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守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2006.12.10]

ニネット・ド・ヴァロワの『眠れる森の美女』

  カンパニー創立75周年を記念して、芸術監督のモニカ・メイソンとクリストファー・ニュートンが復活させたニネット・ド・ヴァロワによる『眠れる森の美 女』が時をおかずして再演された。今回は21回と上演回数が多く、7人のオーロラ姫が舞台を彩った。また、この長丁場のためであろう、一部のプリンシパ ル・ダンサーを除き、昨夜はライラック・フェアリー、明日はオーロラ、もしくは、今日は青い鳥、次回はコール・ドの一人という具合に、多くのダンサーたち がいろいろな役に挑戦していた。彼らにとっては体力的には難しい時期だったかもしれないが、日ごろ見る機会のない若手の実力を知るにはうってつけだった。

今年5月に演じたオーロラ役でプリンシパル昇進を果たしたサラ・ラム。この夏、ヴァルナ国際コンクールで銀メダルを獲得したローレン・カスバートソン。 そして誰もが認めるロイヤル・バレエのプリマ・バレリーナのタマラ・ロホ。3人のオーロラを見比べることが出来た。この3人の中では、ロホの圧勝、といっ たところだ。

『眠れる森の美女』
(2006年春)


『眠れる森の美女』
(2006年春)

『眠れる森の美女』
(2006年春)

『眠れる森の美女』
(2006年春)

ラムは、舞台に登場してきたときから、緊張しているのが明らかだった。彼女の技術への評価は既に高いので、どうしてこれほどまで緊張しているのだろう、 と不思議に思ったほど。第1幕では彼女をオーロラ姫と観ることは出来なかった。サラ・ラムというダンサーが、必死に踊っている、そんなとても硬い印象の舞 台だった。
引退したジェイミー・タッパーの代わりにオーロラ姫に抜擢されたカスバートソンは、今シーズンからファースト・ソロイストに昇進したばかり。イギリス人 ダンサーを育て上げたいカンパニーの思惑が見え隠れする。一方で、皮肉ではなく、カスバートソンは現在の自分の技量を充分に理解した上で、その技術の上限 いっぱいで彼女が表現できるオーロラ姫を演じていて好感の持てるものだった。ありていに言えば、古典バレエを踊るプリマ・バレリーナにとっての最難関の一 つ、第1幕のローズ・アダージオで、こちらが望む古典バレエの技術の醍醐味を感じることはなかった。が、オーロラ姫が抱くであろう求婚された喜びは、カス バートソンはきちんと表現していた。ただ、カンパニーには不満がある。どうしてカスバートソンにだけ、あんな醜悪な髷をつけさせたのか。彼女はまだ20代 前半のはずだが、どう見ても実年齢より10歳は上に見えてしまった。
5月の上演時にも、タマラ・ロホの舞台には華があった。一人のバレエ・ファンとして思うのは、ローズ・アダージオを前にして、いつもいつもはらはらする のは心臓によくない。ロホの場合は、満足の溜息が自然に出てきた。技術あってこその古典、その上でダンサーの個性と役柄が見事に合わさった舞台をロホは創 り上げていた。あくる夜に、サドラーズ・ウェルズ劇場にオランダ国立バレエを観にきていたロホに尋ねたところ、本人にとっても会心の舞台だったとのこと。
ロホのプリンスは、フロリムント・デビューを果たしたカルロス・アコスタ。丁寧なパートナリングが、一際映えていた。偶然にも、二人にとっては、この『眠れる森の美女』が今シーズンの初舞台。観客の多くが待ち焦がれていた夜だったはずだ。



『眠れる森の美女』
(2006年春)

『眠れる森の美女』
(2006年春)