独自の動きと宇宙的な美術映像を構成したボカアー&アルシャムの衝撃的なダンス、BAMより

Jonah Bokaer and Daniel Arsham ジョナ・ボカアー&ダニエル・アルシャム "Rules Of The Game" 『ルールズ・オブ・ザ・ゲーム』

Jonah Bokaer and Daniel Arsham wth an original score by Pharrell Williams arranged and co-composed by David Campbell ジョナ・ボカアー&ダニエル・アルシャム、ファレル・ウィリアムス作曲、ディヴィッド・キャンベル編曲

11月10日から12日まで、BAMのハワード・ジルマン・オペラ・ハウスにて、『ルールズ・オブ・ザ・ゲーム』の公演が行われました。振付家ジョナ・ボカアーとヴィジュアル・アーティストのダニエル・アルシャム、作曲家ファレル・ウィリアムスの3人のアーティストたちのコラボレーションによって出来上がった作品です。ジョナ・ボカアーとヴダニエル・アルシャムは長い間、芸術的なパートナーで、作曲家、音楽プロデューサーであるファレル・ウィリアムスは新しく加わったパートナーです。デヴィッド・キャンベルはウィリアムスの音楽の譜面をオーケストラ化してアレンジしなおし、ダラスの世界初演時には、彼が指揮してダラス・シンフォニー・オーケストラが演奏しました。

ジョナ・ボカアーはチュニジアとアメリカのハーフで、ニューヨーク州イサカ出身、1981年生まれの35歳です。チュニジア人の祖父はレイモンド・ボウカラというダイナミックなダンサーで、アメリカ人の祖父はアーサー・リスゴーという俳優、舞台監督だったそうです。両方の祖父の血を引いているため、ボカアー自身も運命としてその遺産を持って生まれ、ダンサーになったのかもしれないと語っています。

『RULES OF THE GAME』(C)  Stephanie Berger

『RULES OF THE GAME』(C) Stephanie Berger

ボカアーは2002年から、振付家、展示アーティストとして活動し始めました。ボカアーは57作品を作っており、振付だけではなく、ビデオ、オペラ、美術館(グッゲンハイム美術館など)のインスタレーション、映像作品など、マルチな分野に渡って活動しています。そして世界30カ国とアメリカ国内24カ所で作品をプロデュースしており、ニューヨーク・タイムズは、「コンテンポラリー・ダンスのルネッサンス・マン」と称しています。
ダニエル・アルシャムはオハイオ州クリーブランド生まれでマイアミ育ち、1980年生まれ36歳で、ニューヨークのクーパー・ユニオン(美大)出身の、ニューヨークをベースとして活動しているアーティストです。アート、建築、パフォーマンスの分野にまたがってマルチな作品作りをチャレンジし続けています。在学中から、マース・カニングハム・ダンス・カンパニーの舞台デザインを担当しました。その後も舞台デザインを続けています。今回のボカアーの舞台では、舞台後方全体に流されている映像も製作しています。
ファレル・ウィリアムスはバージニア州バージニアビーチ出身の音楽プロデューサー、作曲家、歌手、MC、ファッションデザイナーです。
ボカアー、アルシャム、ウィリアムスの3人とも、マルチアーティストとして多分野にまたがって製作活動をしているという共通点があります。

この公演は3つの作品が上演されました。3つの演目のうち、世界初演の演目と印象に残った1つ目の演目について書きます。
出演ダンサーは9名です。衣装デザインは『リセス』『ホワイ・パターンズ』は、ニューヨーク出身の気鋭のアジア系デザイナー、リチャード・チャイで、かつてはマーク・ジェイコブスのデザイン・ディレクターを務めていた実力派です。

最初に上演された『リセス』(RECESS)で、2010年初演。音楽は、Stavros Gasparatosです。ダンサーは、ジョナ・ボカアー本人が主で、他は男性1名です。3作品のうち、この作品に一番衝撃を受けました。ボカアー本人によるパフォーマンスが際立って良かったからです。ほとんどソロで踊っていましたが、広い舞台上で1人でも十分で迫力がありました。振付家本人が踊ると、より説得力があるため伝わってきやすいこともあります。ボカアーは肉体的にも恵まれていて、手足がとても長く長身でスタイルも良いので、一つ一つの動きが美しく映えていました。体も柔らかく、ダンサーとしての才能も高く、ダンスの鍛錬を積んだ身体のキレが良く、表現力が素晴らしかったです。とても絵になるダンサーでした。
また、美術のインスタレーションとダンスを融合させたような作品で興味深かったです。うす暗い舞台で、洞穴の中のように、天井から一筋のうすい光が差し込んでくるような照明でした。衣装は上下黒の、シンプルなロングパンツとシャツでした。
舞台上の巨大な紙のロールを動きながら広げていき、その紙の上に寝転がってから自分の足元の方へすべって下がっていって、紙の端を手で持って立ち上がり、広げたロール紙の途中で90度に曲げました。
踊りはパントマイムのような感じで、なめらかな身体の動きがずっと続きました。メリハリが良く、動いたり静止したり、その間合いもピッタリきまっていました。
紙をまっすぐに引っ張って伸ばしたり、紙の上をはいつくばってすべったりしました。そして、紙を折ってぐちゃぐちゃにして、歩いて紙を引っ張ったり立てたり、紙を持って飛び跳ねたりして、立体的に山か壁のように盛り上げていました。そして紙の真ん中で縦にベリベリと破っていました。
そのように大きなロール紙を使って延ばしたり広げたり、折ったり立てたり、破ったりしながら、舞台上を紙とともに大きく動いて、なめらかに続く不思議な踊りやパントマイムのようなパフォーマンスが続きました。移動、歩く時は、ペタペタ・・・と、等間隔で足速に無表情で動きました。顔は無表情でビクともしないまま、淡々と踊り演じていました。不思議な雰囲気の踊りでした。この作品が一番、印象に残りました。

