ディヴィッド・ホールバーグ=インタビュー

オーストラリア・バレエのチームと共にリハビリを行い、今、私のダンスキャリアの第2幕が開きます!

これは、2016年12月13日にディヴィッド・ホールバーグがオーストラリア・バレエ団の『コッペリア』で2年半ぶりに舞台復帰する直前に行われたインタビューです。

ディヴィッド・ホールバーグ以上にスター性に満ちたダンサーはいない。スラリと伸びたライン、端正なテクニック、特徴的なアーチ型の足、ほとんど別世界のダンサーともいえる。別のバレエ惑星から地球に舞い降りてきたといってもいいダンサーだ。アメリカン・バレエ・シアターは、そのトップランクに世界中から選りすぐった才能を集結しているバレエ団で、ホールバーグはプリンシパル・ダンサーという最高峰に上り詰めた生粋のアメリカ人の一人である。2011年には、ボリショイ・バレエのプリンシパル・ダンサーとして迎えられた最初のアメリカ人ともなった。ニューヨークとモスクワの舞台をまたにかけて、さらに世界中のバレエ団でも踊っている。
2年半にわたって、足の怪我のリバウンドでホールバーグは、崖っぷちに立たされていた。オーストラリア・バレエ団の『コッペリア』のフランツ役でステージ復帰を果たした。そこで過ごした日々と、復帰に活力を与えたリハビリについて、そして将来について語った。
(ディビッド・ホールバーグは、オーストラリア・バレエ団のプリンシパル・ダンサー、アンバー・スコットと、2016年12月13日、16日、19日、21日に踊ることが決まっていた。)

Q オーストラリア・バレエ団との最初の出会いと、それからの進展について話してください。

DH 私のオーストラリア・バレエ団とのスタートは2010年でした。私のマネージャーがディヴィット(注:オーストラリア・バレエ団のマカリスター芸術監督)と旧知で、私はディヴィッドから『くるみ割り人形』のゲストとして招かれました。その時私にはしっくりくるものがあり、オーストラリア式というだけでなく、オーストラリア・バレエ団特有の包み込むような歓迎を受けました。私は世界中のたくさんのバレエ団で踊ってきてますが、これほどあたたかな歓迎を受けたことは他ではありませんでした。その時に今後の定期的な客演の話がありました。私はディヴィッドだけでなく、オーストラリア・バレエ団のダンサーともお互いに気が合うものを見出しました。彼らと何かとても心が通い合うもの、そして彼らも私と一緒の舞台を作り上げることを好んでいるように感じました。オーストラリア・バレエ団のダンサーたちはとても受容的で、発展していくことに本当に開放的。異なるスタイルを持ち、異なるやり方を用いてます。非常にたくさんの公演を行うバレエ団であり、そこからコミュニティとのつながりが育まれていきます。大きなバレエ団には階層制度があり、もちろんオーストラリア・バレエ団にも存在します。けれどもここには集団的な力と結束力があります。

Photography Kate Longley

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Q 舞台から遠ざけた怪我についてと、オーストラリア・バレエ団のリハビリチームとのいきさつを話してください。

DH 私は三角靭帯の怪我に苦しみました。疲労衰耗による怪我が9か月の間に顕著になったので、完治のために2回の手術を受けざるをえませんでした。ニューヨークでは物事がうまくまわらず、南に向かおうという自分の声を感じていました。私は人生の岐路に立っていました。ひとつの道は引退すること、なぜなら怪我からの復帰と戦うことに疲れ切っていたのです。キャリアを終わらせるつもりはありませんでしたが、そこまで考えていたことを自覚しました。もうひとつの道はオーストラリアに行くことでした。オーストラリア・バレエ団の優秀なリハビリチームのことは、いつも私の心の中にありました。彼らはとても前向きで、何よりもダンサーたちが明確な結果をだしています。私はディヴィッドとスー (オーストラリア・バレエ団の主任理学療法士、スー・メイス)に連絡しました。スーが私に言ったのは「どれくらい早く来られるの?」
私は、スーとポーラ・ベアード・コルト(ボディコンディショニング専門家)とメーガン・コネリー(バレエミストレス兼リハビリ専門家)のもとでリハビリを行いました。

Photography Kate Longley

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私がこのチームをこよなく愛しているのは真の意味での共同作業なのです。リハビリのプロセスはひとりの個人が指導していくのではなく、チームの努力が結集されます。私たちはゼロからスタートしました。すべてを精査して最初にとりかかったのは、私の全身の体力作りと全身のオーバーホール、特にウエスト部分を落とすことです。バレエは一切せず、スタジオにも行かず、タイツもはきませんでした。毎日5時間ポーラとともに、ただ、ただ体力作りだけ。彼女はエクササイズの百科事典とも言えますが、すべてを伝授してくれました。それはとてもゆっくりだけれど少しずつ増えていき、理論的方法によるプロセスで、危険もミスもなく、運に賭けたものではありません。私が今までと全く違う身体のサポートシステムを作り上げた時、メーガンとバレエのトレーニングに行く時が来たのです。自分のダンスに適用させるために、かつて自分自身で作り上げた体力をメーガンはすべて再構築しました。整然とした作業はポーラ、メーガンと共に、とてもゆっくりと細部まで煮詰めていきました。

