伝統的フラメンコに現代的な振付を融合させた斬新なダンサオーラ

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ西村
text by BRUIXA NISHIMURA

COMPANIA ROCIO MOLINA "DANZAORA & VINATICA"

コンパニーア・ロシオ・モリーナ「ダンサオーラ&ヴィナティカ」

3月17日、ニューヨーク・シティ・センターでコンパニーア・ロシオ・モリーナの「ダンサオーラ&ヴィナティカ」の公演がありました。私は斬新で個性的な踊りをするロシオ・モリーナのファンなので、これは逃さないで観たいと楽しみにしていました。
前回モリーナのソロ公演をニューヨークのフラメンコ・フェスティバルで観たのは2年前です。その時は、運良く少しインタビューをすることが出来ました。
スペインには、アンダルシア中心に、実力のあるフラメンコ・バイラオールたちがたくさんいるので、毎回、大御所たちの中から数名だけが選ばれて、このフェスティバルで世界を巡回します。しかし、プレミオ・ナシオナル・デ・ダンサ(スペイン舞踊家賞)受賞している大御所のモリーナといえど、フラメンコ・フェスティバルに、毎年は世界巡回しないのです。2年前の公演が、モリーナ自身のソロ公演としてはニューヨークで初めてでしたが、それ以前にこのフェスティバルで1曲だけとか、少し出演して踊っているのを見たことがあります。その時、3年前にこのフェスティバルに出演したモリーナの踊りを観て、その新しい独特な振付と堂々とした自信に感嘆し、伝統的なフラメンコの枠には収まりきらないようなすごいダンサーだなと思い、強烈に印象に残り、ずっと気になっていました。また公演があれば逃さずに観たいと願ってしまうほど、彼女の世界の虜になっています。伝統的なフラメンコの枠では収まらないダンサーとしての才能と実力は抜きん出ていています。舞台上にダンサーが彼女1人だけでも十分な存在感として、観客に感動と満足を与えてくれます。

ロシオ・モリーナは、自らをダンサオーラ(Danzaora)と名乗っています。1984年、マラガ出身で、2001年にマリア・パヘス舞踊団へ入団。翌年、マドリッド王立舞踊学校を卒業しました。ロシオは3歳から踊りを始めましたが、母親はクラシック・バレエのダンサーだったそうで、その影響を大きく受けて育ったとのことです。母親はマラガでトウシューズをはいて踊っていたそうです。結局、母親はプロのバレエダンサーにはなりませんでしたが、モリーナは3歳からフラメンコを選び学び始め、気に入って、幼い頃から「私は絶対にダンサーになる!」と決めていたそうです。母から2代かかってプロとなり、ダンサオーラになりました。

(C) Luis C Ribeiro

(C) Luis C Ribeiro

フラメンコだけでなく、フラメンコの基礎を保ちながらコンテンポラリーの振付も加えているロシオの個性は、バレエも身近な家庭環境だったことも影響しているようです。
そしてロシオの選ぶ舞台衣装も斬新です。伝統的なフラメンコ衣装はあまり着ていないです。今回も、薄い透ける素材のピッタリした黒い衣装などでした。衣装だけでなく舞台セットのアイデアも、美的センスが良くて素晴らしいです。

