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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2008.10.10]

ウィールドン・カンパニー モルフォーセス公演

 昨年9月にサドラーズ・ウェルズ劇場で母国イギリスでの旗揚げ公演を行ったクリストファー・ウィールドンとモルフォーセスが、世界初演作品2つを携えてロンドンに戻ってきたのは9月24日のこと。

  ウィールドンといえば、欧米とロシアで非常に高い評価を得ている若手振付家である。だが同カンパニーは数人を除いて、NYCBやロイヤル・バレエといった 著名カンパニーからダンサーを借りていることが関係しているのか、ロンドン公演初日の24日まで、出演ダンサーの発表がなく、それがチケットの売れ足を鈍 らせていたようだ。

 プログラムAはウィールドンの代表作である『ポリフォニア』とアシュトンの『モノトーンズ』、ロビンスの『ア ザー・ダンシィズ』、ウィールドンの新作『コメディア』世界初演。プログラムBは昨年披露して非常な好評を得たウィールドン作品『フールズ・パラダイ』、 カナダ人女性振付家エミリー・モルナーの新作『シックス・ホールド・イルミネイト』世界初演と『コメディア』という組み合わせであった。

『フールズ・パラダイス』
Photo/Agela Kase

  出演ダンサーはNYCBからウェンディ・ウィーラン、タイラー・アングル、マリア・コワロースキー、ゴンザロ、ガルシア、ティラー・ペック、クレイグ・ ホール、エイドリアン・ダンチッグ・ワリング、ジェイソン・ファウラー、エドワード・リヤン、ベアトリス・スティックス・ブルネル、テレサ・レイチェリ ン、ロイヤル・バレエからリアン・ベンジャミンとエドワード・ワトソン、サンフランシスコ・バレエからロリー・ホーヘンシュタイン、ウィールドン・カンパ ニーからルビナルド・プロンク、セリーヌ・カッソン、ドリュー・ジャコビ。

 両プログラムとも開演直前にウィールドン本人がマイクを持って登場し、作品セレクションについて観客に語りかけるアットホームな雰囲気で始まった。

  ウィールドンによると、Aプロにアシュトンの『モノトーンズ』を取り上げたのは、世界のダンサーがバランシン作品に挑戦する今、その逆ともいえる「バラン シン・ダンサーによる異なったダンス・スタイルへの挑戦」という実験に興味があったこと。またアシュトンはアポロに乗った宇宙飛行士たちの月面到着に非常 な感銘を受けて同作品を作ったのだという。またロビンスによる『アザー・ダンシィズ』については、この偉大な振付家の没後10年を記念して披露する、と いった説明があった。

 新作『コメディア』は、ウィールドンがバレエ『プルチネラ』を改作したもので、音楽はストラヴィンスキーに よるプルチネラ組曲を使用。イザベル・トレドによる衣装が、やや学芸会のような雰囲気をかもし残念であったが、4組のカップルがウィールドンの美意識や ウィットに富んだ4つのデュエットを披露する趣向。特にBプロの中にあって他の作品とのバランスも良く、映えた。

 NYCBのコワ ロスキーとプロンクの2人とロイヤル・バレエのワトソンが踊る『モノトーンズ』は、NYCBの2名が見事に作品に溶け込み成功裏に終わった他、ロイヤル・ バレエのエドワード・ワトソンが、ポール・ド・ブラで見せる間や空間の使い方に英国スタイルの優美見せるなど非常に興味深かった。

『フールズ・パラダイス』
Photo/Agela Kase

 Aプロを踊ったダンサーでは、ヴェテランのウェンディ・ウィーランが『ポリフォニア』で、彼女らしい香気と存在感を放ったほか、『ポリフォニア』と『アザー・ダンシィズ』を踊ったNYCBのプリンシパル、ゴンザロ・ガルシアが白眉であった。
ガルシアは95年のローザンヌで、コンクール史上最年少の金賞受賞者となった非常に芸術性の高い踊り手だが、今年に入ってスター性が増し、パートナーリ ングも巧みになるなど、大きな成長の後がうかがえた。また、ともすれば機械的になってしまう現代作品に、ロマンティシズムやリリシズムを奮い、現在、最も 将来が期待される男性ダンサーの一人であることを証明してみせた。

『シックス・ホールド・イルミネイティッド』
Photo/Agela Kase

  Bプロではウィールドンによる『コメディア』と『フールズ・パラダイス』という対照的な2作品と、エミリー・モルナーの新作『シックス・ホールド・イルミ ネイト』が披露された。ダンス作品にもストーリーを求める英国の一般的なダンス・ファンには難解ながらも、美意識の高さと芸術性に貫かれた非常に充実した 内容で、観客は大いに熱狂。

 Bプロでは、無機質なモルナー作品に男臭さと一昔前のベジャール・ダンサーを髣髴させる色気を見せた ルビナルド・プロンク、シャープな技巧と包容力を奮ったジェイソン・ファウラー、NYCBのダンサー顔負けの優れた音楽性とラインの美しさを見せたエド ワードン・ワトソンが印象に残った。

 会場にはロイヤル・バレエ団芸術監督のモニカ・メイソンや、プリンシパル・ダンサーのカルロ ス・アコスタ、先シーズンで突然ロイヤルを退団して関係者やファンを驚かせたマーティン・ハーヴェイ、ENBのアグネス・オークスとトマス・エデュールら の姿もあり、観客と共に優れた小品を堪能した。
(2008年9月24日、9月26日サドラーズ・ウェルズ劇場)

『シックス・ホールド・イルミネイティッド』
Photo/Agela Kase