創立者のテクニックの素晴らしさを再発見させた、リモーン・ダンス・カンパニー公演

The Limon Dance Company リモーン・ダンス・カンパニー

"Concerto Grosso" by Jose Limon, "Corvidae" by Colin Connor, "The Exiles" by Jose Limon, "A Choreographic Offering" by Jose Limon, "Night Light" by Kate Weare
『コンチェルト・グロッソ』 ホセ・リモーン:振付、『カラス』 コリン・コナー:振付、『追放者たち』 ホセ・リモーン:振付、『振付のプレゼント』 ホセ・リモーン:振付、『ナイトライト』 ケイト・ウェア:振付

アメリカのモダンダンスの草分けの一人、ホセ・リモーン(Jose Limon 1908-1972)が創立したリモーン・ダンス・カンパニーの公演が行われた。今の新しい世代には忘れかけられたダンススタイルだが、リモーン・テクニックといえば、マーサ・グラハム・テクニックと並んでアメリカのモダンダンスの基礎である。そんなリモーンのレパートリーを保存、継承していくためにも、こうしたカンパニー公演は重要な活動と言える。今回は二つのプログラムに分け、外部若手振付家の作品も含めて6作品が発表された。そのうちの一つのプログラム(5作品)を見た。

まずはリモーンの作品、『コンチェルト・グロッソ(Concerto Grosso)』で幕を開けた。音楽はヴィヴァルディのコンチェルト11番ニ短調。二人の女性(Kathryn Alter、Elise Drew)と一人の男性(Jesse Obremski)によるトリオで、円を中心とした動きのリモーン・スタイルが強く表れた振付である。腕も動きも弧を描いて、柔らかく、優しいイメージだ。美しい曲にダンサーたちは笑顔で踊る。柔らかい動きで身体の使い方も柔らかいが、ダンサーたちの身体は筋肉質だ。何故なら、重力を使ったり、カウンターバランスで作る形を交えるリモーンの振付は、ぎりぎりまでバランスを取らなければならない、筋肉の強さを要求するからだ。アメリカモダンダンス特有の土臭さも感じさせる踊りをダンサーたちは、無邪気に楽し気に踊りあげた。

『Concerto Grosso』photo Ben Licera

『Concerto Grosso』photo Ben Licera

次に踊られたのは現芸術監督のコリン・コナー(Colin Connor)の作品『カラス(Corvidae)』で、フィリップ・グラス(Philip Glass)の曲に振付けられたもの。一人の男性ダンサーが下手から暗いステージに歩き出る。スポットのように彼に当たる照明。反対側から同様に女性が出てきて無音で踊り出す。次々とダンサーが現れる。リモーンとは全く違う、コンテンポラリー・ダンスのスタイルだ。出てきては動き出すダンサーひとりひとりに照明が当たる。黒人の男性レオン・コッブ(Leon Cobb)が出てきた時点で音楽が始まった。コッブがいきなりジャンプをして、両脚のシャープな長いラインを見せる。素晴らしいダンサーだ。6人のダンサーによって踊られ、どのダンサーもシャープな動きを見せて、非常に洗練されたユニセックスの踊りである。最初の男性が最後に残り、歩き去って終わる。作品がきびきびとして長すぎないのも良かった。

