この日はアメリカン・バレエ・シアターの『ドン・キホーテ』公演でソリストのクリスティーン・シェフチェンコがキトリ役、そしてコール・ド・バレエの小川華歩がフラワーガール役としてデビューをする日でした。
クリスティーンはウクライナ出身で8歳でアメリカに移住、2006年にABTのスタジオ・カンパニーに入団。実は私は、彼女がコールドバレエの頃からお気に入りでソリストに昇格したときも嬉しく思っていました。バレエ・トレーニングはアメリカで受けたものの、踊りはロシア・トレーニングが見られ胸元が華やか、コール・ド・バレエで踊っている時からよく目立っていました。この日のキトリ役デビュー、1幕のキトリの登場シーンでは少し緊張した様に見受けられ、彼女ならもっと派手に踊れると感じました。ジャンプも良く飛び、足の高さもあり素晴らしいのですがどこか硬さを感じました。第1幕のバジルを踊ったアルバン・レンドロフとのパートナリングも、少し不安定さが見られ二人とも緊張していたのかもしれません。

Christine Shevchenko and Alban Lendorf in Don Quixote. Photo: Rosalie O'Connor.
「ドン・キホーテ」クリスティーン・シェフチェンコ、アルバン・レンドロフ

第1幕のキトリのヴァリエーションの頃には緊張も解けたようで、クリスティーンは思い切りのある切れ味の良い踊りを見せ、会場を沸かせました。バジル役のアルバンは回転に軸がありテクニックは素晴らしく感心させられましたが、バジルのヴァリエーションでは滑って手をついてしまったのが残念でした。
第2幕で印象に残ったのはジプシー役のジャオ・ジャング。高さのあるジャンプにスピード感のある回転テクニック、音に気持ちよく決まる切れ味の良い踊り方でとても爽快でした。そしてドルシネア姫となったクリスティーンのヴァリエーションは一つ一つのポーズが美しく、バランスも一つ一つ見せ、手足の使い方も丁寧で美しかったです。最後のピケ・マネージはスピードに乗って素晴らしいヴァリエーションでした。この時は彼女はやはりお姫様が似合うと思いました。 第3幕の結婚の場。ソロ・ヴァリエーションを踊った小川は、少し踊り方が控えめな印象ではありましたが、美しく丁寧な踊りで良いデビューを飾りました。
キトリとバジルのパ・ド・ドゥでは、二人の息も合いクリスティーンらしい伸び伸びとした踊りが見られました。少しバジルのヴァリエーションではアルバンが疲れているように感じましたが、コーダになると勢いが復活し、クリスティーンも扇子を持ってダブルターンを入れたフェッテ32回をしっかりと決めて最後は大いに盛り上げました。この日のデビューのためにクリスティーンの親族や友人、ファンがたくさん会場に集まり大きな歓声を送りました。
追記ですが翌日キトリを踊ることに予定されていたジリアン・マーフィーが怪我のためクリスティンが代役として再びキトリを踊ることになり、二日連続でのキトリを踊りました。二日目は一日目よりもさらにパワーアップしたキトリを踊り見事なデビューを果たしたそうです。
（2017年5月17日昼　メトロポリタンオペラハウス）

Devon Teuscher and Blaine Hoven in Don Quixote. Photo: Rosalie O'Connor.
「ドン・キホーテ」デヴォン・トゥーシャー、ブレイン・ホーヴェン

ワールドレポート／ニューヨーク

［ライター］

針山 真実