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三崎 恵里 text by Eri Misaki 
[2017.01.10]

『ナイト・クリエーチャー』『リイベレーションズ』、ウィールドン、インガー作品を上演、アルヴィン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアター

Alvin Ailey American Dance Theater
アルヴィン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアター

毎年恒例のアルヴィン・エイリー・アメリカン・ダンスシアターの公演が今年もニューヨーク・シティ・センターで行われた。
この日の公演はアルヴィン・エイリー(Alvin Ailey)振付の『ナイト・クリエ―チャー(夜の生物/Night Creature)』でオープンした。デューク・エリントン(Duke Ellington)のオーソドックス・ジャズ曲に振付けられた、ジャズ・モダンダンスである。ステージングは茶谷正純(Masazumi Chaya)。夜の街に展開する男女の戯れ合いを描くようなダンス。ジョークがそこここに込められていて、おどけながらも、しっかりしたテクニックで踊られる。女性はロングドレス、男性はパンタロンユニタードの衣裳で、粋なジャズモダンダンスにバレエテクニックをふんだんに詰め込んである。
最後に家に帰る時間になったかのように、ダンサーたちが一人一人退場すると、リードダンサーのアクア・ノニ・パーカー(Akua Noni Parker)は踊りながら、それぞれに丁寧に挨拶をする。しかし、最後の男性には「さっさと行きなさいよ」とばかり手で払うようなしぐさをして、観客を笑わせた。華やかなジャズ曲の視覚化で、いつまでも楽しませる作品である。

ny1701c_04.jpg Night Creature. Photo by Gert Krautbauer
ny1701c_02.jpg After the Rain Pas de Deux Photo by Paul Kolnik

バレエの振付家クリストファー・ウィールドン(Christopher Wheeldon)がアルヴォ・パルト(Alvo Part)の曲に振付けた『雨の後(After the Rain Pas de Deux)』はエイリー・カンパニーが2014年に初演したデュエットだ。ともすればバランスを崩しやすい女性(リンダ・セレステ・シムズ/Linda Celeste Sims)と彼女を支えるかのような男性(グレン・アレン・シムズ/Glemm Allen Sims)の姿は、何かが起こったカップルを描くようだ。バレエのテクニックがしっかりしたダンサーたちによる美しい表現は、しっとりとして心に語り掛ける様だ。最後に女性の体の下に自分の体を入れ、男性が女性を支えるようにして終わる。もろい人間関係を生き抜く理想的な夫婦の在り方とも受け止められた。

NDT(ネザーランド・ダンスシアター)で、ダンサー、振付家として活躍したヨハン・インガー(Johan Inger)の作品『ウオーキング・マッド(Walking Mad)』は、モーリス・ラヴェル(Maurice Ravel)とアルヴォ・パルト(Arvo Part)の曲に振付けた作品。NDTの舞台を色濃く連想させるものであった。ウオーキング・マッド、歩く狂気というタイトルと作品の内容から、人間の人生の一部を扱ったテーマと思われる。このような抽象的な作品は、敢えて曖昧にして観客に解釈の自由を与えるように作られているので、ここで私が書くことはあくまでも個人的な解釈と受け止めてほしい。
作品は一人の、コートを着て帽子を被った男が客席からステージに上がり、シャッターを上げる様に緞帳を上げて始まる。舞台奥にはドアのついた壁があり、その壁をダンサーが動かして場面を次々と作る。
私の解釈では、男は家庭に憧れ家庭生活の真似事のような生活をするが、結局は家を出て行く。その一部始終を男性の立場と女性の立場の両方から表現していると思われた。ダンサーたちが常に壁の向こうを覗くようなしぐさをしており、これは家、あるいは家という「安心できる世界」から外の世界への興味を示しているとも思われる。ダンサーたちは、終始ドアを通じたり壁の横をすり抜けて壁のこちらと向こうを行き来して踊る。ユーモアを加えたり、苦悶を加えたり、様々な感情が表現されるが、家の中にいても必ずしも納得しない(できない)人間の性(さが)を描いているように思われた。最後には一組の男女が葛藤する人間関係を描くようなデュエットを踊り、人生の方向性を見失っているかのような女性にコートを渡した男性が帽子を被って壁の上から向こうに飛び降りる。呆然とした様子の女性を残して終わる。非常に難しい作品だが、観客の経験が深まり、何度も見ることによって共鳴する部分が増える作品と思われた。

ny1701c_01.jpg Walking Mad. Photo by Paul Kolnik ny1701c_03.jpg Walking Mad. Photo by Paul Kolnik

この公演の最後はエイリー振り付の『リベレーションズ(Revelations)』で幕を閉じた。この作品なくしてカンパニー無しとも言える、まさにシグネチャー作品である。
毎年の公演で毎晩踊られるこの作品は、ダンサーたちにとっても、もう手慣れたレパートリーだが、敢えて印象に残った場面を挙げると、「神よ我を導き給え(Fix Me Jesus)」でのサラ・ダリ―(Sarah Daley)とジェロボーム・ボーズマン(Jeroboam Bozeman)の踊り。人間が神に祈る心境を表現した場面である。ダリ―は美しいラインでティルトしたまま、微動だにせずスムーズなプロムナードをして見せて観客から拍手が沸いた。自分を諫める心の美しさを描いた作品でもあるが、そんな心を支えるようにボーズマンも踊った。この日はこの作品をライブ音楽で上演し、音楽はシンガーによって歌われたが、少々遅くコントロールされて感じたのと、いつも使われる録音曲が凄い迫力を持っているため、若干ドライブが足りなく感じた。その分、ダンサーたちが頑張って盛り上げた
(2016年12月2日夜 New York City Center)

ny1701c_05.jpg Revelations. Photo by Gert Krautbauer