ダンサーとイルミネーションの究極のコラボレーション、限りない変幻を彩った舞台、オフ・ブロードウェイ『イルミネート』

iLuminate (Off Broadway) イルミネート(オフ・ブロードウェイ)

"iLuminate" by Miral Kotb
『イルミネート』 ミラル・コトゥブ:演出、芸術監督

ニューヨークのオフ・ブロードウエイに期間限定で上演された、ダンスとイルミネーション技術のコラボレーションの舞台、「イルミネート(iLuminate)」を見た。イルミネーションをダンサーの体に取りつけて、コンピューターで点灯をデザインして、光りでしか表現できないダンスショーという実験的な試みである。台本はミラル・コトゥブ(Miral Kotb)とアテナ・スンガ(Athena Sunga)、演出をコトゥブが担当し、3人のミュージシャンと7人の振付家、二人の照明デザイナーが関わっていた。
一応、物語があるのでご紹介する。若いアーティストのジェイコブは、その優れた才能ゆえに現実世界と繋がるのに苦労していた。彼の魔法のブラシは彼の想像のキャラクターに息を吹き込んで実在の生物にすることができ、彼はそれを心の支えにしていた。しかし、ある町民がそれに嫉妬して彼からそのブラシを盗んで、彼が作った生物たちを恐ろしい怪物に変えてしまい、ジェイコブはブラシの魔法の力を得ずに様々な危険に面しなくてはならなくなった。魔法のブラシが今は敵の武器であることを承知しながら、彼は町と友人を護るために闘う。

舞台は当然ながら照明は使わず、ダンサーが体につけたイルミネーションの光だけで踊る、真っ暗な中での変わったショーであった。電気をコンピューター操作で点けたり消したりするので、突然一人が数人になったりする。また、ダンサーたちが縦に並んで腕だけを点灯すると、千手観音の様に見えたり、スティックが自在に飛んだり、ボールがスローモーションで飛んだりする。テキストや音符、アニメーションもイルミネーションで浮かんだ。人間が宙に浮いたり、上半身と下半身がバラバラになったり、キャラクターの手がたくさん飛んだり、どんどん増えたり、急に消えたりする。振付はバレエ、ヒップホップ、ジャズダンス、ラテンダンスと、ありとあらゆるジャンルに及んでいる。マイケル・ジャクソンの導入もあり、観客を喜ばせた。
出演者たちは顔にもイルミネーションの器具をつけ、まるで漫画のキャラクターのように見えた。バラバラの体のパーツが繋がって一人の人間になったり、その後ろからもう一人同じキャラクターが出たり、頭だけになったり全身になったりと自由自在だ。光りで調整するので、ダンサーの出入りが全く見えない。まさにアニメーションを舞台に持ち込んだ感だ。

Photo courtesy of ILuminate.

Photo courtesy of ILuminate.

ヒップホップのヘッドスピンやフロアスピンは光が華やかに流れてダイナミックに見える。イルミネーションでしかできない、あらゆる趣向を凝らすがもう一つ物足りない。次々と手を変え品を変え、速い展開で観客の意識を必死で繋いでいる様子がうかがえた。観客の巻き込み作戦も導入されていて、突然舞台にゲームボードが現れて、それを押すために観客席から子供を引っ張り出し、これにもイルミネーションのジャケットを着せて舞台に上げるなど、大変なサービスだ。

Photos courtesy of ILuminate.

Photo courtesy of ILuminate.

Photos courtesy of ILuminate.

Photo courtesy of ILuminate.

一番迫力があったのが、ゲームボードから化け物のようなフィギュアが現れ、その手がどんどん伸びたり、バラバラになったり、頭が飛んだり、光りのマジックが連続した後、舞台いっぱいにも及ぶ巨大な蛇になった場面であった。ステージがスクリーンになったようになり、キャラクターの一人が飲み込まれ、口から光の玉が飛ぶなど、圧巻の演出であった。その化け物をやっつけ、最後にファンキーに踊りあげて終わる。
ジェイコブ役のチャールズ・ウェイ(Charles Way)を含め、全部で12人のダンサーが出演している。あらゆるジャンルのダンスをこなしていたが、むしろイルミネーションなしで見たかったという気持ちも残った。 ストーリーは見ている者にはほとんどわからない。ナレーションも入っていたが、わざと音声と効果を重ねているため、何を言っているかが分からない。イルミネーションの効果の工夫は多く見られたが、やはりイルミネーションだけの光りで見せるのはかなり厳しく、終始薄暗い中での舞台という印象を拭うことができなかった。また、ストーリーの表現に欠けたため、ダンスの羅列となり、場を持たせるの苦労している感もうかがえた。インターミッションを挟んで1時間弱の上演であったが、短いとは感じなかった。イルミネーションとダンスのコラボというハイテクを駆使した画期的な企画ではあるが、様々な課題を抱えていると思われる舞台であった。
(2016年12月9日夜 New World Stages)

Photos courtesy of ILuminate.

Photo courtesy of ILuminate.

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Photo courtesy of ILuminate.

ワールドレポート/ニューヨーク

[ライター]
三崎 恵里

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