大成功を収めた、宝塚歌劇団OG公演 初のブロードウェイ公演『シカゴ』

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ西村
text by BRUIXA NISHIMURA

TAKARAZUKA in CHICAGO

宝塚歌劇団OGヴァージョン『シカゴ』アン・ラインキング:振付

毎年ニューヨークで夏に開催される、恒例のリンカーン・センター・フェスティバルを今年も取材しました。音楽、演劇、ダンスの祭典で、今回は第21回目となります。
7月20日から24日まで、リンカーン・センター内にあるDavid H. Koch Theater(収容人員2,586人)で、宝塚歌劇団OGヴァージョンの『シカゴ』の公演がありました。この劇場はブロードウェイ沿いに位置するので、宝塚歌劇団の初めてのブロードウェイ進出が実現した、と話題になっていました。選ばれた演目は、ニューヨークで2016年にロングラン20年を迎える、ブロードウェイ・ミュージカルの『シカゴ』です。
私は宝塚市の出身なので、宝塚歌劇団のお膝元で育ちご縁が深いので楽しみにしていました。私自身が3歳から学んだ最初のバレエの先生は四條秀子先生で、元宝塚歌劇団トップ娘役でした。当時、宝塚音楽学校のバレエ教員をしながら、バレエ教室をなさっていましたので、この教室からたくさんのタカラジェンヌやトップスターを輩出していました。
『シカゴ』はアメリカ史上1位のロングラン、トニー賞6部門受賞の名作です。
7月23日夜の公演を観ました。キャストは、ビリー・フリン役は姿月あさと、ヴェルマ・ケリー役は湖月わたる、ロキシー・ハート役は朝海ひかる、ママ・モートン役は初風諄です。唯一の宝塚歌劇団ではない男性、メアリー・サンシャイン役のT.OKAMOTOは時々、女装で歌い、とても良い味を出していました。

Billy(峰さを理) and Girls Photo (C) Aiko Miagawa and Nobuhiko Hikichi

Billy(峰さを理) and Girls Photo (C) Aiko Miagawa and Nobuhiko Hikichi

今回は、『シカゴ』が本場ブロードウェイのAmbassador Theatre(収容人員1,150人)で上演中に、その同じ演目がニューヨークで同時に上演されることになった事にも驚きました。こんなことは滅多にないことですし、通常なら、なるべく本家本元の演目と比べられないようにすることでしょう。観劇前には私も、「なぜ本場ブロードウェイの『シカゴ』を選んだのだろう」と、不思議に思っていました。
しかし、そんな心配は要らないほど素晴らしい公演でした。しかも、オリジナルの公演よりも、宝塚『シカゴ』の公演のほうが劇場が巨大で客席数も多く、倍以上です。普段はニューヨーク・シティ・バレエが公演するとても大きなサイズの劇場ですから、通常のミュージカル公演の劇場サイズではないのにもかかわらず、出演者の演技や動きも大きく、歌の声量もありすごい迫力でした。客席2600席近くが満員でした。日本語ヴァージョンなので、セリフや歌詞は、舞台のカーテンの上方に設置された字幕に英語で表示されました。

私はニューヨークで13年間以上も公演を観ていますが、この宝塚歌劇OGは歌は最高に上手く、ダンスはキレがあり、セリフの声もよく通り、鍛え上げられたスタイルも抜群。素晴らしかったです。後で調べると、主演のOGたちは、皆さんほぼ40台なのに、若々しく、プロ根性に徹してしまいました。そしてニューヨークの大きな舞台でもとても大きく見え、迫力がありました。ニューヨークで踊っている欧米女性ダンサーたちでも、もっと小柄な方が大勢います。ですから、ニューヨーカーの観客たちにとっても、オリジナル版以上にダンサーたちが美しく、迫力があって見栄えが良かったことでしょう。後で思わず全員の身長を調べてみました。すると主要なキャストは全員、宝塚在籍時は男役トップスターだった方々でかためていることが分かりました。男役トップだった何人かは今回は女性役もしていました。きっと最高のキャストを、歴代OGの中から選りすぐって準備したのでしょう。

Velma(湖月わたる) and  company Photo (C) Aiko Miagawa and Nobuhiko Hikichi

Velma(湖月わたる) and company Photo (C) Aiko Miagawa and Nobuhiko Hikichi

この宝塚歌劇OGヴァージョンはもともと、宝塚歌劇100周年を祝して2014年に制作され、東京・大阪・名古屋で7万人を動員して好評だった舞台です。ニューヨーク公演の舞台セットは、ブロードウェイのオリジナル公演のセットとほぼ同じような感じでした。舞台のサイズが大きい分、全体に同じセットのままサイズは大きくしていると思います。

