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守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2006.02.10]

イングリッシュ・ナショナル・バレエによるマクミランの『眠れる森の美女』

ここ数年、イングリッシュ・ナショナル・オペラ同様、不安定なマネジメントに翻弄されてきた印象が強いイングリッシュ・ナショナル・バレエ(以下 ENB)。そんな負のイメージを払拭するためだろうか、ヨーロッパ初演となるケネス・マクミラン振付・演出の『眠れる森の美女』を上演した。イギリスでの 上演は、昨秋の全国ツアーが最初だったが、ロンドンでの上演は1月がはじめて。

  マクミランは、1986年にアメリカン・バレエ・シアターのために振付・演出したとのこと。観る前は、マクミランの『眠り』なんてもしかしたらもの凄く暗 いイメージなのでは、と思っていた。が、実際のステージは、これまで観てきた幾つかの『眠り』のプロダクションの中でも、華やかでいて、恐らく最も原点に 忠実なものだろう。舞台セットは、今回ピーター・ファーマーが手を加えたが、ニコラス・ジョージディアスの豪華ながらも、とても静かで品のある美しさをか ねそなえた衣装との一体感を損なうことが無かった。けなすつもりは無いが、ロイヤルでたった2シーズンしか上演されずに、このままバレエの歴史に埋もれて いきそうな運命のマカロワ版と比べると、古典バレエ、イギリス・バレエのファン双方にとって、こんな『眠れる森の美女』が観たかった、と満足できる演出・ 振付だと思う。

約2週間半の上演期間中、2回観る機会があった。正直な所、ダンサーのレヴェルのばらつき具合はかなり大きいとの印象は否めなかった。特に男性コール・ ドの元気の無さはどうしたことだろう。女性ダンサーは、どのランクでも安定した踊りを披露していたが、中堅クラスのダンサーの腕の動きはもう少し表現力を つけるべきではないかと思えた。

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一際印象が鮮烈だったのは、ENBを代表するカップル、アグネス・オークスとトーマス・エデュール。エデュールはアキレス腱の怪我・手術でほぼ1年近く 舞台に立っていなかった。が、こちらの心配を軽く一蹴し、ブランクを感じさせない舞台センス、技術を堂々と披露していた。また、公私ともにパートナーの オークスへのサポートは、ノーブルなプリンスのお手本のような優雅さだった。

しかし、なんと言ってもアグネス・オークスのオーロラ姫に尽きる。別の日に観たオーロラ姫からは、ローズ・アダージョだけに神経を注いでいたような印象 しかもてなかった。それに対し、自身の踊りの完成度を一瞬たりとも落とすことなく、同時に舞台全体を引き締めているオークスの存在は、プリンシパル以外の 何者でもなかった。付け加えるならば、オークスのローズ・アダージョは、どんな言葉でも表現し尽くせない美しさだった。仮にそのとき照明が落ちてしまった としても、オークスが発するオーラで舞台は輝きを失わなかったことはまちがいない。
芸術監督に、ロイヤル・バレエのかつてのプリンシパル・ダンサーで、オランダ国立バレエの芸術監督を務めたウェイン・イーグリングを迎えたENBがどん なカンパニーになっていくのか。既にウィリアム・タケットの新作がこの春に予定されているし、これからの動向には興味が惹かれる。

http://www.ballet.org.uk/
http://www.theambassadors.com/newwimbledon/sp_p2096.html
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