想いを継いでいく「BOLERO-最終章-」出演 長澤風海:インタビュー

インタビュー&コラム/インタビュー

「言葉では表現しきれない程に神の魅力溢れる『ボレロ』の世界観を追求したダンスドラマを作り上げることができたら」との思いから始動したダンス・プロジェクト"BOLERO"のラストを飾る公演、〈ENTERTAINMENT DANCE PERFORMANCE「BOLERO-最終章-」〉が7月18日に開幕する(東京:7月18日~25日 大阪:7月30日、31日)。
東山義久と三浦宏規、蘭乃はなを中心としたキャストが総合演出の植木 豪、総合振付の大村俊介〔SHUN〕と共に作り上げるこの公演に、プロジェクトの初回から全作に出演している、ダンサー⾧澤風海に話を伺った。

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――前回インタビューさせていただいたのが2020年の「アルジャーノンに花束を」の時で、コロナ禍真っ只中でした。コロナ禍以前と比べて、何か変化はありましたか。

長澤 そうですね、コロナ禍を経て、ここ1年くらいで代役やスウィングシステムなどが増えて、出演者にとってのサポートが充実してきたなと感じております。

――確かに。日本ではあまり聞かなかったスウィング制度ですが、だいぶ当たり前になってきた感がありますね。

長澤 稽古場代役などもそうですし、コロナ以前は少し体調が悪いくらいだとなかなか言いにくかったのですが、ちょっと怪我をしたとか体調が悪いということを素直に言えるようになったことは、ダンサーはもちろん全ての演者さんにとって良い環境の変化になったと思います。
少しくらいなら我慢して頑張ってしまう国民性といいますか、日本ではそういう人が多いですからね。

――観る側にとっても、オンラインで配信など観られる選択肢が広がったのは嬉しいことです。

長澤 そうですね、オンラインならではのコンテンツもできたりとか。配信技術のレベルも上がって、様々な撮り方があったりね。劇場まで行くのは難しいという方にも観ていただける、楽しみ方の間口が広がったのかなと感じています。

――やっぱり生の舞台が一番だとは思いますが、観られる手段が増えるのは嬉しいです。

長澤 ライブが一番ですからね!でも舞台に興味を持ってくださる方がこれで増えたなら、とも思います。

――"BOLERO"は、「肉体の可能性を追求すること」を旗印に東山義久さんが立ち上げたカンパニーということですが、長澤さんは東山さん以外で唯一、過去2回の公演と今回、全ての公演に参加されています。
まずは2013年の『BOLERO-Paradise Lost-』を振り返ってみて、何か印象に残っていることはありますか。

長澤 何かを立ち上げるということは、ある種の挑戦であり、手探りの部分がとても多かったのではないかなと思います。僕も当時振付けにも入らせていただいていたのですが、ダンス公演ということでどうやって物語を肉体で紡いでいこうかと。演出の宇治川まさなりさんがいらっしゃってストーリーはあったのですが、セリフや歌があるわけではなかったので。身体表現においてどう紡いでいくのか、マイムっぽくなったり一辺倒になってもいけないですし。肉体の可能性を追求するっていうのは、ただ身体的に踊るというより、肉体表現のうねりをストーリーに乗せていくことで、ある種抽象的な表現にはなると思うのですが、視覚と音楽と人間が持つエネルギーによって物語ができれば、というのが理想だったと思います。それを手探りでやっていましたね、当時は一生懸命やっていました。
東山さんと栫プロデューサーの想いがぶつかりあって、稽古場での話し合いもたくさんありましたし、作って、壊して、また作ってということの繰り返しでした。セリフが決まっているものではない、肉体表現だからこその関係性であり、ぶつかり合いといいますか。ある種の空気感、空間を肉体によって作っていくという難しさがあり、それを僕は間近で見て感じました。観る人によってどうみえるんだろう、というのもあって、プロデューサーからは「これでは分からない」とか「何を提示しているんだ」と言われることもありました。全部を説明する必要はないですが、やっぱり一つのシーンとして提示するものははっきりさせなくてはならなかったり、でもそれが説明的になってはいけなかったり、難しいと思いました。
率いていく東山さんがいて、今回も振付けしていただく原田薫さん含め振付家も何人もいて、プロデューサー側と、お客さま側と、どういう風な積み重ねをしていくのか。新しいものを作る、可能性を追求するということに対して妥協しないお二方のエネルギーがあったから、この"BOLERO"は今日まで続いてきたのかなと思います。

