夢の世界へ誘ってくれたNYCBのバランシン版『くるみ割り人形』

New York City Ballet ニューヨーク・シティ・バレエ

"George Balanchine's The Nutcracker" by George Balanchine
『ジョージ・バランシン'ズ・ザ・ナットクラッカー(くるみ割り人形)』ジョージ・バランシン:振付

11月24日から12月31日まで、ニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)の『ジョージ・バランシン'ズ・ザ・ナットクラッカー(くるみ割り人形)』が上演されています。毎年恒例のニューヨークのクリスマスのホリデー・シーズンの風物詩で、出演ダンサーたちは約90名。サンクスギビングデー後から1ヶ月以上、上演されます。私は初日の11月24日に観に行きました。何度か同じ演目を見ていますが、久しぶりに観て、演出や衣装や装置のデザインは少しずつ新しく変わっている様子でした。やはり何度観ても豪華絢爛なキラキラした舞台は夢のような世界で、とてもよかったです。この時期にニューヨークに滞在なさる方には、おすすめの舞台です。

音楽はチャイコフスキー作曲、ニューヨーク・シティ・バレエ・オーケストラ(約60名)の演奏です。芸術監督(Ballet Master in Chief)はピーター・マーティンス(Peter Martins)、2幕構成で上演時間は約90分でした。
主なキャスト、プリンシパルは、金平糖の精はミーガン・フェアチャイルド(Megan Fairchild)、カバリエールはホアキン・デ・ルース(Joaquin De Luz)、露のしずくの精はアシュリー・ボーダー(Ashley Bourder)。ドクター・シュタールバウム(主人)はアスク・ラ・コール(Ask la Cour)、ドロッセルマイヤーはロバート・ラ・フォス(Robert La Fosse)です。子役のマリー(第1幕)とリトルプリンセス(第2幕)はアレックス・グレイソン、フリッツはベンジャミン・グリフィン、くるみ割り人形(第1幕)とリトルプリンス(第2幕)はアーロン・プラス。NYCBのバランシン版では、マリーを子供が演じ、金平糖の精を大人が踊ります。

(C) Paul Kolnik

(C) Paul Kolnik

(C) Paul Kolnik

(C) Paul Kolnik

第一幕は、最初幕が開くと、雪景色の街の上空を羽がついた天使と流れ星が飛んでいる風景が描いてある幕が舞台を覆っていて、その絵の幕に序曲が演奏され、想像力が膨らみます。
そして、シュタールバウム家でクリスマス・イヴのパーティのシーンが始まります。シュタールバウム家の子どものマリーとフリッツが、壁の向こう側でパーティの準備をしている居間をドアの鍵穴からのぞき見ていました。薄い半透明の壁が描かれている紗幕が全体を覆っていて、舞台奥から当たるライトの加減によって、壁の向こう側がうっすら透けて見える仕組みです。
やがてシュタールバウム家に招待された、お客様たちがたくさんやって来ました。ご夫婦と子ども連れの家族が何組も来ました。そこに、黒いマントを着て左目に眼帯をしたドロッセルマイヤーが3つの大きなプレゼントの箱を持って到着しました。
親たち、子どもたち大勢がみんなで手をつないでぐるぐる周って踊りました。パーティらしい、集団で楽しむギャロップです。ツリーの横にある大きな古時計は、大きなフクロウのオブジェが乗っていて、時計が鳴る度に、フクロウの羽が左右に開く仕組みです。
ドロッセルマイヤーが大きな箱を2個空けると、中から男女2体の人形(ダンサーは大人)が出てきて、彼はその背中についているネジを巻きました。すると、カクカクと動く人形の踊りが始まりました。3つ目の箱からくるみ割り人形(ダンサーは大人)が取り出され、ドロッセルマイヤーがその背中のネジを巻くと、くるみ割り人形が踊り始めました。
そして3つのプレゼントの箱の3体の人形の踊りが終わると、また箱にしまわれてしいました。

ドロッセルマイヤーは子どもたちを集めて、くるみ割り人形を手に持って1個ずつくるみを割って、子供たちに順番にあげました。マリーが交代してくるみ割り人形でくるみを割っていると、フリッツがそれを力づくで奪ってブンブン振り回して、床に落っことして壊してしまいました。悲しむマリーのために、ドロッセルマイヤーは傷ついたくるみ割り人形を、包帯の代わりにハンカチで巻いてあげましました。マリーはそれを小さな人形用の白いベッドに寝かせました。
そしてまた親たち、子どもたちでギャロップを踊りました。パーティーが終わり、皆帰っていきました。
マリーはくるみ割り人形を抱えてソファーで眠ってしまっています。そこにドロッセルマイヤーがそっと出てきて、マリーの腕からくるみ割り人形を手にとって、ネジを回して直して調整し、そっとマリーの腕に戻して、帰っていきました。