Q すべてのエクササイズを通してあなたが学んだことは何ですか

DH 踊り方だけでなく、自分を調整する方法です。以前は、基本的に何のコンディショニングもしてきませんでした。1日の中でリハーサルと公演のためのウォームミングアップ(怪我の予防や準備運動をせずに、体幹運動や、リフティング、ウエイトトレーニング)だけでした。リハビリチームは予防の大切さを教えてくれました。強靭で、直観があり、サポートシステムが磨かれて保たれていれば、思わぬアクシデントを防ぐことができます。それは、ダンサーの身体を引っ張る回転や跳躍、ねじり、プリエのショックを吸収するクッションであり、緩衝装置となるのです。私の全知識はオーバーホールされました。このチームと作業を行う前は、身体を極限に押し上げるのと同様に、休養が大切だということを信じたくありませんでした。アーティストとしてチャレンジと "多忙" であることに努めてきたのです。でもリハーサルと公演後の回復過程は同じくらい大切なものです。ピーク時と100パーセント同じ状態で身体が反応することを期待してはいけない、それは不可能です。リハーサルの中で満ち引きを学びました。今、私は自分の身体の状態をより良く知ることができます。1日が始まる前に "挑戦" できるかがわかります。

Photography Kate Longley

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たとえば、ある日何かをとてもハードに行った場合、次の日は控えめにして回復にあてるのです。「上がって下がって」ということもコンディショニングであり、リハーサルです。重いウエイトトレーニングや同じエクササイズは毎日しませんし、同じリハーサルもしません。人生と同じようにね。何かから離れて、また戻る。ずっと座りっぱなしで終わりまで何時間も根を詰めているよりも、頭がクリアになり新鮮な考えが浮かびます。踊るときに今の私は動きをよりコントロールできると感じています。そしてチャンスに賭けたり、身体に頼るというよりも、自分で作った身体の強さに頼っていると感じています。

Q 今回の回復において精神面ではどうですか。

DH 怪我はアーティストから技巧を取り上げ、何もかもを奪い取るようなものです。バレエに再び戻ってひとりのアーティストとして別人のように感じています。困難をくぐり抜けて、より豊かになり個性的で深みを増したように感じます。精神面は肉体と同じくらいハードでした。私は友人や安らぎのあるニューヨークでの生活から離れました。好奇な目、これからどうするか、いつ復帰するのかという質問から離れなくてはならなかったのです。リハビリの間はとても癒されました。私がここに来た時、戦うことに疲れ果てて大きな穴が開いたような状態で、最後の力を振り絞ってきたのです。肉体的なものだけでなく、気持ちも精神面もすべてを再生しなくてはなりませんでした。想像できる限りすべてをクリアにしたとても大きな1年でした。今、私は幸せな気持ちで目覚め、仕事に戻ることを楽しみにしています。オーストラリア・バレエ団とこれほど緊密になれたのは素晴らしいことです。たくさん親交を結ぶことができました。最初の日、衰えた筋肉を感じるためにソックスをはいて床に横たわった私を皆が見てました。今、私はステージに戻る時が来たのです。

Photography Kate Longley

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Q オーストラリア・バレエ団の(リハビリ)チームのどのようなところがユニークですか。

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Photography Kate Longley

DH スーは世界のトップのひとりです。彼女の仕事への熱意と向上心は飽くなきものです。そして、彼女は世界中で最も鍛錬されたアスリートたちと仕事をしているという認識があります。芸術の世界で私たちは身体的に多くを要求されながら、バレエダンサーはある意味で時には讃えられないヒーローです。私は、スーはこの点を心から尊重して、努力していると思います。スーは彼女の探求心を活用できる正しい乗り物(ビークル)を操作して、さらに勉強することができ、それを応用してダンサーに還元する。これはある種の無上の一致です。けれども彼女には彼女自身の美質と同様、仕事に自我というものが全くありません。彼女はその点に全く気がつかず、いつも進んで仲間たちと一緒に仕事をしようとします。リハビリチーム・メンバーの一人一人が持つ驚くべき知識の深さと、個々がそのプロセスの中で統合していく、そのことが他のどこよりも際立って秀でたところだと思います。彼らはそれぞれの新たな発見を定期的に意見交換しています。だから彼らのチームワークは驚異的な成功率とサクセスストーリーがあります。オーストラリア・バレエ団のダンサーが怪我をする率はかなり低い。とてもすごいことです。

