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守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2006.10.10]

キューバ国立バレエ

  20数年ぶりの来英となった昨夏の公演では、ロンドンのバレエファン、批評家双方から熱狂的に迎え入れられたキューバ国立バレエ。2年連続となった今年 は、昨年同様すべての演目が、アリシア・アロンソ演出。ミックス・プログラムの「Magia de la Danza (The Magic of the Dance)」、全幕は『ドン・キホーテ』を持ってきた。特に全幕への期待は大きかった。が、会場の観客の熱狂振りは凄まじかった半面、批評家筋からはき つい肘鉄を食ったようだ(サドラーズ・ウェルズ劇場)。

ミックス・プロラムの構成、演目は昨年と全く同じだったので詳細は割愛するが、今回もプレミエ・ダンサー(最高位、ジョエル・カレーニョやヴィェングセ イ・ヴァルデスなど)から、コール・ドに至るまで、ダンサーの技術の高さには目を見張るものがあった。男女とも足音はほぼ皆無、高い上に滞空時間が長い跳 躍など。『ドン・キホーテ』第1幕の闘牛士の群舞では、まるでカルロス・アコスタが6人舞台にいるようだった。コール・ドで特に目を惹いたダンサー、 Elier Bourzac、Taras Dmitro(ともに『コッペリア』のフランツを踊った)を近い将来、世界中の名のあるバレエ・カンパニーのトップ・ランクで見つけても驚かないだろう。


アリシア・アロンソ

『ドンキホーテ』

『コッペリア』

『くるみ割り人形』

今回、批評家のかっこうの餌食になったのが全幕の『ドン・キホーテ』。セットと衣装が安っぽい、ストーリー展開が古臭い、ドラマ性が欠落している、マイムがなっていない等々。そして行き着く先は、「アロンソの存在が大きすぎる」。正直、いじめとすら感じたほど。
確かに、衣装とセットは安っぽかった。ギョッとするようなメイクをしているダンサーもいた。キトリとバジルのグラン・パ・ド・ドゥで二人の衣装が白を基調にしたものだったのも違和感があった。でも、それは絶対に許されないことなのだろうか?

アリシア・アロンソ
  バレエ・スタイルの好き嫌いは仕方ないだろう。しかし、サドラーズの舞台でキューバ国立バレエのダンサーたちが連夜見せてくれたのは、紛れもなくバレエ。 芸術ではなかったかもしれない、でもとびっきりの娯楽だった。バレエが好きなら、残業の命令を無視し、恋人との逢瀬をすっぽかしてなお、チケットを握り締 め、劇場に駆けつけて観る価値があったバレエだった。
そして、今年もアロンソはロンドンにきてくれた。『ドン・キホーテ』の最終日、アネッテ・デルガド(キトリ)とロメル・フロメタ(バジル)に支えられて 舞台に現れたアロンソ。正直、昨年と比べてかなり衰えているように思えたが、観客の拍手にとても嬉しそうだった。割れんばかりの拍手が続く中、最後に彼女 はデルガドとフロメタの支えをさっと振り切って後ろに振り向くと、コール・ドのダンサーたちへ、観客へしたのと同じくらい深く暖かなお辞儀をおくった。ほ ぼ盲目のアロンソには、ダンサーの衣装やセットを見ることは不可能かもしれない。しかし、彼女が育て上げたダンサーたちの舞台は鮮明に見えていたことだろ う。