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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2015.05.14]

ロイヤル・バレエがバランシン、マクミラン作品とともにホフェッシュ・シェクター新作を世界初演

The Royal Ballet 英国ロイヤル・バレエ
"The Four Temperaments" Choreographed by Gorge Balanchine "Untouchable" Choreographed by Hofesh Shechter "Song of the Earth" Choreographed by Kenneth MacMillan
『四つの気質』ジョージ・バランシン:振付、『アンタッシャブル』ホフェッシュ・シェクター:振付、『大地の歌』ケネス・マクミラン:振付

ロイヤル・バレエは3月27日〜4月14日までマクミラン、バランシンとホフェッシュ・シェクター作品によるミックス・プログラムを2配役5公演した。

london1505a2_03.jpg 「大地の歌」
photo/Angela Kase(すべて)

内容はマクミランの『大地の歌』、久しぶりの再演となるバランシン1946年振付作品『四つの気質』、ロイヤル・バレエの芸術監督ケヴィン・オヘアがイギリスで活躍する現代ダンスの振付家ホフェッシュ・シェクターに初めて依頼した新作を一挙上演するというもの。
4月8日の公演を観る。

バランシン振付『四つの気質』には当初オーシポワとラムが異なるキャストに配役されていたが、上演直前にこの2人の名前が消え、代わりに高田茜と金子扶生が踊ることになった。
私が観た8日に第1のテーマを踊ったのはイッツァー・メンジザバルとヴァレリー・フリストフ、第2のテーマを踊ったのは崔由姫とアレクサンダー・キャンベル、第3のテーマはメリッサ・ハミルトンと平野亮一。第1ヴァリエーション「憂鬱」をスティーヴン・マックレー、第2ヴァリエーション「快活」を膝の怪我が癒えて舞台に復帰した金子扶生とマシュー・ゴールディング、第3ヴァリエーション「無気力」はエドワード・ワトソン、第4「怒り」はゼナイダ・ヤノースキーが踊った。
特筆すべきは第2のテーマを踊った崔の繊細にして芸術性あふれる舞踊表現、第3のテーマを踊った平野の気品と相手役への盤石なサポート、4つのヴァリエーションを踊ったマックレー、金子、ゴールディング、ワトソン、ヤノースキーのスター性の発露である。特に金子は4人のプリンシパル・ダンサーとヴァリエーションで共演しても全く遜色のない大女優のような輝きと存在感を見せ、末恐ろしさすら感じた。
エドワード・ワトソンはこの作品の演舞を認められ2007年バレエのアカデミー賞である「ブノワ賞」の最優秀男性ダンサー賞にノミネートされたが、惜しく受賞を逃している。奇しくも彼は今年再び『冬物語』のレオンティーズ役で同賞にノミネートさている。幸運の女神は今年こそワトソンに微笑みかけるのか? 世界のバレエ関係者の期待が集まるところである。

london1505a_05.jpg 「アンタッチャブル」photo/ Angela Kase

ホフェッシュ・ヘクターがロイヤル・バレエに初めて振付た作品は『アンタッチャブル』。ヒンドゥー教のカースト(身分)制度の最下層に位置する民を意味している。
この作品には20人のダンサーが選ばれ、ベテランのトマス・ホワイトヘッドとクリステン・マックナリー以外は、ベアトリス・スティックス・ブルネル、フランチェスカ・ヘイワード、ジェイムス・ヘイ、アクリ瑠嘉、マシュー・ボール、ドナルド・ソム、マルセリーノ・サンベ、テオ・デュブロイといった期待の若手が抜擢されている。
作品的にはバレエとは程遠く、スピーディーな動きの現代ダンスでもない。脱力した四肢から緩やかなムーブメントを紡ぐ民族舞踊を髣髴とさせる作品。ダンサーはそれぞれ異なる衣装と髪型で舞台に登場するが、暗い照明とも相まって誰が誰なのか判別がたいへん難しい。音楽は作曲家としても知られるヘクター自身による曲や「ベサメ・ムーチョ」のような馴染みあるメロディが使用された。全ダンサーが脱力した身体で「ベサメ・ムーチョ」を陶酔感たっぷりに踊る姿が印象的であった。
ロイヤル・バレエが本拠地で披露する作品としてはたいへん異色なため、関係者からファンの間で好みや評価が大いに分かれた。作品終演後にトレンドに敏感なアート・ファン、現代ダンス・ファンが口々にブラボーを叫び熱狂する傍らで、作品に落胆し「時間と経費の無駄遣いだ」とつぶやく古典バレエ・ファンあり、といった対極的なリアクションが見られた

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london1505a_01.jpg 「アンタッチャブル」photo/ Angela Kase
london1505a2_04.jpg 「大地の歌」photo/Angela Kase

マクミランの傑作『大地の歌』といえば、今では英国ロイヤル・バレエの代表的な作品であり、ダーシー・バッセルが引退公演で踊った演目としても世界に知られている。
今回は死の使者(メッセンジャー)役を当初カルロス・アコスタとスティーヴン・マックレーが踊るとの発表があったが、最終的にアコスタとワトソンが役を分けた。
私が観た4月8日はアコスタとマリアネラ・ヌニェズ、ティアゴ・ソアーレスが主要の3人を踊り、ファースト・ソングをソアレス、平野亮一、ヴァレリー・フリストフ、第2をヌニェズ、第3を崔、第4をハミルトン、第5をソアーレス、アレクサンダー・キャンベル、フリストフが踊った。
アコスタは身体能力的な衰えが見え隠れはしたものの、ヌニェズ、ソアーレスとは並びが良く、作品を引き締めて見せた。当日の配役は以前の上演と同じで目新しい所はないとはいえ、この作品で崔やハミルトンといった美しく詩情あふれるバレリーナを再び拝み観られるのは嬉しい限りであった。

バレエ団は期待の若手にたくさんのチャンスを与えてはいるものの、『ドン・キホーテ』や『白鳥の湖』にアンナ・ツィガンコワ、ヤーナ・サレンコやエフゲーニャ・オブラスツォーワといった外国人ゲストを多数起用したため、崔やハミルトンといった実力に容姿に優れたバレエ団の中堅ダンサーから、全幕作品デビューの機会を奪っているように思えてならない。
実際メリッサ・ハミルトンは、来シーズンは作品初演の際にセカンド・キャストとして全幕主演した『レイヴン・ガール』の再演があるにもかかわらず、ロイヤル・バレエとの活動を1年休んでドイツのドレスデン・バレエで踊ると発表し、関係者やファンを嘆かせている。
(2015年4月8日ロイヤル・オペラ・ハウス 3月25日最終ドレス・リハーサルを撮影)

london1505a2_06.jpg 「大地の歌」崔由姫 london1505a2_08.jpg 「大地の歌」メリッサ・ハミルトン london1505a2_09.jpg ハミルトン、崔由姫、金子扶生
キャプション キャプション
london1505a2_01.jpg ソアーレス、ヌニェズ、アコスタ london1505a2_02.jpg ソアーレス、ヌニェズ、アコスタ
london1505a2_05.jpg 「大地の歌」ハミルトン、キャンベル、アコスタ london1505a2_07.jpg
london1505a_02.jpg 「アンタッチャブル」 london1505a_04.jpg 「アンタッチャブル」
photos / Angela Kase(すべて)