『Corvidae』photo Christopher Duggan

『Corvidae』photo Christopher Duggan

この舞台で一番印象に残ったのがリモーンの作品、『追放者たち(The Exiles)』だった。シェーンベルグ(Arnold Schoenberg)の曲に振付けられている。暗い照明の中、上手奥から肩を抱き合って逃げるかの様な男女ダンサー(Kristen Foote、Mark Willis)が現れる。舞台の床の上二か所にひもが置かれており、二人の身体は茶色の総タイツで覆われている。一瞬、グラハム作品を連想させるシアター性の高い作風だ。すぐに楽園を追放されたアダムとイブというイメージが湧いた。女が床のひもを取り上げ、恥ずかし気に体に巻き付ける。困惑と混乱が伝わってくる。男もひもを体に巻き付ける。動きは違うが二人ともバレエの基礎をしっかりと身に着けているダンサーたちだ。豊かな感情表現を交えて、二人で犯した罪に苦しむ様子が、デュエットで作る形やリフトを通じて伝わってくる。しかし、二人の間には信頼感がある。音楽が明るいものに変わると、女がひもから抜け出して、喜びと開放感に包まれて踊る。新しい世界に活き活きと踊るかのようだ。男もひもを取って、二人でのびのびと踊り出す。しばらく二人の官能的な表現で踊るが、また女性に変化が現れる。今度は挑むような、けん制するような表情だが、次の瞬間セックスをするかのような表現があり、再び恥ずかしげな様子となる。この辺は動きも大変な柔軟性を要求するものだが、ダンサーたちは何気なく踊りこなした。そして、また二人で逃げるような動きとなる。上半身裸の男性は汗で身体が美しく光っている。二人で支え合いながら逃げる様子は苦しみと不安と恐怖の始まりを示していた。そして舞台中央で抱き合って終わる。これが人間の姿なのだという風に。プログラムには全く説明は無かったが、見るだけで見事にメッセージを伝える作品であった。

『The Exiles』photo by K. Chang

『The Exiles』photo by K. Chang

『The Exiles』photo by K. Chang

『The Exiles』photo by K. Chang

次に演じられたのは同じリモーンの作品だが、全く雰囲気の違う、『振付のプレゼント(A Choreographic Offering)』からの抜粋の組曲。バッハのA Musical Offeringに振付けてあるというウィットの効いた作品だ。この作品はいわばリモーン・テクニックのショーケースの様な作品。。3人の男性トリオによる活気のあるダンスに始まり、大勢のダンサーの群舞となる。優しく平和で、優雅な踊りが展開する。テクニックの典型を見せると同時に、リモーンの人柄も感じさせる作品である。大勢のダンサーが踊るが見事にデザインされてごちゃごちゃしていないのが、リモーンの優れた技と言える。男女デュエット、女性のソロと次々とフォーメーションを変えながら、柔らかい円を様々に見せる。リフトも軽く見え、柔らかいプリエやジャンプが展開するが、テクニックとしては非常に強い筋力を要するものだ。走り、ジャンプ、ターン、ポール・ド・ブラと、テクニックのすべてを美しいクラシック音楽に載せて見せた。美しいプレゼントである。

この日の最後を飾ったのは、ゲスト振付家、ケイト・ウェア(Kate Weare)の作品、『ナイトライト(Night Light)』。男女ダンサーが暗い舞台に出てきて抱き合って始まる。ジャンプをした時の長いラインが印象的だ。音楽とは全く違うリズムを作り出すなど、難しい試みも含まれた振付だが、ダンサーたちはリモーン・テクニックとは全く違うこのスタイルを、素晴らしく踊りこなしている。足踏みでリズムを作り、デュエットが次々と続く。最初は全員、ショーツの上にTシャツの様なトップを着ているが、ダンサーの半分がそれを脱いでビキニ風の衣裳になって踊り出し、美しい肉体が現れる。振付には女性同士、男性同士のリフトも含まれる。全く違う振付けだと、同じダンサーが別人に見えるのが面白い。この作品ではダンサーの多様性を見ることができたが、作品としては主張が見えなかった。最後に群舞のダンサーたちの前で、二人の男性ダンサーが向き合って立ち、ゆっくりと観客を見て終わる。観客にはこれがジョークに見えたらしく、笑い声が起こってこの舞台は終了した。

アメリカのモダンダンスは創立者が逝去したカンパニーが増えており、創立者以後の維持が大きな問題となっている。リモーン・ダンス・カンパニーもそうした試練の中にあるカンパニーだが、この舞台では創立者とそのテクニックの素晴らしさを再発見させてもらうことができたと言える。
(2017年5月3日夜 Joyce Theater)

ワールドレポート/ニューヨーク

[ライター]
三崎恵里

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