ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2017.05.10]

国内の四つのバレエ団がそれぞれの持ち味を出して、華やかに競演した「NHKバレエの饗宴 2017」

NHKバレエの饗宴 2017
井上バレエ団『ナポリ』第3幕からパ・ド・シス、タランテラ、フィナーレ(オーギュスト・ブルノンヴィル:振付)、貞松・浜田バレエ団『死の島----Die Toteninsel』(森優貴:振付)、新国立劇場バレエ団『テーマとヴァリエーション』(ジョージ・バランシン:振付)、牧阿佐美バレヱ団『眠れる森の美女』から第3幕(テリー・ウエストモーランド:振付)

「NHK バレエの饗宴」は、2012年より毎年、日本のバレエ団と著名なダンサーのペアなどが参加して上演されている。今年は国内の井上バレエ団、貞松・浜田バレエ団、新国立劇場バレエ団、牧阿佐美バレヱ団という四つのカンパニーが参加し、妍を競った。

tokyo1705nhk_01.jpg 井上バレエ団「ナポリ」
撮影:瀬戸秀美(すべて)

恒例の映像によるオープニングに続いて、井上バレエ団によるブルノンヴィル振付の『ナポリ』第3幕からパ・ド・シス、タランテラ、フィナーレが踊られた。
井上バレエ団は、1984年、当時、デンマーク王立バレエ団プリンシパルだったフランク・アンダーソンがゲスト出演して以来、ブルノンヴィル・スタイルを継承しているこのカンパニーとの交流を深め、ダンサーを派遣したり、毎年、教師を招聘してサマーセミナーを開くなど積極的な活動を行っている。そしてブルノンヴィル版の『ラ・シルフィード』や『ナポリ』『コンセルヴァトワール』『ゼンツァーノの花祭り』のパ・ド・ドゥなどをレパートリーとしてしばしば上演している。
ブルノンヴィル・スタイルのステップは、いつ観ても楽しい。ちょうどリバー・ダンスのように上体を保ち脱力させて踊る。ステップの軽やかさがそのままダンスの楽しさになっているところがとてもいい。タランテラも民族舞踊の良さを活かした構成で、仲間たちが輪になって次々と踊りに加わってくるところには、舞踊本来の有り様が見られた。踊っている人も手拍子で囃している人も共感が行き渡っており、舞踊が踊り手とともに生きていることが、直接、観客に伝わってくる。主演の宮嵜万央里、荒井成也もよかった。ただ全体的には、できればあと一歩のエネルギーの燃焼が欲しい、とも感じられた。

一転して、ドイツのレーゲンスブルク歌劇場ダンスカンパニーの芸術監督を務める、森優貴振付の新作『死の島ーDie Toteninsel』が初演された。森の出身の貞松・浜田バレエ団の5人(堤悠輔、瀬島五月、水城卓哉、東沙綾、宮本萌)のダンサーが踊った。
ラフマニノフの交響詩『死の島』に触発され、「重厚なドラマと世界観を創りたい」と試みている。現代には「災害や政治情勢、テロリズム、難民問題などがあり、、」その背景には、この時代特有の死への恐怖があるという。ただ死への恐怖は、有史以来人類が常に背負ってきたものなのだが、それを現代特有のものとして改めて捉え直し、実感的現実を表現をしているかに見えた。扉とテーブルを用いているが、残念ながらよく見かけるダンスの小道具以上の象徴性は現れなかったと思う。現実の実感的不安を自分の好きな筆を使ってタブロウーに描いた作品と感じられたが、どのような方法を用いて描こうとしているのか、を私には明快に感じ取ることができなかった。

tokyo1705nhk_02.jpg 貞松・浜田バレエ団「死の島----Die Toteninsel」 tokyo1705nhk_03.jpg 新国立劇場バレエ団「テーマとヴァリエーション」

新国立劇場バレエ団は、バランシンの『テーマとヴァリエーション』を踊った。今年2月の「ヴァレンタイン・バレエ」で上演したばかりだから、というだけでなく見事な舞台だった。米沢唯と福岡雄大が踊ったプリンシパルのペアは、正確かつ明快に踊り、会場の喝采を浴びた。周知のようにこの作品には、バランシンを舞踊家へと導いた帝政ロシア時代のクラシック・バレエへの彼の郷愁が込められている。それを単なるノスタルジーとして流し描くのではなく、しっかりと構成して組み立てたバレエを建築している。改めて20世紀の舞踊家バランシンの偉大さに感じ入った。

最後を飾ったのは、牧阿佐美バレヱ団の『眠れる森の美女』第3幕だった。1982年以来、このカンパニーのレパートリーとなっているウエストモーランド版である。伝統と原典を重んじた格調高いヴァージョンだ。宝石の精の踊りとデヴェルティスマン、グラン・パ・ド・ドゥ、コーダが整然と踊られた。オーロラ姫は青山季可、フロリモンド王子はラグワスレン・オトゴンニャム、青い鳥のパ・ド・ドゥは織山万梨子と清瀧千晴、リラの精は中川郁。ダンサーそれぞれが演し物に大いに敬意を表しながら踊り、クラシック・バレエへのオマージュとしても見ることができる良い舞台だった。

tokyo1705nhk_04.jpg 牧阿佐美バレヱ団「眠れる森の美女」 tokyo1705nhk_05.jpg フィナーレ