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公開ゲネプロより

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公開ゲネプロより 長澤風海(前列左から2番目)

――続く2016年の『BOLERO 2016 -モザイクの夢-』では、長澤さんは3兄弟の重い病を抱えた末の弟という役どころでした。

長澤 原田薫さんと辻本知彦さんというとんでもない大物の姉兄の弟でした(笑)。小林香さん演出でこの時は歌もありました。初演時は東山さんを通した物語だったのが、再演時は3組のオムニバスストーリーが混ざり合って最後のボレロに集結していくという形でまた違ったテイストでした。

――東山さんが先頭に立つ舞台は、この"BOLERO"シリーズをはじめ多くがダンスがメインでストーリーがあって、エンターテイメントとして確立されていると感じます。
今年の1月に長澤さんが立ち上げたWind Light Projectの舞台「~Dance Espressivo~re;present」も、ダンスのみで物語を追いつつ様々なジャンルの踊りを楽しめる舞台でした。

長澤 『BOLERO』もそうですし、栫プロデューサーの『DANCE SYMPHONY』シリーズ 3作、それから過去には新上裕也さんが立ち上げた『GQ』にも出演させていただいていて、僕自身もものすごく影響を受けてきました。ダンスによって可能性を広げていくということが僕の中にも根付いて、その想いを継いでいきたいなというところで1月の公演はやらせていただきました。

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三浦宏規

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三浦宏規

――様々なジャンルのダンスの中でクラシック・バレエもあって、笑えるような演出もあるけれどしっかりバレエとして観せるシーンもあって、とても面白かったです。

長澤 色々なジャンルが確立しているところも見せたいですし、フュージョンしているところも見せたかったんです。アートとエンターテイメントの両方を。

――初めて観る方にも新たなジャンルの良さがきちんと伝わったのではないでしょうか。

長澤 ありがとうございます。往々にしてフュージョンしすぎてしまうと一体これはなんなんだろう?となってしまうこともありますしね。僕の公演の場合は物語ありきの1部からノンストップで、ショーケースように色々な得意ジャンルをしっかり際立たせたナンバーでポイントとなっていただく方を一人一人決めて、という形でつくっていきました。

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――タップもジャズもあって、男子新体操なんてなかなか観る機会もないので新鮮でした。

長澤 男子新体操はやはり身体性がすばらしくて。「~Dance Espressivo~re;present」に出演してくれた新井智貴くんとは川井郁子さんの「デビュー20周年音楽舞台&コンサート」でBLUE TOKYOさんに振付けさせていただいた時に出会いました。そこから新体操を見るようになってこれは面白いんじゃないかなと。

――今回もアクロバティックな方もいらっしゃるみたいで楽しみです。

長澤 トリッキングとかもできるみたいですし、すごいダイナミックですよ。稽古場でもびっくりしてます。

――今回の「BOLERO-最終章-」はどんな舞台になるのか、お話できる範囲で教えてください。

長澤 東山義久さんと三浦宏規くん、蘭乃はなさんの3人を中心とした出会いと別れの物語になっています。栫プロデューサーが「夢と幻想と煌めきが集結して白銀の雪が降る」というような事をおっしゃっていましたが、蘭乃さんのシーンでは彼女の心情を踊るダンサーがいたり、東山さんのナンバーはストーリーの中での景色だったり彼の想いだったり、二人の感情のぶつかり合いだったり、シーンごとにそれをダンサーが表現していくというような形になるのかな、と。僕もまだ全容は分からないのですが、シーンごとにダンサーの表現するものが違ってくるので、色々な感情が集まって最後のボレロのシーンにつながっていくのかなと思っています。