(C) Luis C Ribeiro

(C) Luis C Ribeiro

コンパニーア・ロシオ・モリーナの出演ダンサーは、ロシオ・モリーナだけです。音楽監督とアレンジはロサリオ・ゲレーロ・ラ・トルメンディータ、オリジナル音楽はエドゥアルド・トラシエラ、パルマス&パーカッションはホセ・マヌエル・ラモス"エル・オルコ"、カンテとマンドラはホセ・アンヘル・カルモナです。
舞台が始まる前から幕が開いていて、ロシオ・モリーナが客席に背を向けて立っています。床にワインボトルが置かれていてそこからヒモが伸び、そのヒモの端を左手に持ち、右手にはライングラスを持ってじっとしていました。ほんの少しずつ身体を傾けたり動いていました。 
そのまま会場が暗くなり、舞台に照明が当てられて始まりました。休憩なしで、1時間半の公演でした。ミュージシャンたちは舞台下手の後方にいました。舞台上手に黒い小さな台が置かれていて、モリーナはそこまでゆっくり歩いていき、台の上に手に持っていたビンを置きました。
手だけの振付から始まり、次第にサパテアードが激しく速くなっていきました。モリーナが去って、男性のカンテが続きました。カンテも上手かったです。
次にモリーナが出てくると、シンプルでタイトな衣装に、頭と額の上に鈴をつけていて、頭を振って動かす度に鈴が鳴りました。そのまま、時々頭で鈴を鳴らしながら、速く激しいサパテアードを続けました。
静かに踊ったり、静止したり、激しくサパテアードを速打ちしたり、メリハリが激しくつけていました。タイミング、間合い、重心などすべてが決まっています。静止して決めたら、床に置いてあったワイングラスを強く踏んで、バリバリに割りました。ガラスの破片が飛び散りました。
そして、カンテ、パルマスたちに囲まれて、モリーナは激しく踊り、ダンスバトルのように盛り上がってすごい迫力でした。ギターの演奏の音にピタッと合っている踊りをしていました。足さばきが細かくコントロールできて、大きな音も出るし、踊りに余裕が感じられます。安定感があります。このシーンは、伝統的なフラメンコの手法を取り入れていて、再現していました。

(C) Luis C Ribeiro

(C) Luis C Ribeiro

激しいサパテアードの後は、静かな踊りになりますが、ここも見せ所です。ほとんど手の振りだけで表現するところも多いですが、手の動かし方がフラメンコの様式ではなくもっと自由です。自分らしいコンテンポラリーのようなオリジナリティがある振付で、天性の感覚でしょうか。他で観たことがないような動きをします。例えば、人差し指で空中を指して動かしたりします。回転もかなり入れています。
ギターのソロ演奏が長く続いた後、モリーナが、電飾をほどこしてあって内側から光っている小さめのパンデイロ(ブラジル音楽に使用されるタンバリンに似たパーカッション)を手に持っていて、それをブラジリアン・サンバのリズムのようにたたいて演奏しながら動き、踊りました。演奏と踊りがだんだん激しくなり、サパテアードが高速になっていきました。
そこにワインのビン2本を持った男性が登場して、それをたたいてクラーベのように使ってリズムをきざみ、時にはメリハリを激しくつけたりしてたたきました。そしてビンのクラーベと、モリーナの踊りとパンデイロ演奏は続き、だんだんさらに激しく速くなっていき、クライマックスの時に、その男性が両手で持ってクラーベにしていたビンを思いっきりぶつけて叩き割って、ガラスの破片がバーンと飛び散りました。一瞬、舞台上にすごい緊張感が漂い、見ていて危なかったですが場をひきしめる効果がてきめんでした。
そして男性のパルマスに囲まれながら、モリーナはさらに速打ちの激しいサパテアードを続けながらパンデイロをたたき続け、見事に演奏も踊りもきまっていたため、会場は盛り上がり、客席からはキャーッというような歓声と拍手が湧き起こりました。
ギターのソロ演奏が始まり、パーカッションの男性がカホンをたたき、ギターの男性が歌も歌って、すごい迫力の演奏がしばらく続きました。モリーナが登場して、また静かな踊りからだんだんスピードを上げて、激しく大きなサパテアードを続け、すごい拍手に包まれました。そして、カホンの男性と向かい合わせでカホンをはさんで反対側にモリーナが立ち、そのカホンを2人でたたいてリズムを演奏し始めました。モリーナはそのカホンを、両手だけでなく足でもたたいて音をだして演奏し、複雑なリズム音が多重で鳴っていて、またもやすごい拍手が起こりました。

カホンとギターの演奏がさらに続き、モリーナは激しい踊り、サパテアードをさらに強い迫力でふりしぼるように踊り続けました。すごいスタミナです。それは恍惚としていて音も大きくて迫力があり、神がかっているようでした。
やがてミュージシャンたちが消えて、モリーナが1人舞台上に残り、ゆっくりしたサパテアードで音にエコーがかかっていて、音が重なっていきました。そのエコーの音に合わせて、モリーナは手、指、頭などをカクカクカクと動かし続け、不思議な踊りをしていました。そして照明が消えて、ものすごい拍手でした。
とても1時間半も経ったようには感じられなく、次々と楽しい新しい展開が続いて、夢中になった公演でした。
(2016年3月17日夜 ニューヨーク・シティ・センター)

(C) Luis C Ribeiro

(C) Luis C Ribeiro

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