アフリカ系アメリカ人のダンス・シアター・オブ・ハーレムによる熱く盛り上がった舞台

ワールドレポート/ニューヨーク

三崎 恵里
text by Eri Misaki

Dance Theatre of Harlem ダンス・シアター・オブ・ハーレム

Founders: Arther Mitchell, Karen Shook, Artistic Director: Virginia Johnson
アーサー・ミッチェル、カレン・シュック:創立者、ヴァージニア・ジョンソン:芸術監督

ニューヨークに所在するアフリカ系アメリカ人のクラシック・バレエ団、ダンス・シアター・オブ・ハーレムの公演が5月に実施された。このカンパニーの創立者の一人、アーサー・ミッチェルは、ニューヨーク・シティ・バレエで初めてアフリカ系のダンサーとして踊り、プリンシパルまで上り詰めた人である。黒人解放運動活動家のマーチン・ルーサー・キング牧師の暗殺に刺激され、彼がハーレムで子供たちにバレエを教え始めたのはガレージを改造したスペースで、受講料は一人50セント(約50円)だったという。慈善事業家やフォード財団のサポートもあったが、ミッチェル自身が自腹を切って、バレエ教師のカレル・シュック(Karel Shook)と共にダンス・シアター・オブ・ハーレムを設立、運営した。多くの優れたダンサーを輩出するだけでなく、黒人社会に教養の機会を創設したこのカンパニーは、常に多くの生徒をスクールに抱えたが、一時資金難のためにカンパニーを閉鎖する事態にも見舞われた。
しかし、その後不死鳥の様によみがえったのは、アメリカのアフリカ系社会の文化の一環として、クラシック・バレエ団を維持することの重要さがあらためて認識されたからと言えるだろう。私がレビューした夜は4つの作品が踊られた。

ロシア系ダンサーで著名なバレエ教師でもあるエレーナ・クニコヴァ(Elena Kunikova)の『Divertimento』は、ミハイル・グリンカの美しいピアノとバイオリンの曲に振付けられたもの。3組の男女のカップルによって踊られた。クニコバの音楽の解釈は非常にエレガントで美しいものだ。ダンサーたちは、アメリカ・バレエらしい活発な踊り方だが、ともすれば力に任せた踊り方も見られた。その中で、男性ダンサーのアンソニー・セイヴォイ(Anthony Savoy)がエレガントなラインで印象付けた。

Divertimento -Photo by Rachel Neville

Divertimento -Photo by Rachel Neville

『When Love』はヘレン・ピケット(Helen Pickett)がフィリップ・グラス(Philip Glass)の曲に振付けたデュエット。チルスティン・フェントロイ(Chyrstine Fentroy)とジョージ・アンドレス・ヴィラリニ(Jorge Andres Villarini)によって踊られた。フェントロイは細く長いラインで、滑らかな強いテクニックを持ち、エレガントな踊りで観客を魅了、大歓声で受け入れられた。
チーンという鐘の音で始まる『Change』は、ダイアン・マッキンタイヤ―(Dianne McIntyre)の作品。月夜の様なイメージの中を鐘の音だけで3人の女性が踊る。やがてゴスペルの様な美しい音楽となり、ドラムの音が入る。ダンサーたちの戸惑うような、不安そうな様子の踊りが続くうち、ピカッと照明が入り、コンスタントなドラムの演奏となる。彼女たちは叫び声を上げながら踊り始める。ポアントシューズは履いているが、モダンダンスの振付だ。やがてはアフリカンダンスの様な振りとなる。土臭さを強調するような粗削りな動きが続くが、リズムをしっかりつかんでいる。ダンサーの一人が地面に絵を描くような動きをして、またゴスペルの様な歌声が入る。美しいラインを強調する作品ではないが、アフリカ系の人々が共有するのであろう「変化」を描いた作品とエネルギッシュな演技に大歓声で受け入れられた。

Anthony Savoy and Stephanie Williams in Return Photo by Matthew Murphy

Anthony Savoy and Stephanie Williams in Return
Photo by Matthew Murphy

Change - Photo by Jeff Cravotta

Change - Photo by Jeff Cravotta

最後に踊られた『Coming Together』は人気振付家ナチョ・デュアトの作品。暗い背景に黄色く光る三角形。男性5人による、パワフルで速い群舞で始まる。野心的に踊るダンサーたちを見ても、ダンサーを惹きつけるものを持つ振付だと分かる。これに女性ダンサーたちが加わる。ダンサーは素足で踊る者とポアントやジャズ・シューズを履いて踊る者がいる。速く、魅力的な振付に加え、抽象的な背景が次々と変わったり、照明器具をダンサーが持ち、他のダンサーに照明を当てながら踊ったりする。非常にチャレンジングな作品を息つく間もなく見せた。最後に後ろの幕が上がって、舞台の裸の壁になり、10人のダンサーたちが熱く盛り上げて終わった。
(2016年4月8日夜 New York City Center)

Coming Together - Photo by Rachel Neville

Coming Together - Photo by Rachel Neville

ページの先頭へ戻る