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インタビュー/三光 洋
[2015.03. 2]

パリ・オペラ座総監督ステファン・リスナー単独インタビュー

「8人の候補者の中でミルピエだけがプログラムの選択にあたって、音楽を決定的な要素だと考えていました」

連日、超多忙を極めるパリ・オペラ座総監督ステファン・リスナー。バステチーユ・オペラの総監督室でインタビューすることができたので、これからのオペラ座のバレエについて聞いた。

三光 2月4日に行われた記者会見を聞きました。本当に来シーズンが楽しみです。バンジャマン・ミルピエ・バレエ監督とフィリップ・ジョルダン音楽監督の間にリスナーさんは座っておられましたね。

1502POB05.jpg (C) 三光洋

ステファン・リスナー(ミルピエ・バレエ監督についてはジャーナリストの方々も大いに関心を持たれていますが)私は、ダンサーや振付家を雇ったのではなく、バレエ監督を雇ったのです。154人のダンサーたちのいるパリ・オペラ座バレエ団を統括するのが彼の役目です。振付家ですから振付をしても良いのですが、一番大切なのは監督としての仕事です。
8人の候補者の中でミルピエだけがプログラムの選択にあたって、音楽を決定的な要素だと考えていました。それが彼を選んだ理由です。大作曲家であるバッハ、ストラヴィンスキー、プロコフィエフ、リゲッティといった人たちの音楽が素材となり、彼自身が言っているように「ダンスを音楽の楽譜の水準まで引き上げる」のが目標なのです。また、バレエに取り組む姿勢として的確な知性の持ち主であるアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルを、すでに二回招聘しています。

三光 オペラ座がパリ王立アカデミーとして誕生し、その原点にいるジャン=バティスト・リュリは作曲家であるとともに、ダンスにも通じた人物だったというカンパニーの伝統に沿っていますね。

リスナー その通りです。ダンスと音楽、バスチーユ・オペラとガルニエ宮、オーケストラと合唱、オペラとバレエ、これらが一体となるようにするのが私の目指す方向です。現在のように各部門がばらばらではなく、全てが一つになった歌劇場になることが重要です。

三光 プログラムにそのことは明瞭に出ていると思います。バランシンのように音楽に触発されて作品を作った人がプログラムの要になっていますね。
バレエ団がまもなく2017年3月に日本公演を行うそうですが。

リスナー まだプログラムは決まっていません。2018年はアメリカ公演を行います。2015・16年のシーズン中に日本公演をどのように行うかを決めます。今までとは違う新しい内容が含まれることになるでしょう。

三光 日本人が今後パリ・オペラ座に登場するとすれば演出面でしょうか。3月にはシャンゼリゼ歌劇場で藤倉大の新作オペラ『ソラリス』を勅使川原三郎が演出します。

リスナー 勅使川原三郎は才能のある人です。まだ日本人にはエクサン・プロヴァンス音楽祭で『斑女』を初演した細川俊夫のような素晴らしい作曲家がいます。(注:リスナーはエクサン・プロヴァンス音楽祭の総監督を務めていた)日本にはダンスの世界に優れた人材がいるように感じています。

三光
 1月にはスウェーデン王立バレエ団のガルニエ宮公演で木田真理子が、マッツ・エック振付の『ジュリエットとロミオ』でジュリエットを踊って話題を集めました。
http://www.chacott-jp.com/magazine/world-report/from-paris/paris1504a.html

リスナー 彼女は天才的なダンサーです。

三光 バレエに強い関心を持たれるようになったという印象をプログラムから受けました。

1502POB06.jpg (C) 三光洋

リスナー まずバレエ監督の選択に大変なエネルギーを注ぎました。ユーグ・ガル、ジェラール・モルティエ、ニコラ・ジョエルという私の前任者三名はバレエ監督を任命していません。私は25年間にわたったブリジット・ルフェーブル前バレエ監督の素晴らしい仕事を評価しています。しかし、私は総監督としてバレエ監督を選ぶという立場になったのです。多くの圧力がかかってきましたが、そうしたことには興味はなく、自分自身がバレエに興味を抱くようになりました。パリ・オペラ座総監督になってからほとんど一年間、ロンドン、アメリカなどへ海外出張があるたびにバレエを外国でも見ました。そのうち半年の間はそれだけしかやらなかったくらいです。バレエ公演を見て、関係者に会い、話をたくさん聞き、バレエの歴史の本をたくさん読みました。パリ・オペラ座が刊行したバレエの歴史について素晴らしい本がありますね。その中に書かれていたことは考察に大変に役に立ちました。「バレエを愛するようになった」というと大袈裟ですが、本当にダンスに対して強い関心を持つようになったのです。
トリシャ・ブラウンとウイリアム・フォーサイス作品がガルニエ宮で上演され、同時に『ドン・キホーテ』がバスチーユで上演されていた時には文字通り魅惑されました。ダンサーたちの驚くべき規律、集中力、その肉体の美しさに目を奪われ、それからはバレエから離れられなくなりました。最近ではピエール・リガルの新作『Salut(挨拶)』を3回もガルニエ宮に見に行きました。好きな作品とそれほどでもない作品があるのは確かですが。昨年は昇級試験にも総監督として出席しましたし、これからも欠かさないつもりです。昇級試験を見ているとバレエについて実に多くのことを学ぶことができます。候補者が選んださまざまな振付を見て、ダンサーの多様な個性に触れる貴重な場です。
バレエに時間をかけるようになったのは最近ですが、以前から私はシャトレ歌劇場総監督時代にフォーサイスをレジデント・コレオグラファーに招聘したり、ピナ・バウシュと交流したりしました。アンヌ・テレザ・ドゥ・ケースマイケルとは本当に近しい関係を築くことができましたが、彼女はこれから数年間パリ・オペラ座に大きな尽力をしてくれます。私は、彼女は今盛んに活動している振付家ではフォーサイスと並ぶ世界最高の振付家だと思っています。こうしてモダンダンスから入って、現在は次第にクラシック・バレエを発見しつつあるところです。音楽も現代音楽から入り、後になってクラシックに親しむようになりました。私は普通の人と違って現代の作品から入って、次第に古いものへと関心が広がっていくのです。