Q『コッペリア』のフランツ役は初めてですね。フランツ役はいかがでしたか。
アンバー・スコットとの共演についてお聞かせください。

DH 舞台復帰にこれほどふさわしい役はなかったでしょう。ダンスの技術面と身体性がかなり求められ、身体をあるレベルの適応度まで戻す必要がありました。けれども『コッペリア』は観客には楽しくて明るいプログラムなので、自分にとっても楽しめるものにしようと心がけました。音楽も軽やかで色彩豊かです。『白鳥の湖』のジーグフリート王子のような身分と叶わぬ恋に憂うる複雑さはフランツにはなく、フランツの役柄はシンプルです。フランツは恋人に花を買ってそれを誇りに思っています。フランツは女好きで浮気性、内向的に憂慮するタイプではありません。
アンバーとはスタジオの外でも仲の良い友人です。彼女は舞台では芸術的な点で心が開かれていて正直です。そして繊細で、周りに流されず、純粋で穏やかな人です。彼女はパフォーマンスだけでなく、澄明な存在感、舞台に立った時の美しさも人に感銘を与えます。彼女は弾けるような輝きを持ちながら、それに頼りきることなく感動を与えます。まさに真のアーティストです。

With Amber Scott. Photography Kate Longley

With Amber Scott. Photography Kate Longley

With Amber Scott. Photography Kate Longley

With Amber Scott. Photography Kate Longley

Q あなたの今後のことを話してください。

DH 私は日々リハビリを課してきて、今、今後のことを考える時が来ました。可能性と機会を確認しています。まず何よりも、オーストラリア・バレエ団との親密な関係と共に、私はとても深く成長しました。この建物の中の誰一人として私がバレエ団に恩義があるとは言わないでしょう。でも私はオーストラリア・バレエ団から恩を受けました。バレエ団が外部からひとりのダンサーを受け入れる必要があるとは思えません。私がここにどれくらいいるか、どのような結果になるのかわかりませんが、われわれ皆にとって有益になりました。彼らは、壊滅的な故障をしたダンサーを舞台に戻すステップを見てきました。そして私は学びました。これは私のダンスキャリアの第2幕です。オーストラリア・バレエ団との絆は強く結ばれ今後も続くでしょう。メルボルンに住むということではありません。私のホームは今でもアメリカン・バレエ・シアターであり、ニューヨークだけれども、オーストラリア・バレエ団との結びつきは続きます。煮詰まって何もなくなった時、大切なものは何か、何が私を芸術に駆りたてるのか、私の見ているものはどこなのか、私が貢献できることは何か、嵐の中で自問しました。怪我をする前と今の私は違います。カイコから抜け出してそれらを共有する時が、今、訪れたのです。物語に心を動かされます。チームとはこれ以上はないほどの準備をしてきました。すべてをこなして舞台に戻る用意をしています。興奮しています。緊張もしています。私がしてきた9年間の日々に戻る時を、今、私はカウントダウンしているのです。

With Robyn Hendricks. Photography Kate Longley

With Robyn Hendricks. Photography Kate Longley

ディヴィッドとわれわれのチーム作業

スー・メイス: "壮大な旅"から、ディヴィッドが舞台に戻るのに成功したことを見ることができて、私たちはとても喜んでいます。このスターダンサーはとうとう、芸術への熱き想いと、観客をワクワクさせることに満ちていた、元いた場所に戻りました。彼がリハビリに成功したカギは、懸命な努力、多岐の訓練、身体全体への取り組み、信頼、細部への注視、スタジオの行き来、真の決断でした。私たちはディヴィッドに自分で実践できる知識と方法を提供しました。心身ともに挑戦して打ち勝ったオーストラリア・バレエ団の公演に向けて、明確な視点と、新たに培った自信をもって彼は旅を続けるでしょう。

Photography Kate Longley

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メーガン・コネリー:キャリアの発展、怪我、回復を通してダンサーたちの道のりを共有するのは常に光栄なことです。ディヴィッドはたくさんの過程を持ち込んだので、特に充足していました。彼の謙虚さと勇気は彼の心を開かせ、新たな考えを生みだし、率直で新鮮な展望とともに、彼の身体とアートフォームを見すえさせました。彼自身の体験を他と共有することを決心したことと、彼の寛容さは私たちを驚くほど刺激しました。ディヴィッドの舞台復帰を見届けたことは、私たちバレエ団のダンサーにとってとりわけ幸運なことです。

ポーラ・ベアード・コルト:ダンサーが深刻な怪我をしてその回復に向けた作業をする時、ある一定のプライバシーと信頼が要求とされます。それは決して、容易で快適なものではありません。ディヴィッドのリハビリ過程を振り返ってみると、彼の静かな決意と、小さな前進に彼自身が希望と勇気を見出していたことを思い出します。脚用の重りでウエストベルトを思いついたこと、そんな小さな出来事を共にしたことなどで、私は思い出し笑いをしてしまいます。さあ、彼が踊るのを観に行きます!

(原文はオーストラリア・バレエ団のウエブサイト、Behind Ballet(#154)に掲載された。オーストラリア・バレエ団の好意により、Dance Cubeへの日本語訳掲載が許可された。) Under the Australian Ballet's courtesy, the interview "David Hallberg : The Second" in Japanese is permitted for posting to the Chacott Dance Cube. The interview in Behind Ballet (#154) was posted to the Australian Ballet's website. David Hallberg was interviewed by Rose Mulready.

ワールドレポート/オーストラリア

[インタビュアー]
ローズ・マルレディー
[翻訳]
岸 夕夏

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