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守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2006.07.10]

エリザベス女王誕生日を祝うガラ公演

エリザベス女王の誕生日は4月だが、公式行事は6月に行われる。女王はロイヤル・バレエのパトロンなので、6月8日に女王とフィリップ殿下を招いての特別ガラ公演が催された。
会場に行っていささか拍子抜けだったのは、セキュリティ・チェックは厳しかったが、特別な飾りつけなど一切なかったこと。
ゴールデン・ジュビリーの年に亡くなった女王の妹、マーガレット王女が芸術、特にオペラやバレエを好んだのとは対照的に、エリザベス女王は芸術には余り 積極的でないのはよく知られている。が、今年はミュージカルの『ビリー・エリオット』を観劇するなど、バレエ観劇の準備はできていたのではないだろうか。

この夜は、アシュトンの『ラ・ヴァルス』で始まり、最後は『オマージュ・トゥ・ザ・クィーン』で締めくくられた。間にディヴェルティスメンツがあったの は前後の日と同じだが、内容は、バーミンガム・ロイヤル・バレエ(BRB)からもダンサーが参加するこの夜のための特別なものだった。唯一、スカラ座バレ エから参加したロベルト・ボッレは、女王即位50年のときのガラ・コンサート(BBCで生放送された)で、バッキンガム宮殿のボール・ルームでセナイダ・ ヤナウスキーと黒鳥のパ・ド・ドゥを踊ったので、縁がなくはない。

印象に残った点を幾つか。最初の『ナーサリー・スィート』は、1986年、エリザベス女王60歳の誕生日を祝ってアシュトンが振付けたもの。音楽はエル ガー。描かれているのは、幼い頃のプリンセス・エリザベスとプリンセス・マーガレットが、フープやボールを使って一緒に遊んでいる、というもの。これもま た女王のために、というものだが、少々古く感じた。
『二羽の鳩』では、バーミンガム・ロイヤル・バレエの佐久間奈緒の表現力、踊りが光っていた。本当に短いパ・ド・ドゥの中での、細やかな表情の変化はここにもアシュトンのバレエを美しく踊れるダンサーがいる、という事を観客に納得させるものだった。

コジョカルとコボーが踊った『トゥー・フットノーツ・トゥ・アシュトン』は昨年リンベリー劇場で初演されたもの。音楽は、グルックのオペラのアリアから で、今回はロイヤル・オペラの若手歌手育成プログラムの中で最も注目を集めているアメリカ人ソプラノ歌手、ケイティ・ヴァン・クーテンが生で歌った。昨年 観たときから、「これはメインの舞台にもっていっても充分にアピールするだろう」と思っていたが、その通りだった。コジョカルとコボーの牧歌的ながら、エ ロティックな雰囲気を醸し出すパ・ド・ドゥは、舞台上に絵を描いてみせた(2005年7月号で、船引さんの素晴らしいレポートと一緒に写真もご覧になれます)。
こういった演目を寄せ集めたガラにありがちだが、どうしても舞台への求心力が弱かったのだが、最後の3演目で、漸くお祝い気分が盛り上がった。

恐らくギエムが自分で選んだであろうマリファントの『Two』。他の演目から浮いてしまうのではないかと思っていたが、彼女のカリスマティックな踊り は、普段はコンテンポラリーなど見ないと思われる観客を大いに沸かせた。続く『海賊』で、あたかもギエムが擦ったマッチを使って、ダーシー・バッセルとカ ルロス・アコスタがケーキのろうそくに火を灯したようだった。
ロイヤル・バレエはおろか、世界中でも、アコスタと同じくらいの技術を誇るダンサーはそう多くないだろう。アコスタが舞台に出てきた瞬間から、今夜は絶対 に凄いものを観ることができる、という確信をもった。アコスタが空を翔けあがるかのごとく高い跳躍をするたびにロイヤル・オペラ・ハウスにいた観客全員が 同時に息を呑み、同時に大きくどよめく。更にアコスタに刺激されたのか、それとも引き出されたのか、バッセルの踊りも彼女が舞うたびに舞台に宝石が降り注 いでいるのでは、と思うくらい輝いていた。彼女の技術に言葉もなく圧倒されたのは初めてのように思う。

ディヴェルティスメンツを締めくくったのは、『ラ・シルフィード』からリール。夏はスコットランドで過ごすエリザベス女王にとって、馴染み深いものだったのではと想像する。
最後の『オマージュ・トゥ・ザ・クィーン』が終わると、ロイヤル・バレエ・スクールの生徒とダンサー達が舞台上に。モニカ・メイソン女史からのコメント のあと、全員で「ハッピー・バースデー」を。金色の紙ふぶきが舞う中、女王の嬉しげな微笑で閉じた夜だった。


演目 振付 ダンサー 所属
ナーサリー・スィート フレデリック・アシュトン Olivia Cowley
Emma Maguire
RB
二羽の鳩 フレデリック・アシュトン 佐久間奈緒
Chi Cao
BRB
ラプソディー フレデリック・アシュトン 吉田都
フェデリコ・ボネッリ
RB
Two Footnotes to Ashton-1 キム・ブランズト アリーナ・コジョカル
ヨハン・コボー
RB
The Lady and the Fool ジョン・クランコ エリシャ・ウィリス
ロバート・パーカー
BRB
Checkmateから
Black Queen solo
ニネッテ・デ・ヴァロワ セナイダ・ヤナウスキー RB
ウィンター・ドリームス ケネス・マクミラン タマラ・ロホ
ロベルト・ボッレ
RB
Two ラッセル・マリファント シルヴィ・ギエム RB
海賊 マリウス・プティパ ダーシー・バッセル
カルロス・アコスタ
RB
ラ・シルフィード
からREEL
オーグスト・ブルノンヴィル ヴィァチェスラフ・サモドゥロフ
ベサニー・キーティング
マーティン・ハーヴェイ
RB