ビリー役の姿月あさとは、セリフも歌も低音で、雰囲気もカッコよくきまっていました。女性が、男らしい男性を演じていることは、ニューヨーカーにとって新鮮だったことと思います。客席の拍手もすごかったです。
ヴェルマ役の湖月わたるは身長が高く、手足も長くて、踊りも歌も上手で驚きました。"All That Jazz"の歌がすごく合っていて、セクシーで、役になりきっていました。歌唱力がすごくあり印象に残っています。日本人離れしたスタイルが美しく、目に焼きついています。
ロキシー役の朝海ひかるは、コケティッシュな感じで、ダンスがとてもきれがあって上手く、セリフと踊りのシーンが多い役柄ですが、演技力があって素晴らしかったです。
一番驚いたのは、ママ・モートン役の初風諄です。舞台にスパイスを加える端役なのですが、重要な役どころです。舞台に歩いて出てきただけで、すでに凄みと貫禄があって、パンチパーマかカーリーヘアーのようなチリチリの髪をゆるくまとめた髪型が似合っていて、完全に役になりきっていました。そして少し歌い始めただけで、大拍手と歓声が巻き起こりました。あまりにも歌が上手なので聞き惚れてしまいました。
このママ・モートンの役は、"When You're Good To Mama"という歌が聞きどころなのですが、過去に観たブロードウェイのオリジナルキャストが歌ったものや映画ヴァージョンよりも、この初風諄のほうが歌が上手いと思いました。初風諄の解釈と表現のほうが歌に凄みと深みがあって、声も大きくよく伸びていると感じました。彼女の歌にはニューヨーカーの観客たちも驚いている様子で、ものすごい拍手でした。

Billy(姿月あさと) and Roxie(朝海ひかる) and company Photo (C) Aiko Miagawa and Nobuhiko Hikichi

Billy(姿月あさと) and Roxie(朝海ひかる) and company
Photo (C) Aiko Miagawa and Nobuhiko Hikichi

『シカゴ』の公演後、宝塚歌劇団の文化を紹介する「タカラヅカレビュー」の世界を短くまとめた20分位のショーがついていました。今回のニューヨーク公演のメンバーが総出演しているというサプライズでした。宝塚歌劇の名曲をたくさん盛り込んでいました。特別に、このニューヨーク公演のためだけに準備したショーなのだそうです。
カーテンコールで主役の3名が出てきて、挨拶をしました。
「これから、私たちの故郷、タカラヅカの世界を皆さんに紹介します。今まで演じた『シカゴ』の、殺人、不倫、犯罪というドロドロとした世界とは、タカラヅカは真逆の世界です!・・・タカラヅカは100年以上の歴史がある、女性だけのレビューで、女性が理想の男性を演じ、女性が可憐な女性を演じています。夢の舞台です」
そして、タカラヅカならではの、レビューが上演されました。舞台の両端上にはミラーボールが回転していて客席はその光でキラキラ反射し、さらにたくさんのムービングライトが劇場中に照らされて、「ハロー、宝塚・・・」という歌で始まりました。頭の上と赤いチュチュのヒップの上に大きな羽をつけている女性たちが次々登場して、踊りながら、華やかに舞台上へと上がっていきました。
宝塚ならではロケット(フレンチカンカン)で、さきほどの華やかな赤いチュチュの女性たちが一列に並び、足を揃えて上げ下げして踊り、すごい拍手が起こりました。息が合っていて、団結力が感じられました。

幕が開くと、"TAKARAZUKA ENCORE"と書かれたキラキラの電飾が光る巨大な舞台セットが現れ、男役、娘役に扮して、きらびやかな衣装、ドレスに身をまとったスターたちが登場し、ダンスを披露しました。こんなにブワーっと華やかで明るく、キラキラな夢の世界の演出は、宝塚ならではのものです。これは、アメリカ人たちにも受けて、大拍手でした。姿月あさと、初風諄など主役クラスの人々が歌を歌いましたが、最高に上手かったです。歌っている後ろで踊ったり、華やかな世界が続きました。
「すみれの花咲く頃」もちろん歌っていました。スター3人が姿が埋もれるくらいのサイズの、あの巨大な羽を背中に背負って出てくると、「ウワ〜!」という客席いっぱいにどよめきの声がおこり、すごい拍手でつつまれました。宝塚ならではのシーンです。そして幕が閉じました。

ニューヨーク公演は大成功でした。また宝塚歌劇団やOGがニューヨークに招聘される日は近いのではないかと思います。これからも楽しみにしています。
ニューヨークを含めたワールド・ツアーは、まだ8月も日本で続きます。
8月10日から21日、東京・東京国際フォーラムホールC。8月25日から30日、大阪・梅田芸術劇場メインホール
(2016年7月23日夜 David H. Koch Theater)

Roxie(朝海ひかる) and Boys Photo (C) Aiko Miagawa and Nobuhiko Hikichi

Roxie(朝海ひかる) and Boys
Photo (C) Aiko Miagawa and Nobuhiko Hikichi

Velma(和央ようか)and Roxie(大和悠河) Photo (C) Aiko Miagawa and Nobuhiko Hikichi

Velma(和央ようか)and Roxie(大和悠河)
Photo (C) Aiko Miagawa and Nobuhiko Hikichi

主な出演
[ビリー・フリン役](トリプルキャスト)峰さを理 / 麻路さき / 姿月あさと
[ヴェルマ・ケリー役](トリプルキャスト)和央ようか / 湖月わたる / 水夏希
[ロキシー・ハート役](ダブルキャスト)朝海ひかる / 大和悠河
[ママ・モートン役](ダブルキャスト)初風諄 / 杜けあき
公式HP http://chicagothemusical.jp/

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