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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2017.07.10]

スミルノワとチュージンが踊り、魔界と人間のドラマが繰り広げられた『白鳥の湖』

The Bolshoi Ballet ボリショイ・バレエ団
“Swan Lake” choreography by Marius Petipa, Lev Ivanov Alexander Gorky and Yuri Grigorovich
『白鳥の湖』マリウス・プティパ、レフ・イワノフ、アレクサンドル・ゴールスキー、ユーリー・グリゴローヴィチ:振付

『白鳥湖』は、オデット/オディールがオリガ・スミルノワ、ジークフリート王子はセミョーン・チュージンという配役で観た。チュージンはかつてのボリショイの豪快な男性ダンサーたちと比べると、少し線が細く感じられたが、抑えた演舞の中にジークフリートの若さに潜む苦悩を、彼らしい柔らかい表現で表して見せた。
一方、スミルノワはオディールに変じて、なかなかの迫力をみせた。基本に忠実なしっかりと安定感のある踊りで、ジークフリートの苦悩を包み込むように捉えて、完璧に虜にしてしまった。

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ボリショイ・バレエ団『白鳥の湖』撮影/瀬戸秀美(すべて)

芸術監督のマハール・ワジーエフが、サンクトペテルブルク生まれ、ワガノワ・バレエ・アカデミーを卒業し、マリインスキー・バレエでプリンシパルとして踊り、芸術監督をも務めていたこともあるかもしれないが、かつてのウラジーミル・ワシーリエフ、イレク・ムハメドフといった勇壮にして野性味溢れ、巨大なボリショイ劇場のプロセニアムを飛び出さんばかりに踊る、いわゆるボリショイ的なダンサーも見かけなくなった。代わりに典雅な雰囲気と豊かな音楽性、ヴィジュアルの美しさ、というものが前面にうちだされているかのようにも感じられた。
グゴローヴィチの演出は、背景の中央に床に向かって沙幕垂らす巨大なエンブレムのような、魔術的なオブジェを二つ設えて、時に応じて挙げたり入れ換えたりして、ジークフリートへの強迫的な心理を表して効果的だった。しかし確かにこうした演出により、観客に魔界を感じさせることはできていたが、ドラマティックな深い展開はもう一つ伝わってこなかった。音楽的な空間とドラマ的な感動の融合、という意味では『ジゼル』ほどの成功を収められていない、と思う。
第2幕では、チャールダッシュ、スパニッシュ、ナポリ、マズルカに加えて、近年のロシアのカンパニーのヴァージョンとしては珍しく、ルースカヤ(アナスタシア・デニソワ)が踊られ、王宮らしい華やかな雰囲気が溢れれた。
(2017年6月7日 東京文化会館)

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tokyo1707b_2377.jpg ボリショイ・バレエ団『白鳥の湖』撮影/瀬戸秀美(すべて)