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守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2007.03.10]

アメリカン・バレエ・シアター

 17年ぶりの来英公演となったアメリカン・バレエ・シアター。恐らく、日本にいるバレエ・ファンのほうがABTのプリンシパル・ダンサーを観る機会が多 いのではないかと想像する。記憶違いでなければ、2001年のシーズンに、ロイヤル・バレエの『ドン・キホーテ(ヌレエフ版)』にアンヘル・コレーラが、 ロイヤル・バレエ初演となったジョン・クランコの『オネーギン』にイーサン・シュティーフェルがそれぞれ客演、更に数年前、突然の代役でフェリが急遽ジュ リエットを踊った以外、イギリスのバレエ・ファンはABTのダンサーを観る機会は殆ど無かったのではないかと想像する。

初日の2月14日、会場となったサドラーズ・ウェルズ劇場は熱気で溢れていた。やはり気になるのであろうか、ロイヤル・バレエからはモニカ・メイスン監 督を始めカンパニーの上層部、また数人のプリンシパル・ダンサーの姿があった。また、ABTのスポンサーと思しきアメリカ人の皆さんが大型バスで大挙して 駆けつけていた。エントラス・ホールではアメリカン・イングリッシュとブリティッシュ・イングリッシュが盛大に飛び交い、さながら旧世界(イギリス)と新 世界(アメリカ)の衝突を見ているようだった。

ABTが用意したプログラムは三つだったが、7公演中、最低5回は観ないと、すべての演目を観ることが出来ないようになっていた。また、3回上演された プログラム2は、穿った見方をするとスター・ダンサー(特に男性)を休ませる目的があったのでは、と筆者が観た夜には思えてしまった。実際、他の日にはそ んなことはなかったそうだが、全体を見渡すとややバランスの悪いプログラム構成だったといわざるをえない。
初日の14日(プログラム1)と15日(プログラム2)を観たが、ありていに言うと、長期海外公演の疲れがあったのかもしれないが、大いに不満の残る舞台だった。
公演の最初の演目は、バランシーンが1947年に創作した『シンフォニー・コンチェルタンテ』。ABTは1983年にレパートリーに加えたそうだ。男性プリンシパルが一人出てくるほかは、すべて女性ダンサーという振付。
バランシーンといえばニュー・ヨーク・シティ・バレエだが、同じアメリカのバレエ団ということで、目のさめるような踊りを期待していた。が、始まってみれ ば、心のときめきが全く湧き起らなかった。目を疑ったのは、コール・ドの動き。初見の演目ということで、もしかしたらこういう振付なのかもしれないと思い 込みたかったのだが、なんとも重く、カンパニーのレパートリーとは思えないほどだった。ソリストの二人も、それぞれヴァイオリン、ヴィオラのソロにあわせ て踊るのだが、旋律を受け止めているようにはみえなかった。モーツァルトのヴァイオリン・コンチェルト(K.364)の音楽を、いったい何人のダンサーが きちんと聞いていたのだろうか?


「白鳥の湖」
  インターヴァルを挟んで始まった中盤は、三つのパ・ド・ドゥから構成されていた。最初は、『白鳥の湖』の第2幕からで、オデットを踊ったジュリー・ケント のたおやかな動きにほっとした。が、続くトワイラ・サープの『シナトラ・スイート』は、バレエ団と名乗るカンパニーが17年ぶりのロンドン公演にもって来 るべきものではなかったと確信する。アンヘル・コレーラのシャープな動きをもってしても、凡庸なミュージカルの一場面でしかなかった。観客が心の底からど よめいたのは、3演目めの『海賊』のパ・ド・ドゥだった。カレーニョが繰り出す高度な技術はエンタテイメントとして上出来。


「イン・ジ・アッパールーム」

「イン・ジ・アッパールーム」


初日の最後の演目は、サープが1986年に創作し、1988年からABTのレパートリーになっている『イン・ジ・アッパールーム』。『シナトラ・スイート』のイメージが残っていたので、どうなることかと思ったが、結果として当夜のハイライトだった。
  スモークがたかれる舞台に次々と現れるダンサーたち。後ろ向きに走る振付が多用されていたように思うが、次々と入れ替わり現れるダンサーたちが、シンメト リカルなフォーメイションの中で、シンメトリカルな振付を踊りつづける。音楽は、ミニマル音楽の巨匠、フィリップ・グラス。グラスの音楽にのって、ダン サーたちの途切れることのない滑らかな踊りを観ていたら、同じくグラスの音楽が使われたドキュメンタリー映画、『コヤニスカッティ(1983年)』が思い 出された。
ダンサーの中では、シュティーフェルの動きが断然、群を抜いていたが、昨年プリンシパルになったデイヴィッド・ホールバーグの切れのよい動きからも目が離せなかった。



「ラ・バヤデール」

マーク・モリス
「Drink to Me Only With Thine Eyes」

「ファンシイ・フリー」

  明くる15日のプログラム2は、上演順に、『ラ・バヤデール(マカロワ版)』から影の王国、マーク・モリスの『Drink to Me Only With Thine Eyes』とジェローム・ロビンズの『ファンシー・フリー』。この夜は、コレーラ、カレーニョ、シュティーフェルの3人は出演しなかった。
『ラ・バヤデール』でもコール・ドはピリッとせず、またニキヤを踊ったイリナ・ドヴォロヴェンコも危うく尻餅をつきそうになるなど、舞台への集中力が持続 できないほど。続く2作品も、「バレエを観にきたはずだったのに」、と溜息しか出なかった。大西洋を挟んで、文化の違いがどれだけ大きいかを改めて考えて しまった。

「ファンシイ・フリー」

筆者の勝手な思い込みが、今回の公演に満足できなかった一番の要因であることはまちがいない。が、ABTに望むのは、全幕ものを引っさげて、時をおかずにロンドンに戻ってきて、満足の溜息をつかせて欲しい。それだけだ。


「グリーンテーブル」

「グリーンテーブル」

「グリーンテーブル」