オーストラリア・バレエ団ダンサーの新作と、ウィールドン、バランシン作品が上演された

AUSTRALIAN BALLET 『SYMOHONEY IN C 』:オーストラリアバレエ団 『シンフォニー・インC』

"SCENT OF LOVE" Richard House:"GRAND PAS CLASSIQUE" after Viktor Gsovsky: " LITTLE ATLAS" Alice Topp:"DIANA AND ACTEON PAS DE DEUX" after Agrippina Veganova: "AFTER THE RAIN PAS DE DEUX" Christopher Wheeldon:"SYMPHONY IN C" George Balanchine
『SCENT OF LOVE』リチャード・ハウス:振付、『グラン・パ・クラシック』ヴィクトル・グゾフスキー:振付、 『リトル・アトラス』アリス・トップ :振付、『ディアナとアクティオン』アグリッピーナ・ワガノワ:振付、 『アフター・ザ・レイン』からパ・ド・ドゥ クリストファー・ウィールドン:振付、 『シンフォニー・イン・C』ジョージ・バランシン:振付

オーストラリア・バレエ団のデイヴィッド・マカリスター芸術監督は、現代作品を創作する振付家の発掘と育成を目指して、2004年から新たな取り組みを始めた。マカリスター芸術監督は、この実験的なプログラムを「BODYTORQUE」と題し、カンパニーの現役ダンサーが振付け、衣装や音楽、照明などの総合制作を行い、1年に1度公演する機会を設けた。
「BODYTORQUE」の舞台は、シドニー・オペラハウスより小規模で、劇場は埠頭に隣接したかつての倉庫街の開発地域にあり、ここは現在、流行の先端をゆくシドニーのホットスポットとなっている。チケットもオペラハウスの一番高額な席の約半分ほどで、舞台装置は全くないか簡素、コスチュームもシンプルなもの。筆者も何回か「BODYTORQUE」公演を観に行ったが、その作品は刺激的で、まだ商業化されていない若い才能にわくわくさせられた。ある年などは、偶然、客席のダンサーたちの列の真ん中に紛れ込んでしまい、通常舞台で見るダンサーたちとともに鑑賞するという、不思議な経験をした。彼らは同僚でありパートナーであり、ライバルでもある仲間のダンサーの作品を客席で鑑賞し、そのまなざしは温かくて熱く、新たな才能の誕生を見守っていた。10年以上にわたって上演されてきた「BODYTORQUE」も今年は、カンンパニーのコール・ド・バレエの2人の作品が、バランシンや現代を代表する振付家のひとりウィールドンの作品とともにプログラムされ、シドニー・オペラハウスの大舞台にのった。
公演地トルは『シンフォニー・イン・C』で、4月から5月にかけて3つの現代小作品のプログラム『VITESSE-ヴィテス』とほぼ同時並行して、約2週間の公演期間中9回上演された。

"Scent of Love" Amanda McGuigan & Christopher Rodgers-Wilson Photo by Daniel Boud

"Scent of Love" Amanda McGuigan & Christopher Rodgers-Wilson Photo by Daniel Boud

まず、最初はオーストラリア・バレエ団のダンサー、リチャード・ハウス振付の『SCENT OF LOVE』。マイケル・ナイマンの『Scent of Love and Love Doesn't End』への想いを温めていたハウスが、この曲へのオマージュとして振付けたもの。幕が開くと、舞台半分を覆っている後ろ向きの女性ダンサーの巨大で鮮やかな赤いドレスに目を見張った。
つかの間の幻想のように現れた巨大な深紅の布が舞台のそでに消えた後、2組の男女のパ・ド・ドゥが踊られた。終始アダージョで流れる詩的なピアノ曲に合わせたステップは音楽と同様に、抒情的なものだった。後半には背景に脳のようにも見える大きな塊が浮かぶ。ハウスが意図したのは、それぞれの観客の内観への旅なのか。

"Scent of Love" Amanda McGuigan & Christopher Rodgers-Wilson Photo by Daniel Boud

"Scent of Love" Amanda McGuigan & Christopher Rodgers-Wilson
Photo by Daniel Boud

"Scent of Love" Amanda McGuigan & Christopher Rodgers-Wilson Photo by Daniel Boud

"Scent of Love" Amanda McGuigan & Christopher Rodgers-Wilson
Photo by Daniel Boud

次の作品は、しばしばコンクールの課題曲に用いられるヴィクトル・グゾフスキー振付の『グラン・パ・クラシック』。同夜のキャストはベネディクト・べメイ(Benedicte Bemet)とクリスチアーノ・マルティーノ(Cristiano Martino)。ティアラをつけ真っ白なチュチュのべメイと全身白のコスチュームのマルティーノは、まさに若き姫と王子だった。フランソワ・オーベールの晴れやかな音楽に合わせて高度な技巧が次々と展開された。べメイは、まだあどけなさの残る21歳。ライジングスターである。

"Grand Pas Classique"  Miwako Kubota & Brett Chynoweth  Photo by Daniel Boud

"Grand Pas Classique" Miwako Kubota & Brett Chynoweth
Photo by Daniel Boud

"Grand Pas Classique"  Miwako Kubota & Brett Chynoweth  Photo by Daniel Boud

"Grand Pas Classique" Miwako Kubota & Brett Chynoweth
Photo by Daniel Boud

Little Atlas_Kevin Jackson Vivienne Wong Photo Daniel Boud

Little Atlas_Kevin Jackson Vivienne Wong Photo Daniel Boud

3番目の作品は『リトル・アトラス』 オーストラリア・バレエ団のダンサー、アリス・トップの振付で、音楽はルドヴィコ・エイナウディ(Ludovico Einaudi)が作曲した『Fly and experience』。この作品は、「過去、現在、未来へと繋ぐ追憶への観念」と公演ノートに記されていた。
冒頭のピアノソロと共に、トップ自身がデザインをした黒のレオタード姿のヴィヴィエンヌ・ウォング(Vivienne Wong)が光の輪の中から現れる。

