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踊る喜びが溢れたオーストラリア・バレエ学校のショ―ケース公演2019

ワールドレポート/オーストラリア

岸 夕夏 Text by Yuka Kishi

"Défilé " "Divertissement" "Con Brio " by Simon Dow, "Journey" "After Escher" by Margaret Wilson, "Sketch Tone" by Richard House, "La Tarantella Italiana" by Leigh Rowles, "Who Cares?" by George Balanchine

『デフィレ』『ディベルティスマン』『Con Brio』サイモン・ドウ:振付、『旅』『エッシャーを追って』マーガレット・ウィルソン:振付、『スケッチトーン』リチャード・ハウス:振付、『イタリアン・タランテラ』リー・ラウエル:振付、『フー・ケアーズ』ジョージ・バランシン:振付

創立55周年を迎えたオーストラリア・バレエ学校の2019年ショーケース公演がメルボルンとシドニーで3回催され、そのうち2回のシドニー公演のチケットは早々に完売していた。
現在の校長はリサ・パヴァーンで、1980年代、90年代にオーストラリア・バレエ団とイングリッシュ・ナショナル・バレエのプリンシパルダンサーとして踊った後、2015年に同校の4代目校長に就任した。
全日制のオーストラリア・バレエ学校では、毎年後半になると地方巡業公演、ショーケース公演という大きな舞台での公演が始まり、12月の年末公演で1年が締めくくられる。オーストラリア・バレエ団と共同の地方巡業公演は、広大なオーストラリアの複数の州で数週間に渡り、公演に参加する最終学年の生徒たちは、プロのダンサーに要求されるものが何であるかを知る機会を得る。観客を前にした舞台で多くの公演経験を積み重ねた後に、卒業後はプロのダンサーとしてのキャリアを歩む者だけではなく、医療、教育、芸術経営、IT、デザイン、航空などの道に進路転換をする生徒もいる。

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Australian Ballet School Showcase 2019 "Défilé " photo Sergey Konstantinov

幕開けの『デフィレ』は、今年2月に他界したオーストラリア・バレエ学校の創設者であり、初代校長のデイム・マーガレット・スコットに捧げたもの。エドワード・エルガー 作曲の「威風堂々」に合わせて、緊張と晴れがましい面持ちで年少の生徒から順次登場し、百人近い生徒全員が舞台に上がった。長きに渡ってバレエ学校を支えたスコットへの敬愛が、「親愛なるマギーへ」とプログラムに寄せられたメッセージとなって舞台から表出した。最後に頭上高くリフトされたひとりの女生徒は、舞踊と教育に捧げたスコットの人生を祝福する象徴にほかならない。

最初の演目『ディベルティスマン』は、オーストラリア・バレエ学校の常任振付家サイモン・ドウによるもの。ジュゼッペ・ヴェルディのオペラから6つのバレエ音楽を抜粋し、オーストラリア・バレエ学校の最高位レベル8の生徒が踊った。イタリアンオペラの華やかさと相まって、次々と繰り広げられる編成の変化が楽しく、フルタイムで学んできた集大成が感じられる。チャーミングな笑顔で踊った五十嵐脩のジャンプと回転には大きな拍手が送られた。しっかりした軸と、ふわりと空気をつかむようなポールドブラが印象的だったリリー・マスケリー(Lilly Maskery)。皆が好ましいステージマナーを示した。
次の演目は、オーストラリア・バレエ学校の常任振付家で、元ネザーランド・ダンスシアターのダンサーであったマーガレット・ウィルソン振付けのコンテンポラリー・ダンス『旅』。音楽はマックス・リヒターのアルバム「メモリーハウス」から「November」と「Fragment」を使用し、レベル6の生徒が踊った。公演プログラムには「人や動物とりわけ鳥などが、生きるために場所を移動する旅の途中で遭遇する困難を描いた」と記されている。
振付はリヒターの音楽の機微をすくい取り、思春期の揺れ動く心情や不安と、真っすぐに突き進もうとする「生」が交錯しながら濃密な質感で語られる。休息を放棄した空飛ぶ鳥の苦しみは身体のラインが描き、いのちの鼓動と生命感が現れた。横たわる男性の上で、飛翔を暗示した女性が影になる印象的なエンディングだった。

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Australian Ballet School Showcase 2019 "Journey" hoto Sergey Konstantinov

次の作品の原題タイトルCon Brioは、音楽用語で「はつらつと、元気に」などを意味する。ジョセフ・ハイドンの「交響曲第6番フィナーレ」に合わせて、レベル4の生徒がタイトル通り溌剌と踊った。ハイドンのクラシカルな様式美に合わせて、バレエ学校初級レベルの生徒たちが踊るダンスから、プロのダンサーの日々の鍛錬へ向けての真摯な心が伝わってくる。
20世紀を代表するオランダの奇想の版画家、マウリッツ・エッシャーの作品に強い関心を持つマーガレット・ウィルソンのコンテンポラリー・ダンス『エッシャーを追って』は、レベル8の生徒たちが踊った。公演プログラムにはエッシャーの言葉が引用されている。「私はいつも謎の中をさまよっている」。「目と口は嘘をつくが、手は身体の中でもっとも正直で嘘をつけない」。
アイスランドの作曲家ヨハン・ヨハンソンの音楽とダンスが、エッシャーの世界を視覚化して、アンサンブルが有機的な空間を造形する。80年代のフォーサイスを想起させる闘争的な身体ラインと挑発的な視線が現れ、エッシャーの内面にある無限の混沌を追い求めるようだ。マックス・リヒターの反復する弦のメロディが踊られると、音楽に別の生命が誕生したように感じ、これがバレエ学校の公演であることもしばし忘れていた。

