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華やかなベル・エポックのパリを背景に踊る『メリー・ウィドウ』オーストラリア・バレエ団

ワールドレポート/オーストラリア

岸 夕夏 Text by Yuka Kishi

AUSTRALIAN BALLET オーストラリア・バレエ団

"THE MERRY WIDOW" Choreographed by Ronald Hynd
『メリー・ウィドウ』ロナルド・ハインド:振付

オーストラリア・バレエ団の今年2つめの演目『メリー・ウィドウ』。今回のシドニー公演で404回目の上演となる。この作品は1905年にウィーンで発表されたオペレッタ『メリー・ウィドウ』を基に、ロバート・ヘルプマンがバレエ仕立てにして、オーストラリア・バレエ団が創作した全3幕の物語バレエだ。

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TBA " The Merry Widow" Adam Bull & Amber Scott © Daniel Boud

公演パンフレットには初演の様子が記されている。「1975年11月メルボルンでの世界初演、第3幕の最後のワルツの場面で客席からハミングが聞こえてきた。ハミングは幕が下りてライトがついた後も、真夏の夜の劇場の外へ続いていった」。つまり観客はオペレッタ『メリー・ウィドウ』をよく知っていた。「オーケストラの最後の一音が終わると、観客は足を上げて熱狂。あんなエキサイティングな初演公演は初めてだった」。(世界初演ダニロ伯爵役のジョン・ミーハンの思い出より)
オーストラリア・バレエ団の設立から13年間、ファンがどれだけ自前の全幕バレエを待ち焦がれていたか、最後のワルツシーンで観客が高揚した様子が目に浮かぶエピソードだ。1976年には当時56歳のマーゴ・フォンティーンをハンナ役でゲストに迎え、ニューヨークとワシントンで公演した。ミーハンは米国ツアーとオーストラリア国内でフォンティーンと50回ペアを組んだ。
今回の公演にはオーストラリア・バレエ団の元プリンシパルダンサーで、『マノン』のタイトルロールで2009年ブノワ賞最優秀女性ダンサーに選ばれたカースティン・マーティンが客演として加わった。4月28日から6月16日まで、シドニーを皮切りにキャンベラ、メルボルンと併せて42回の公演を行う。シドニー初日公演を観た。
バレエ『メリー・ウィドウ』は同名オペレッタとほぼ同じあらすじで、1905年のパリが舞台。莫大な遺産を相続して未亡人になったハンナと、昔恋仲だったが、身分の違いから結ばれなかったダニロ伯爵。老ツェータ男爵と年若いフランス人の妻、ヴァランシエンヌ。ヴァランシエンヌに夢中なカミーユの3組のカップルの恋の騒動が、ベル・エポックと呼ばれるパリが華やかに繁栄した時代を背景にコミカルな洒落たタッチで描かれ、社交界を彩る紳士淑女たちが煌めく。
幕が開いて今年83歳になるツェータ男爵役のコリン・ピースリーが舞台に登場すると、客席から大きな拍手が沸いた。世界初演以来、43年間ツェータ男爵役のピースリーの踊りとマイムはコミカルなだけでなく、彼の存在そのものが劇場を温かな雰囲気に包みこむ。

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TBA "The Merry Widow" Amber Scott © Daniel Boud

同夜のハンナ役はプリンシパルのアンバー・スコット。頭上には大きなシャンデリア、アール・ヌーヴォー風の蔦が装飾された巨大な円柱が並び立つ螺旋階段から登場したスコットは、眩いばかりだ。扇をかざして、華やかな黒のドレスをまとった一歩一歩の空間から物語への期待が高まる。叙情的なバイオリンの旋律が流れ、かつてのロマンスを思い出す時の切ない表情は印象的だ。回想シーンでは、白の膝丈チュチュに若草色トップの衣装をまとい、髪を下ろすと少女のようにも見え、エレガントなおとなの女のハンナとの対比が鮮やか。かと思えば、2幕では屋敷の主として家臣を従え、精緻な回転で舞台を回り躍動感あるダンスを披露した。ハンナの相手役ダニロ伯爵はプリンシパルのアダム・ブルだった。最初に登場した1幕のほろ酔い加減で踊るシーンでも、ブルの端正なラインは自と現れる。スコットとのパ・ド・ドゥではピタリと息の合った円熟味のあるダンスで客席を沸かした。昨年の『不思議の国のアリス』公演でアリスの大役を務め、ソリストランクに昇格した根本里奈の舞踏会パ・ド・トロワの場面では、思わず目を惹き寄せられた。

