ディアナ・ヴィシニョーワがABT引退公演でマルセロ・ゴメスとタチアナ役を踊り喝采に包まれた
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AMERICAN BALLET THEATRE(ABT) アメリカン・バレエ・シアター
"Onegin" by Johon Cranko 『オネーギン』ジョン・クランコ:振付
2003年に初めてアメリカン・バレエ・シアターに客演として招かれ、その後2005年にプリンシパルとして入団したディアナ・ヴィシニョーワ。彼女が入団して初めてABTで『ドン・キホーテ』のキトリを踊った時のあの驚きと衝撃は今でも忘れられません。なんてすごいバレリーナがこの世にはいたんだろうか、彼女は同じ人間なのか? と思いました。
そして2017年6月21日、ディアナのABT引退公演が行われました。自らのABTの引退を決めたディアナですが踊ることを止めるわけではありませんが、今後、彼女が全幕バレエを踊る機会は少なくなっていくようです。
会場にはたくさんのディアナのファンが訪れ、ロシア語があちらこちらから聞こえてきました。引退の演目は『オネーギン』、そのオネーギン役はマルセロ・ゴメス。この二人の踊りは私も何度も見てきましたが、互いに信頼し合い技術もトップで最も素晴らしいペア、ベストパートナーだと言って良いと思います。
Diana Vishneva and Marcelo Gomes in Onegin. Photo: Gene Schiavone.
ディアナが引退公演に、このドラマティックなバレエをマルセロと踊ることを選んだのはとても納得できます。
この日のキャストはレンスキーにブレイン・ホーヴェン、オルガにイザベラ・ボイルストンで、この二人も役柄にとてもよく合っていました。イザベラはオルガを茶目っ気たっぷりで元気に演じて可愛らしく、ブレインが演じたレンスキーとの若々しいカップルの印象はとてもよかったです。イザベラはプリンシパルになってもうすぐ3年になります。以前は元気さばかりが印象に残りましたが、今は演じ方も技術もとても成長して素晴らしいダンサーになったと思いました。特に『オネーギン』は複雑な難しいパートナリング技術がたくさん入った振付だと思いますが、スムーズで不安なくラインも美しくかったです。相手役のブレインも素晴らしい踊りで、私が今まで見た彼の踊りの中で一番良い踊りでした。つま先も綺麗で鍛えられた足の筋肉に目が行きました。回転のコントロールも良ければジャンプも美しいですし、今後はイザベラとブレインにもっと注目したいと思いました。
そしてディアナとマルセロ。この二人は期待通りでした。さすがです。息がぴったりと合い、水のように風のように、本来ならばとても難しいパ・ド・ドゥなのに技術的なことなど全く考えないで感情に没頭して踊れるのは、この二人が揃った時だけではないかと思いました。彼ら自身がここまで感情移入して踊れるのですから、見ている客席も飲み込まれるのは当然です。
そしてやはりマルセロのパートナリングの技術の高さが女性を安心させ自由に踊ることを許し、また女性の美しさを立てるのだと思います。二人のパ・ド・ドゥの最中は会場全体が一体になりストーリーに引き込まれ二人に没頭していたと思います。
Diana Vishneva at the curtain call after her ABT farewell.
Photo: Gene Schiavone.
私の中で一番良かったのは3幕の最後のパ・ド・ドゥです。二人が結ばれたい、結ばれたかった、過去の自分たち、そして今の自分たち、愛し合いながら葛藤しながら踊る二人の苦しく何とも言えない感情表現が堪らなく素晴らしかったです。動きと表情だけで本当にセリフが聞こえるようで、バレエを見ていることを忘れ感動ドラマを見ているような気持ちになりました。
また、このバレエはセットも衣装もとても豪華で美しく、そして振付けたジョン・クランコは天才的に素晴らしいと思います。この日のキャストはそのすべてを生かしてくれました。
終演後はプリンシパル一人一人がディアナに花束を持って舞台上に集まり、会場全体からディアナを惜しむ拍手と称賛する拍手が鳴り続きました。
(2017年6月23日 メトロポリタンオペラハウス)
Diana Vishneva at the curtain call after her ABT farewell. Photo: Gene Schiavone.
ワールドレポート/ニューヨーク
- [ライター]
- 針山 真実