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Australian Ballet School Showcase 2019 "After Escher " photo Sergey Konstantinov

昨年オーストラリア・バレエ団を退団して渡米したリチャード・ハウス振付の『スケッチトーン』は、ロマンチック・チュチュの衣装で、レベル5の生徒が美しいアンサンブルを形成した。前後の演目とのコントラストが鮮やかだった。
リー・ラウエル振付の『イタリアン・タランテラ』を22人のレベル7の生徒たちがタンバリンを響かせながら踊ると、弾けるような輝きが舞台に現れた。コミカルなマイムが加わり、ジャンプ、回転が速度と高さを増し、音楽と一体になってダンスが高揚していく。リズミカルな速いテンポのフォークダンスは田園の祝祭のよう。ここで休憩に入った。

公演の最後を飾ったのは、レベル7と8の生徒によるジョージ・バランシン振付の『フー・ケアーズ』。ニューヨークの夜景を背景に、女性は真っ赤なコスチュームで、男性は縦じまのベストにズボン、音楽はジョージ・ガーシュウィン。ラインダンスが登場するとブロードウェイの雰囲気が感じられた。音楽的で明晰、正確なスタイルを要求されるバランシンの作品は、生徒にとってチャレンジだっただろう。バランシン・トラストのバレエ・ミストレス、ヴィクトリア・サイモンを招いて指導を受けられたことは幸運だ。生徒個々の力量と個性が発揮され、歓喜溢れた全キャストでの「アイ・ガット・リズム」で公演の幕が閉じられた。

多彩な演目と構成の素晴らしさ、そして学業と両立させながら、日々心身を厳しく鍛錬している生徒たちが、踊る喜びにあふれていることが印象に残った。
(2019年9月27日 チャッツウッド、コンコースシアター)

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Australian Ballet School Showcase 2019 "Sketch Tone " photo Sergey Konstantinov

『デフィレ』
振付:サイモン・ドウ (Simon Dow)
音楽:エドワード・エルガー「威風堂々」
Pomp and Circumstance Military March Op.39 No.4 - Sir Edward Elgar
『ディベルティスマン』
振付:サイモン・ドウ (Simon Dow)
音楽:ジュゼッペ・ヴェルディ オペラの中のバレエ音楽
「イル・トロヴァトーレ」「ドン・カルロ」「シチリア島の夕べの祈り」「エルサレム」「アイーダ」「マクベス」
Excerpts from " Il Trovatore" , " Don Carlos" " Le Quattro Stagioni" "Jerusalem" "Aida" "Macbeth" - Guiseppe Verdi
『旅』
振付:マーガレット・ウィルソン (Margaret Wilson)
音楽:マックス・リヒター 「メモリーハウス」から「November」「 Fragment」
Excerpts from Memory House " November" " Fragment" - Max Richter
『Con Brio』
振付:サイモン・ドウ (Simon Dow)
音楽:ジョセフ・ハイドン 「交響曲第6番第4楽章フィナーレ」
Symphoney No.6, 4th movement -finale - Josef Haydn
『エッシャーを追って』
振付:マーガレット・ウィルソン (Margaret Wilson)
音楽:
ヨハン・ヨハンソン "A Sparrow Alighted upon Our Shoulder" - Johann Johannsson
マックス・リヒター " Berlin by Overnight" - Max Richter
フィリップ・グラス " Symphony No.3: Movement ll" - Philip Glass
『スケッチトーン』
振付:リチャード・ハウス (Richard House)
音楽:アンドレ・メサジェ「2羽の鳩よりパ・ド・ドゥ」
"Pas de Deux" from The Two Pigeons - André Massager
『イタリアン・タランテラ』
振付:リー・ラウエル (Leigh Rowles)
音楽:ルイス=モロー・ゴットシャルク「グランド タランテラ」
"Grande Tarantelle Op 67" - Louis Moreau Gotteschalk
『フー・ケアーズ』
振付:ジョージ・バランシン (George Balanchine)
音楽 :"Strike Up The Band" (1927) "Sweet and Low Down" (1926) "Somebody Loves Me" (1924) "Bidin' My Time" (1930). " 'S Wonderful" (1927) "That Certain Feeling" (1926) " Do Do Do" (1926) "Oh, Lady Be Good" (1924) "The Man I Love" (1924) "I'll Build a Stairway to Paradise" (1922) "Embracable You" (1930) "Fascination Rhythm" (1924) "Who Cares?" (1931) "My One and Only" (1927) "Liza" (1929) " I Got Rhythm" (1930)
音楽は全て録音された音源を使用

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