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長澤風海 振付「紅季」のシーンより

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蘭乃はな

――今回も振付けにお名前がありますね。

長澤 はい、今回も1曲振付けさせていただきます。蘭乃はなさんの場面で約7分間のシーンを作っています。僕が担うシーンではバレエダンサーがメインで、髙橋慈生くん、MAOTOくん、木村咲哉くんと僕と蘭乃さんの5人のシーンです。5人で7分間というのは結構なボリュームなんですが、これこそ肉体のエネルギーを存分に使い、かなり大きな空間ですので一人一人のエネルギー値を最大限までもっていけるような積み重ねを、1曲のなかでストーリーとして積み上げていきたいなと思っています。それが東山さんと三浦くんを想っての彼女の狂気、嫉妬や不安、怒りだったりと、そういうものが集まって最後どう感情の爆発に繋がっていくのかな、と。そういうシーンを今作っているところです。
栫プロデューサーから、しっかり積み重ねのあるバレエをベースとして作って欲しいけれど、バレエを少し超えて肉体のエネルギーが迸るものをと言われているので、蘭乃さんもバレエを踊れますが、ひとつ超えた表現が出てくるといいなと、僕自身も試行錯誤しながらバレエのテクニックをベースに使いつつ立体的なコンテンポラリーの動きを入れたりだとか、マイム的な動きを入れたり、色々な要素を散りばめたいなと思いながら作っています。
蘭乃さんの移り変わっていく感情を身体によってどういう風に表現するか、その積み重ねがエネルギーとなって、身体的なものと心のエネルギーが同調して最後爆発したらいいんじゃないのかな、と思いながら作っています。

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東山義久、三浦宏規

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――バレエ作品「ボレロ」については何か思い入れなどあるでしょうか。

長澤 ベジャールさんの「ボレロ」は首藤康之さんの踊りなど見ています。ジョルジュ・ドンさんが好きなので「愛と哀しみのボレロ」も何回も見ています。ローラン・プティ版『ボレロ』も熊川哲也さんが踊ってらしたのを見ました。プティ版もちょっとおしゃれな感じで僕は好きです。

――今回も様々なジャンルのダンサーさんたちが集まっています。

長澤 今回ははじめましての方が半分くらいですかね。三浦宏規くんは10年ぶりくらいの共演でしょうか。

――懐かしい、今は閉館した青山円形劇場での『BLUE WHITE』の時ですね。

長澤 あの時は宏規がまだ中学生でしたから、感慨深いですね。積み重ねがあって立派になって、そしてまた会えたことはすごく素敵なことだと思います。

――クラシック・バレエ出身のダンサーがミュージカルやこうしたエンターテイメント寄りの舞台に立つことも増えていますね。

長澤 そうですね、どんどんミュージカルにも出演していますし、またそういった作品が増えてきたと思います。MAOTOくん、髙橋慈生くんとはミュージカル「キング・アーサー」や「メリー・ポピンズ」で一緒でした。そういう風に視野を広げていく、ベースとなる自分のジャンルがあっても様々な作品に出演して、色々なものを吸収して、また新たに未来の自分を形作っていくことができるように、ずいぶんなってきたなと感じます。すごく良いことですよね。

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東山義久、三浦宏規

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BOLERO〜WHITE〜

――バレエダンサーの今後の可能性や、ご自身が目指す先の展望など、何かありますか。

長澤 そうですね、僕自身踊り続けていきますが、今年1月のWind Light Projectの公演もそうですし、『BOLERO』や『DANCE SYMPHONY』『GQ』にしてもそうですけど、肉体で可能性を探っていく、それを提示していく場を作る。宏規くんもそうでしたが、そこに集まった人たちが色々なところへ出ていく、そこで培った経験を活かしていく、そういう新鮮な刺激のある場を僕自身これからも作っていきたいと思いますし、自分自身も色々なジャンルを踊って勉強して自分の身体に入れていきたい。それはやっぱり続けていきたいです、できる限り。そうやって場を作っていくことによって、これからの表現者が育っていく、そして色々な所へいってまた光を放ってくれるような気がします。実際僕自身がこの10年やってみてそうだったので、そういう場を僕に与えてくれた東山さんや新上裕也さん、西島数博さん、栫プロデューサーの想いを継いで、自分自身もそういった場を作れるようWind Light Projectを継続していきたいと思っています。

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――最後にあらためて、「BOLERO-最終章-」の見どころと意気込みをお願いいたします。

長澤 3人を中心として展開されるストーリー、そこにどういう風な身体表現が映り込んでいくのか。誰かにフォーカスしてみても楽しいですし、全体の流れを見ていても衝撃だと思います。そしてやっぱり"想い"ですね。東山さんの最終章にかける想い、栫プロデューサーの想い、そういうものが伝わるような舞台になると思います。僕たち出演者全員で稽古を積み重ねることによって、同じ想いで向かっていけるはずなので、その先へ、"想い"を超えるような身体での表現を見せられたらと思っています。

