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NYCBが芸術監督マーティンス辞任後、最初の公演となる3人の振付家による小品集を上演

New York City Ballet ニューヨーク・シティ・バレエ

"The Red Violin" by Peter Martins, "dance odyssey" by Peter Walker, "Russian Seasons" by Alexei Ratmansky.
『赤いバイオリン』 ピーター・マーティンス:振付、『ダンス放浪』 ピーター・ウォーカー:振付、『ロシアの季節』 アレクセイ・ラトマンスキー:振付

ニューヨーク・シティ・バレエの冬の公演を見た。このシーズンは今年1月1日に過去30年間芸術監督を務めて来たピーター・マーティンス(Peter Martins)が突然辞任したため、ジョナサン・スタッフォード(Jonathan Stafford)、ジャスティン・ペック(Justin Peck)、クレイグ・ホール(Craig Hall)、レベッカ・クローン(Rebecca Krohn)の4人の元シティ・バレエダンサーたちによる暫定芸術チームの監修のもと実施される、初めての公演となった。

この日はピーター・マーティンス(Peter Martins)振付の『赤いバイオリン(The Red Violin)』で幕開けした。赤、紫、青、黄の4色のミニドレスを着た女性とそれぞれのパートナーによる、4組のカップルのダンスとなっている。この作品は作曲家ジョン・コリグリアノ(John Corigliano)の『バイオリンとオーケストラのためのコンチェルト』という曲を1998年の『赤いバイオリン』という映画のためにコリグリアノ自身が編曲したものに、マーティンスが振付けたもの。基本的に音楽の視覚化で、これと言って主張や物語がある訳でもなく、リフトと困難なテクニックの展開である。振付上バイオリン・ソロ(バイオリン演奏:カート・ニッカネン/Kurt Nikkanen)にこだわったとは感じられなかった。しかし、赤い衣裳で踊ってリードしたソリストのユニティ・フェラン(Unity Phelan)が素晴らしい踊りを見せた。相手役のプリンシパルのチェイス・フィンレイ(Chase Finlay)とのパートナリングも巧みで、力学をうまく使っており、二人が一つになって見えた。ピルエットやリフトがふんだんに取り入れられて、アスレチックながら優雅な作品に仕上がっていた。

Unity Phelan and Megan LeCrone in Peter Martins' The Red Violin Photo by Paul Kolnik

Unity Phelan and Megan LeCrone
in Peter Martins' The Red Violin
Photo by Paul Kolnik

Tiler Peck and Zachary Catazaro in Peter Walker's dance odyssey Photo by Paul Kolnik

Tiler Peck and Zachary Catazaro in Peter Walker's dance odyssey Photo by Paul Kolnik

次に踊られたのは、NYCBのコール・ド・バレエに所属するピーター・ウォーカー(Peter Walker)の作品、『ダンス放浪(dance odyssey)』。この日はリードダンサーの一人のエイドリアン・ダンチグ・ウェアリング(Adrian Danchig-Waring)が出演できなかったため、ウォーカー自身が代役として出演、アシュリー・ララシー(Ashley Laracey)の相手を踊った。 まず最初に観客を注目させたのは、テンポの速い音楽(作曲:オリヴァー・ディヴィス/Oliver Davis)が始まると、まだ降りたままの緞帳の裾に照明が当たってチカチカと光るユニークな試みだ。そして斜めに走る光る曲線が入った背景を前に、音楽を良く理解した振付が展開した。二組のリードカップルと二人の男性ソリスト、そして男女それぞれ3人ずつのコール・ド・バレエが、時に戯れ合いの様に、時に仲間に手の指を振りながらムーンウォークのように踊るなど、茶目っ気を交えるかと思うと、女性が頭上高くリフトされたり、他にも大きな困難な振りも含まれている。前で踊るリードダンサーの振りだけでなく、後ろのコール・ドの振りにも優れたものが見られた。

Lauren King and Company in Peter Walker's dance odyssey Photo by Paul Kolnik

Lauren King and Company
in Peter Walker's dance odyssey
Photo by Paul Kolnik

バレエの域を踏み出さず、奇異に走らず、観客には親しみやすい優しい振付けだ。そして全編を通じて感じたのが作家の優れた音楽性だった。ララシーとウォーカーのカップルは長いラインで美しい象形を作り出し、もう一つのカップルを踊ったタイラー・ペック(Tiler Peck)とザッカリー・カタラゾ(Zachary Catazaro)のカップルは、強い回転が印象的だった。また楽しみな振付家が生まれたようだ。

この日の最後を飾ったのは、NYCB出身で現在ABTの専属振付家、アレクセイ・ラトマンスキー(Alexei Ratmansky)の振付『ロシアの季節(Russian Season)』であった。これは作曲家のレオニード・ドゥシャトゥニコフ(Leonid Deshatnikov)がロシア湖畔地域の伝統音楽と言われるコレクションの中から選んだ曲を4つのコンチェルトに分け、それぞれに3つの場面を配して、ヴィヴァルディの『四季』と同様に仕立て上げたものに振付けた作品。

Kristen Segin and Troy Schumacher in Alexei Ratmansky's Russian Seasons Photo by Paul Kolnik

Kristen Segin and Troy Schumacher
in Alexei Ratmansky's Russian Seasons
Photo by Paul Kolnik

内容はオーソドックスな教会の四季の儀式に従いながら人間の愛、喪失、そして死を表現したものだという。従って、様々な人間模様が描かれた。大勢の人々が集まって交流し、カップルになって和やかに踊るかと思うと、嘆き悲しむ女性を周囲の人々が慰めるような場面があったり、一転男女が快活にユーモアを交えながら踊ったり、ロマンチックな美しい場面があったり、崩れそうな女性を3人の男性が支えながら、女性が男性たちの手のひらの上を階段を上るように登ったり(死の場面と思われる)、もうどうにもならないカップルを運命の女神が見守るような場面があったりと、ロシアの季節というタイトルでありながら、どこででも思い当たる景色が繰り広げられた。クラシックテクニックに時折ロシア民舞の振りを取り交ぜながら、抽象的な動きながら会話が見えたり、具体的に物語を表現したり、しっとりと、そしてしっかりと観客にメッセージを伝えたのは、流石はラトマンスキーだ。なお、この作品でもユニティ・フェラン(Unity Phelan)の踊りは表情豊かで、身体の使い方も丁寧で美しく、素晴らしかった。新しいスターの誕生である。
(2018年2月9日夜 David H Koch Theater)

Unity Phelan and Company in Alexei Ratmansky's Russian Seasons Photo by Paul Kolnik

Unity Phelan and Company in Alexei Ratmansky's Russian Seasons Photo by Paul Kolnik

ワールドレポート/ニューヨーク

[ライター]
三崎 恵里

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