二人の男性ダンサー、ケビン・ジャクソン(Kevin Jackson)とルディ・ホークス(Rudy Hawkes)は半裸で黒のタイツのみ。3人のダンサーの動きは強くしなやかで、ウェイン・マクレガーの『クローマ』 を観たときの衝撃をどこか思い起こさせる。ウォングのダンスは弾力的で、2人の男性ダンサーと流れるように絡めた腕の動きなど、愛の行為を抽象的に極めたようにも見え、官能的な美しさが現れた。
ピアノソロにオーケストラが加わり、打楽器のコンゴが打ち出すビートの中で、ウォングはジャクソンの頭上に高くリフトされるなど、アクロバティックな振付がさらに高揚感を高めていく。そしてウォングが光の輪の中に消えていくというエンディングとなった。客席からは割れんばかりの喝采が贈られた。アリス・トップは、オーストラリア・バレエ団初の女性常任振付家になることが自分の夢と語っている。

Little Atlas_Kevin Jackson Vivienne Wong Rudy Hawkes Photo Daniel Boud

"Little Atlas" Kevin Jackson Vivienne Wong Rudy Hawkes 
Photo Daniel Boud

Little Atlas_Kevin Jackson Vivienne Wong Rudy Hawkes Photo Daniel Boud

"Little Atlas" Kevin Jackson Vivienne Wong Rudy Hawkes 
Photo Daniel Boud

4作目の『ディアナとアクティオン』に続いて、クリストファー・ウィールドンの初期の傑作『アフター・ザ・レイン』からパ・ド・ドゥが踊られた。キャストはシニア・アーティストのロビン・ヘンドリックス(Robyn Hendricks)とゲスト・アーティストのダミアン・スミス(Damian Smith)だった。ウィールドンはこの作品について「無言の愛の行為は舞台でのみ完全なものになる」と語っている。ヘンドリックスとスミスはともに、親密でやさしい感情の移り変わり、同じ場所に存在しながら、離れ、一方は求めるという大胆で繊細な動きを、ため息が出るほど美しく表わしていた。
それぞれが10分くらいの5つ小品が上演されて、前半部分が終わった。

"After The Rain" Robun Hendricks Damian Smith Photo Daniel Boud

"After The Rain" Robun Hendricks Damian Smith
Photo Daniel Boud

"After The Rain" Robun Hendricks Damian Smith Photo Daniel Boud

"After The Rain" Robun Hendricks Damian Smith
Photo Daniel Boud

休憩をはさんで後半は、ジョルジュ・ビゼーが17歳の時に作曲した「交響曲ハ長調」に、ジョージ・バランシンが振付けた『シンフォニー・イン・C』が上演された。舞台セットは帝政ロシア時代をイメージした、頭上に輝く3つの大きなシャンデリアとコバルトブルーの背景幕。そこに純白のチュチュが美しく映える。

この曲は4楽章あり、それぞれの楽章にプリンシパルのペアが配されていた。8人のプリンシパルが一堂に会してひとつの作品で踊る機会は滅多にない。
第1楽章のリードソリストは、昨年出産して舞台に復帰したリアン・ストジメノフ(Leanne Stojmenov)とケビン・ジャクソンだった。ジャクソンは前半の『リトル・アトラス』とまるで別人でノーブルで陽気な貴公子。彼は確かなダンステクニックにより、どんな役でもこなしてしまう。憂いに満ちた美しい短調のオーボエソロが印象的な第2楽章のパ・ド・ドゥは、アンバー・スコット(Amber Scott)とアダム・ブル(Adam Bull)。このカップルが登場しただけで空気が一瞬にして高貴なものとなる。

"Symphony in C" Leanne Stojmenov Artists of The Australian Ballet Photo Daniel Boud

"Symphony in C" 
Leanne Stojmenov Artists of The Australian Ballet
Photo Daniel Boud

アメリカに渡ったバランシンは、ハリウッド映画やブロードウェーの舞台の振付も手掛けた。フィナーレでは、総勢40名以上のダンサーとともにに踊る8人のソリストは、全く同じステップを踊っているのに、それぞれの個性が現れていて興味深かかった。作曲家の生前に演奏されることのなかったこの「交響曲ハ長調」が、80年の歳月を経た20世紀になって発見されたとき、音楽家でもあったバランシンはさぞ歓喜したことだろう。煌びやかなブロードウェーの芳香とバランシンのロシア人としての魂が、一つに溶け合った贅沢なクライマックスが訪れると、高揚感に満ちた劇場は大きな拍手に包まれ、夕べの幕が閉じられた。
(2016年5月3日 シドニーオペラハウス)

"Symphony in C" Artists of The Australian Ballet Photo Daniel Boud

"Symphony in C" Artists of The Australian Ballet 
Photo Daniel Boud

"Symphony in C" Artists of The Australian Ballet Photo Daniel Boud

"Symphony in C" Artists of The Australian Ballet 
Photo Daniel Boud

"Diana and Acteon" Chengwu Guo Ako Kondo Photo Daniel Boud

"Diana and Acteon" Chengwu Guo Ako Kondo
Photo Daniel Boud

"Diana and Acteon" Chengwu Guo Ako Kondo Photo Daniel Boud

"Diana and Acteon" Chengwu Guo Ako Kondo
Photo Daniel Boud

ワールドレポート/オーストラリア

[ライター]
岸 夕夏

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