーズとハーマイオニの娘)はエレナ・ロブサノヴァ、ポーリーナはスヴェトラーナ・ルンキナ、ボヘミア王ポリクニシーズはブレンダン・サィエ、フロリゼルはフランセスコ・ガブリエル・フローラでした。

Photo Credit: Karolina Kuras, courtesy of The National Ballet of Canada

Photo Credit: Karolina Kuras,
courtesy of The National Ballet of Canada

この戯曲『冬物語』は、劇的な出来事が連続して起きます。シチリア王の誤解、シチリア王妃の投獄、獄中で生まれたシチリア王女を捨て子に出す、後悔、羊飼いに育てられた少女(王女)を身分違いのボヘミア王子が見初めて、その少女は捨てられたシチリア王女だったと分かり、2人は結ばれて、シチリア王とボヘミア王が仲直り、シチリア王と王妃が運命の再会、などです。盛り上がるドラマがだくさんある物語で、運命のいたずら、人間らしい愛憎あふれるドラマがあり、ハッピーエンドを迎えるストーリーです。

バレエダンサーたちはとてもレベルが高かく、手足が長く美しい体型のダンサーが多かったです。
舞台は照明が工夫されていて、暗闇の中に一箇所から照明を当ててダンサーを浮かび上がらせたり、明暗を強くしてより劇的な効果を出していました。 舞台セットも豪華で、舞台中央に大きな木を置いたり、大海原に実際に帆を張った船が出てきて去ったところもありました。
音楽は現代の作曲家が作ったクラシックのジャンルの音楽ですが、強弱が強くつけられていて、時々激しくなって盛り上がっていました。音楽も激しく強く最高潮に盛り上がったところでサッと音が消えて幕が閉じ、劇的な効果を音でも演出していました。 途中、舞台上の後方に5人のバンドが登場して生演奏もしていました。アコーディオン、パーカッションなどです。クラシック・バレエ作品でバンドが舞台上に登場することは珍しいと思いましたが、オーケストラの演奏に加えて、この舞台上でのバンドの生演奏も、例えばその前で大勢で踊るシーンなどで盛り上げる効果がでていて、視覚的にも良い演出になっていました。
振付はクラシック・バレエベースですが、全体の印象は、今の時代に合った現代的で洗練されたものでした。古典作品のバレエの振付よりも、もっと自由な印象です。一つ一つの基本の動作はクラシック・バレエの型を忠実に使っているのですが、その組み合わせ方が斬新でした。例えば、ポワントで立ったままの女性を男性がそのまま床を横に引きずったりしていました。パッセしてジャンプ、アラベスクしてジャンプを繰り返したり、ジャンプして上で1周回転しながら着地したり、動作の組み合わせが独特で、オリジナリティがありました。
他にウィールドンの振付には、ダンサーの動きに回転を加えて複雑に、より幅を持たせる感じ振りがあります。リフトも多用されていて、ダンサーが床に座ったり立ち上がったり、上に持ち上げたり、肩の上で女性をぐるぐる回したり、上下の空間の幅を大きく使っていました。難易度が高い、現代的なリフトの振付です。

Photos Credit: Karolina Kuras, courtesy of The National Ballet of Canada

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この戯曲のストーリーは喜怒哀楽が激しく、怒り、嘆き、悲しみ、大喧嘩、争い、苦悩、憤り、楽しみ、喜びなどの感情を、起伏を激しくして、踊りで表現していました。例えば、悩んで考え込んでいるシーンの踊りの表現は、ちょっとうつむいてパッセをして、そのヒザを前に動かしたり横に動かしたりして、ヒザをオープン・クローズさせる動きを何度も繰り返しながら1歩ずつ進むところがありました。その悩みの感情と様子が伝わってきたので、こういう感情を身体で表現する振付が自然で、巧みだなと感心させられ、ウィールドンの自由な発想と才能を垣間見ました。悩んで考え込んでいる様子を身体で表現する時、ウィールドンの場合はそれを動き続ける踊りで見事に表現しています。観客にも手に取るように、登場人物の感情が踊りから伝わってきます。 才能あふれるウィールドンの作品は、今後も目が離せません。
(2016年7月29日夜 David H. Koch Theater)

Photos Credit: Karolina Kuras, courtesy of The National Ballet of Canada

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