この公演のメインの演目は、3つ目の『ルールズ・オブ・ザ・ゲーム』(RULES OF THE GAME)で、昨年初演です。これは、ジョナ・ボカアー(振付)、ダニエル・アルシャム(舞台美術)とファレル・ウィリアムス(作曲音楽)の3人の共同作業で創られた作品です。ノーベル賞受賞イタリア人劇作家のルイジ・ピランデルロ(Luigi Pirandello)による、演劇作品の『団体競技』("Il gioco delle parti")(1918年)と『作者を探す6人の登場人物』(Sei Personaggi in cerca d'aufore)(1921年) にインスパイアされて作った、8人のダンサーのための作品です。出演ダンサーは男性4名、女性4名です。音楽はファレル・ウィリアムスです。

『RULES OF THE GAME』(C) Stephanie Berger

『RULES OF THE GAME』(C) Stephanie Berger

舞台後方は一面、スクリーンのように使われていて、映像が大きく映っていました。ダンサーたちは裸足で、顔も白塗りふうのメイクで、無表情のまま淡々と踊っていました。衣装は大きめのフード付のコートなどでした。途中、そのフードをかぶって顔があまり見えない状態で動くところもありました。
8人のダンサーたちは、動き続ける背景の映像に対して踊りました。この背景に使われている、古代の胸像と月面を示唆している外側がセラミック(陶器)で覆われているバスケットボールの映像は、アルシャムが制作ですが、それぞれが機知に富んでいて、憂慮すべきものであり、詩的で、暴力的で、愛情がこもった状態を表現しているそうです。そしてまた、過去と未来を、時にはその両方を融合させた状態を示唆しています。
振付はリフトも多用されていて、組体操のように2〜3人が、人の上に人が重なって積み上がったりするところもありました。後ろの人が前の人の腰をつかんでいたり、2人ごとくらいに連なって動いたりしていました。踊りは、パントマイムのような演技が多く、しかもずっと不思議なダンスも続いていました。同じリズムの間隔でずっと細かい動きが続く感じです。

『RULES OF THE GAME』(C) Stephanie Berger

『RULES OF THE GAME』(C) Stephanie Berger

『RULES OF THE GAME』(C) Stephanie Berger

『RULES OF THE GAME』(C) Stephanie Berger

『RULES OF THE GAME』(C) Stephanie Berger

『RULES OF THE GAME』(C) Stephanie Berger

『RULES OF THE GAME』(C) Stephanie Berger

『RULES OF THE GAME』(C) Stephanie Berger

舞台上にも映像にも、バスケットボールが置かれていて、その表面はでこぼこしていて月面のようです。映像の中のバスケットボールは陶器でできていて、スローモーションの映像でボール同士がぶつかって割れたり、落ちて割れて飛び散っていました。映像には、バスケットボールの他に、ギリシャ彫刻のような胸像もあり、それも中は空洞で陶器のようなもので、同じようにスローモーションで落ちて割れたり、またスローで巻き戻っていき、元通りの彫刻に戻ったりしていました。破壊と創造を表していると思いました。
後方の大きな映像とダンサーたちの動きと、両方とも迫力があり、映像はダンスの添え物という感じではありません。映像も宇宙的なアート作品として際立っていました。音楽もすごく大きな音量でした。迫力がある、不思議な世界のダンスのようで面白かったです。
様々なアートの分野を融合させて、パントマイムのような変わった不思議な淡々と動く踊りを展開する独特のパフォーマンスは、新鮮でとても興味深かったです。新しい時代の独自のパフォーマンスだと思いました。BAMは、このような新進気鋭の面白い独自のダンス作品を招聘して上演するので目が離せません。
(2016年11月11日夜 BAM,Howard Gilman Opera House)

『RULES OF THE GAME』(C) Stephanie Berger

『RULES OF THE GAME』(C) Stephanie Berger

『RULES OF THE GAME』(C) Stephanie Berger

『RULES OF THE GAME』(C) Stephanie Berger

『RULES OF THE GAME』(C) Stephanie Berger

『RULES OF THE GAME』(C) Stephanie Berger

『RULES OF THE GAME』(C) Stephanie Berger

『RULES OF THE GAME』(C) Stephanie Berger

ワールドレポート/ニューヨーク

[ライター]
ブルーシャ西村

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