様々なスペイン舞踊のエッセンスを修正した、スペイン国立バレエ団の『セビリア組曲』
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Flamenco Festival 2018 Ballet Nacional De Espana
「フラメンコ・フェスティバル 2018」スペイン国立バレエ団
" SUITE SEVILLA " by Antonio Najarro
『セビリア組曲』アントニオ・ナハーロ:振付
今年で18回目のフラメンコ・フェスティバルは、3つのダンス・カンパニーがスペインから招聘されています。ニューヨークでも毎年好評で世界何箇所かを巡回する、スペイン政府などが主催のフラメンコ・フェスティバルは、スペインで最高の実力派フラメンコを観ることが出来ます。
回を重ねるごとに、年々ニューヨークで人気が上がり、観客動員数が伸びていて、フェスティバルの開催日数と公演数が増えています。
今回最初のプログラムには、1978年に設立されたスペイン国立バレエ団がやってきました。設立時の初代芸術監督はアントニオ・ガデスで、現在の芸術監督は2011年からアントニオ・ナハーロです。
『セビリア組曲』は、アントニオ・ナハーロ監督が、優れたフラメンコ・ギタリストある、セビリア出身のラファエル・リケーニの曲に振付けました。彼は、セビリアの街並みとその文化やお祝いのハイライトからインスパイアされ、振付を練り、様々なスペイン舞踊のスタイルによって振付けました。ですからこの作品を通じて、様々なスペイン舞踊のエッセンスを同時に味わうことができます。クラシコ・エスパニョール(スペイン古典舞踊)やフラメンコも含めた様々なスペイン舞踊が渾然として、洗練された舞台作品となっています。
今回の公演では、『セビリア組曲』は、セビリアの風物詩を集めたような12曲の小品集として構成されています。「フェリア」「カジェ・デル・インフィエルノ」「ラ・アルファルファ」「エスペランサ」「エル・エンシエロ」「ラ・ペスカ・デル・アトゥン」「マエストランサ」「プエルト・デ・トリアナ」「ソレア・デル・マントン」「バイラオール」「パセオ・デ・エンスエーニョ」「フビロ」です。
Ballet Nacional De Espana " SUITE SEVILLA "
Photo © Stanislav Belyaevsky
最初の「フェリア」は、幕が下少し50センチくらい開いて、その空間に9組の男女の舞踊手たちが交互に1列に並んで、しゃがんだ状態で顔は出さずに両手だけを出していました。そして両手にはカスタネットが握られていて、いっせいにカスタネットをかき鳴らしました。床にもカスタネットをぶつけて鳴らしました。これは、毎年「フェリア」を楽しみにしている地元の人々の待ち遠しさ、春と「フェリア」の始まりを表しているのではないかと感じました。この演出はとても印象に残っています。
しばらくして幕が全て開きました。金色と黒の衣装を身につけた先ほどのダンサーたちがカスタネットを鳴らしながら踊りました。「フェリア」(春祭り)の楽しく明るいイメージを表現していました。
舞台後方にはミュージシャンたちが横一列に並んでいました。そして後方の舞台セットは大きな丸い日の丸のような円が映し出されていて、その円の中の風景やデザイン、色が、作品とともに変化していきました。
Ballet Nacional De Espana " SUITE SEVILLA " Photo © Josep Aznar
「カジェ・デル・インフィエルノ」は、バイラオーラのソロで、カスタネットを手に持って鳴らしながら、バレエシューズで踊りました。鮮やかなブルーのスカートの丈はひざ下くらいの短めで、足の動きがよく見える衣装でした。バレエ・ベースのスペイン舞踊で、バイラオーラはバレエの踊りの基礎がしっかりしていて、華やかでした。バレエの要素が強く、楽しそうな躍動感のある踊りでした。
「ラ・アルファルファ」は、信仰心の厚いスペインらしくて、とても印象的でした。頭まで覆った黒装束の男性たちは腰にも黒いヒモをぐるぐる巻きにしていて黒いタッセルを垂らしたいでたちで、しずしずと歩いて出てきました。黒い衣装に黒いアバニコを持った女性たちも出てきて踊りました。16世紀から始まった、春のセビリアの聖週間(セマーナ・サンタ)で、街中を各教会のキリスト像とマリア像の大きなお神輿を人々がかついで行列で練り歩く行事のことを踊りで表現しています。
「エスペランサ」は、聖週間の行列の表現の続きでしょう。聖母エスペランサに扮した一人の白い衣装の女性が、大勢の男性たちに担ぎ上げられていきました。このエスペランサというのは、おそらく、セビリアの聖週間で一番人気があるお神輿として担ぎ出される聖母像の、マカレナ教会のビルヘン・デ・ラ・エスペランサ・マカレナ(聖母エスペランサ・マカレナ)のことだろうなと思いました。このビルヘン・デ・ラ・エスペランサ・マカレナ聖母像は、スペインでもよく写真で見かけるものです。
ここまでは春の季節のセビリアの代表的な行事を連ねて、踊りで表現していました。 途中で「マエストランサ」では流れが変わり、雰囲気の違う現代的な作品を挿入していました。舞台全体の中盤でアクセントになりました。セビリアのマエストランサ闘牛場を表現しているのでしょう。豪華で仰々しい闘牛士の衣装を着たバイラオールと、セクシーな牛に扮したバイラオーラが登場しました。バイラオーラは、黒い全身タイツのようなピッタリした衣装を着ていて、両手の人差し指で角を作って突進していき、牛であることを表現していました。スペイン的な荒々しい伝統の闘牛を、男女の愛に見立てているようにパレハ(ペア)で踊り、戦いから男女愛へとテーマを昇華させていました。
「プエルト・デ・トリアナ」は6人のバイラオーラが、長めのドレスの白いバタ・デ・コーラを着てアバニコをはためかせて踊りました。これもバレエの要素がかなり多くて、180度のグランバットマンやピルエットなどの回転をたくさん入れていました。
Ballet Nacional De Espana " SUITE SEVILLA " Photo © Josep Aznar
ソレア・デル・マントン」はバイラオーラのソロ。圧巻でした。大判のマントンをはためかせて踊り続けました。
「バイラオール」は文字通り、男性たちが5名でてきて、カスタネットをかき鳴らしながら力強く踊りました。彼らはバレエの基礎がしっかりしているので、身体の中心軸がしっかりしていて姿勢が良かったです。サパテアードが中心でした。揃って同じ振付を踊って、息が合っていました。 「パセオ・デ・エンスエーニョ」はロマンティックな男女のパレハでした。女性は長めのバタ・デ・コーラを着ていました。振付はバレエとコンテンポラリーの要素も多かったです。リフトもありました。
最後の「フビロ」は、フィナーレです。大勢の舞踊手たちが順番に出てきて、華やかな群舞が続きました。まず男性たちがカスタネットを鳴らしながら踊り、女性6名がバレエ風の振付で踊りました。アラベスクや回転もあり、舞踊手たちが入れ替わり、男性3名、女性5名の群舞となりました。バレエ・ベースの踊りの中にサパテアードを入れていて、フラメンコの要素も表現していました。最後は30人以上の舞踊手がいっせいに出てきて、舞台中を埋め尽くした群舞で迫力がありました。
☆(2018年3月4日夜 ニューヨーク・シティー・センター)
Ballet Nacional De Espana " SUITE SEVILLA "
Photo © Woo LG Arts
ワールドレポート/ニューヨーク
- [ライター]
- ブルーシャ西村