――本日はお稽古前のお忙しい中、ありがとうございました。本番の舞台を楽しみにしております。

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「BOLERO-最終章-」公開ゲネプロより(舞台写真すべて)

ゲネプロ前に行われた主要メンバーの東山、三浦、蘭乃の取材会でのコメント

東山義久
この一ヶ月、カンパニー一丸となって取り組んできました。曲のほとんどがオリジナル、全ての構成・振付を一から作っている作品で、歌とセリフがないダンスが主体の公演です。僕は舞台の世界に入って、今年で25周年を迎えましたが、キャリアのスタートがダンスで、ダンスから始まった僕が、ミュージカルやストレート・プレイに出演し、DIAMOND☆DOGSというエンターテイメント集団を作って活動してきたなかで、ダンサーを主体とするオリジナルの舞台作品が本当に少ないように感じて、2013年に〈BOLERO〉を始めました。今回、三浦くん、蘭乃さんをはじめ、新しい才能、美しい才能のみなさんと共に最終章を迎えられることは、僕にとってもプレゼントで、本当に幸せです。出演者全員が主役だと思って作っていますので、素晴らしい表現者たちの肉体、踊り、動きから、いろいろな音楽やセリフを聞いて、ご堪能いただければ嬉しいです。今回の最終章は唯一無二、過去最高の作品になったと確信しています。一人でも多くの方々にご覧頂き、それぞれがそれぞれの楽しみ方をしていただければ幸いです。千秋楽まで、どうぞよろしくお願いいたします。

三浦宏規
僕もキャリアのスタートがクラシック・バレエで、ダンスから始まっているので、ダンス公演にかける思いは強くて、しかも題材が〈ボレロ〉、さらに東山義久さんとご一緒にできるということで、ステージ上で踊り死ぬ覚悟で挑んでいます。実は、公演初日の一週間前の夜中に義さん(東山)から「俺もここまでやってるんだから、お前ももちろんやるよな?」って電話で言われて、ソロが1曲増えました(笑)。そこから、倒れそうなぐらい大変な曲が出来上がったんですが、電話の義さんの言葉がすごく嬉しくて。一曲増えたことで、「やっと義さんと対峙できる」と感じてありがたかったですし、頑張ります。今回ラヴェルの「ボレロ」も流れますが、それ以外の楽曲はオリジナルで、どれも本当に素晴らしいですし、作りとしてもすごく見やすくて、美しい。皆様に満足いただけるような内容になっていて、踊りに関しても、いろんなジャンルがあったと思えば、ギミックが出てきたりします。総合エンターテインメント、総合芸術として、すごく見応えのある作品に仕上がっていると思います。お客様には絶対劇場に来た方がいいよとそれだけ言いたいです。頑張ります!

蘭乃はな
まず、この「BOLERO-最終章-」という作品に出演させていただけることがとても嬉しいです。東山さんは稽古がない日も稽古場に来て、作品を一緒に作ってくださっていて、作品に対しての思い入れが、制作の過程や踊りから伝わってきました。みなさんの踊りを見ていると、「よし私も次の場面やるぞ!」って、どんどん思いが重なって、まるでバトンが渡されていくような、そんな作品になっています。今回、男性14人のなかで女性1人ではありますが、稽古中に東山さんが「男15人ヤバいな」って言っていて、「いや、14人だよ。女1人いるよ!」って(笑)。でもそれくらい「みんなと一体となって」という思いで踊っています。舞台装置がベジャールのボレロを彷彿とさせる赤と黒で、私たちが青の衣装で登場して、衣装が揺れる場面があるのですが、公演の副題にもある通り、ボレロが揺れるんです。全てのスタッフ、キャスト総動員でこの世界観を作っているので、是非ご覧いただきたいです。「BOLERO-最終章-」で、あつい夏にします!いい踊りにします!是非劇場に皆さんお越しください。

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ENTERTAINMENT DANCE PERFORMANCE
「BOLERO-最終章-」

<東京公演>
2024年7月18日(木)~7月25日(木)
有楽町よみうりホール

<大阪公演>
2024年7月30日(火)・31日(水)
SkyシアターMBS

https://bolero2024.srptokyo.com/

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