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TBA "The Merry Widow" Adam Bull & Amber Scott © Daniel Boud

ロナルド・ハインドが振付は、男性ダンサーが女性ダンサーを頭上高くリフトする場面が多く織り込まれているが、その度にデズモンド・ヒーリーがデザインしたローブ・デコルテのドレスのドレープが波打つように揺れ、美しい造形が現れた。オペレッタ『メリー・ウィドウ』の作曲はフランツ・レハールだが、全幕バレエには足りないオリジナル楽曲を見事なバレエ音楽に編曲したのはジョン・ランチベリーである。
第2幕、ハンナの屋敷のガーデンパーティーでは、黒のベストに真っ赤なボトムを着けた群舞が踊られ、舞台は東欧的な雰囲気に満たされる。振付も1幕のワルツの優雅な流線形フォルムから、チャールダッシュ、マズルカの民族舞踊は力強い直線ラインへと変化した。肘を直角に上げ、踵と踵を合わせてアクセントを刻み、小気味よい芳醇さがステップから奔流する。スコットは大きな瞳でセンシュアルなまなざしを放ち、リフトされた片足をフレックスにして「おいで、おいで」と挑発するような振付が観客を楽しませた。
準主役とも言えるヴァランシエンヌ役とカミーユ役は、共にプリンシパルのリアン・ストジメノフとアンドリュー・キリアンだった。ストジメノフは茶目っ気のある弾けるようなキュートな魅力でヴェランシエンヌを好演した。第2幕のキリアンとストジメノフの長い逢引シーンのパ・ド・ドゥでは、客席から盛大な拍手が送られた。

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TBA "The Merry Widow" Adam Bull, Amber Scott & Andrew Killian © Daniel Boud

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TBA "The Merry Widow" Leanne Stojmenov, Andrew Killian.& Franco Leo © Daniel Boud

3幕の赤のグラデーションの舞台美術、ファッションショーのような様々なコスチュームはまさに色彩の饗宴。陽気なフレンチ・カンカンが舞台に華を添え、ブルのぶれのない軸足、速い回転と高いジャンプ、美しい古典のポーズと脚さばきがクライマックスに導いていった。手にグラスを持ち、絡めた腕と腕でくるくると回るハンナとダニロのラストワルツには幸せな気分が横溢し、客席から大きな喝采が寄せられた。
(2018年4月28日 シドニーオペラハウス)

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TBA "The Merry Widow" Colin Peasley, Leanne Stojmenov & Andrew Killian © Daniel Boud

『メリー・ウィドウ』全3幕バレエ
振付:ロナルド・ハインド (Ronald Hynd)
音楽:フランツ・レハール (Franz Lehár)
編曲:ジョン・ランチベリー (Arranged and orchestrated by John Lanchbery)
原台本:ヴィクトル・レオン、レオ・シュタイン
(Based on the operetta by Victor Léon and Leo Stein)
シナリオ:ロバート・ヘルプマン (Robert Helpman)
舞台美術・衣装:デズモンド・ヒーリー (Desmond Heeley )
照明デザイン:フランシス・クロエッセ (Francis Croese)
ポール・マーフィー客演 指揮 オペラ・オーストラリア交響楽団
(Paul Murphy conducting with Opera Australia Orchestra )

配役 (2018年4月28日)
ハンナ・グラヴァリ:アンバー・スコット (Amber Scott)
ダニロ伯爵 [一等書記官] * :アダム・ブル (Adam Bull )
ヴァランシエンヌ:リアン・ストジメノフ (Leanne Stojmenov)
カミーユ・ド・ロジヨン [大使館員]:アンドリュー・キリアン (Andrew Killian)
ツェータ男爵 [大使]:コリン・ピースリー (Colin Peasley)
ニェーグシュ [大使の個人秘書官]:フランコ・レオ (Franco Leo)
クロモフ [次官]:ブレット・サイモン (Brett Simon)
プリッシュ [次官]:ブローディ・ジェームス (Brodie James)
ヘッドウエイター:ルーク・マーチャント (Luke Marchant)
ポンデヴェドロ人ダンサー :マーカス・モレリ (Marcus Morelli)
*[ ]内は在仏ポンデヴェドロ大使館での役職 (ポンデヴェドロは架空の国)

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