(C) Paul Kolnik

(C) Paul Kolnik

真夜中の12時の時計が鳴ると、クリスマスツリーが点滅し始めて、ピカピカ光り、ドロッセルマイヤーは時計のフクロウの上に乗り、マントをひるがえします。するとネズミたちが何匹ずつか出てきました。そしてツリーはどんどん上に伸びて横幅も広くなり、大きくなっていきました。くるみ割り人形とベッドも大きくなりました。おもちゃの兵隊たちとマリーは同じ背丈くらいになりました。
これは、マリーが人形やねずみのように小さくなったという設定を、NYCBではクリスマスツリーが巨大化することによって表現しています。この大きくなるクリスマスツリーは、NYCBの演出として有名です。重さ約1トンのクリスマスツリーが舞台の天井高く約12メートルまで大きくなりました。

(C) Paul Kolnik

(C) Paul Kolnik

たくさんのネズミたちとネズミのキングと、くるみ割り人形(子供、)が戦って、最後にくるみ割り人形がネズミのキングを倒して勝ちました。くるみ割り人形はネズミのキングから王冠を取りました。
マリーは人形のベッドに眠っているまま、舞台は屋外の雪景色のセットになり、そのベッドは舞台上の真ん中でクルクルと周り、外は吹雪で包まれていきました。くるみ割り人形は人間の男の子の姿に変わり、マリーにあのネズミのキングを倒した時の王冠を着けてあげました。
そして雪の精が1人、2人、また2人と少しずつ出てきては去り、やがて大勢のコール・ド・バレエとなって踊りました。舞台セットの吹雪はますます強くなり、量も多くなっていきました。雪の精は4名ずつの踊りをしばらくくり返し、速いテンポで踊りました。また次の8名も続いて、両手にポンポンを持って、シェネを続けて移動し続けて踊ります。この雪の精の踊りは、音楽も幻想的なコーラス入りで夢の世界のようです。私はダンサー16名で踊ったこのシーンが一番印象に残っています。
マリーとくるみ割り人形の少年が手をつないで後ろを向いて歩いていき、幕が閉じました。

(C) Paul Kolnik

(C) Paul Kolnik

第2幕は、お菓子の国のシーンです。白いロングドレスを着た子どもたちのエンジェルが大勢でてきて、すべるようにしずしずと床を移動して踊りました。ロシアのフォークダンスのベリョースカのような動きです。マリーとくるみ割り人形が返信したリトルプリンスは招待されて、舞台後ろ真ん中に座っています。
手にコメットを持って金平糖の精がソロで踊りました。フェアチャイルドは可憐で軽やかに踊り、動きに余裕がありました。
そして招待されている各国のプリンセスたちとお付の人々が、順番に出てきてディヴェルティスマンを踊り、金平糖の精に丁寧に挨拶しました。
スペインのボレロの踊り(チョコレート)、アラビアのコモードの踊り(コーヒー)、中国の踊り(お茶)、ロシアのトレパックの踊り(キャンディーケーン)、マジパンの踊り(葦笛)、マザー・ジンジャーと道化たち、露のしずくの精と花のワルツが続きました。
アラビアのコーヒーの踊りは美しい女性のソロで、両足に鈴をつけて、両手にもリンのような金属製の楽器を着けて、音を鳴らしながら踊りました。メリハリのある元気な踊り方でした。最後は床に180度開脚してポーズを取り、拍手を浴びていました。
マザー・ジンジャーと道化たちは、巨大なスカートをはいた女装した男性ダンサーが横向きに歩いて出てきました。スカートの中から大勢の子どもたちが出てきて、8人の子どもたちが踊り、また全員、スカートの中に入って帰っていきました。
花のワルツのシーンで踊られた、露のしずくの精のボーダーのソロは見事でした。軸が安定していて、回転が巧みでテキパキとして元気のいい踊りでした。

(C) Paul Kolnik

(C) Paul Kolnik

(C) Paul Kolnik

(C) Paul Kolnik

金平糖の精とカバリエールのパ・ド・ドゥは、フェアチャイルドとデ・ルースでしたが、とても魅力的でした。フェアチャイルドがアラベスクをしたままの状態で、デ・ルースが肩の上にリフトして、ズズズと右から左へ横にすべって移動して見せました。すごい拍手が湧き上がりました。ヴァリエーションではデ・ルースが大きなジャンプをたくさん入れて踊りました。デ・ルースは高いジャンプをしても着地時にまったくといっていいほど音を立てません。上半身を強く上にキープしていて、重心をぶらさずに踊っていました。フェアチャイルドは、多くのピルエットを入れて踊りました。そして二人で交互に大技、グランフェッテやピルエット、シェネなど回転をたくさん入れて踊り、舞台を大いに盛り上げました。
マリーとリトルプリンスの二人だけが舞台上の宙をソリに乗って天に昇って行きました。
久しぶりにNYCBの『くるみ割り人形』を観て、ゴージャスで夢心地の世界へ飛ぶことができ、とても楽しかったです。
(2017年11月24日夜 David H. Koch Theater)

(C) Paul Kolnik

(C) Paul Kolnik

ワールドレポート/ニューヨーク

[ライター]
ブルーシャ西村

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