新しいリズムに乗って【中村祥子コラボアイテム発売記念インタビュー】
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日本を代表するバレエダンサーの一人、中村祥子さん。2020年からはフリーのダンサーとして、精力的に活動を続けています。
チャコットとのコラボアイテム発売に先立ち、都内で行われた撮影の現場で、一人の女性として輝き続けるためのヒントについてうかがいました。
身体に刻まれた記憶
ダンサーの身体は日々変化しています。 トレーニングのしかたや、その時踊っている作品によっても変わります。 今年は、7月に渡辺レイさんの新作「ボレロ」、9月にはベジャールのソロ作品「椿姫のためのエチュード」を踊ったりと、古典以外の作品にチャレンジする機会が多くありました。
ベジャールの作品はベルリン国立バレエ時代に踊ったことがあったので、今回の「椿姫のためのエチュード」は初めてでしたが、ベジャールの動きやニュアンスをなつかしく思い出しました。
長年モデル撮影でお世話になっているスタッフが、今回の私のポーズを見て「昔のようだ」とおっしゃいました。たしかに、ベジャールや「ボレロ」のような作品に関わっていると、身体の感覚がよび覚まされたり、使い方でラインが変わってきたり、レッスンやリハーサルによって様々に変化していきます。もちろん、休めば落ちていくのは早く(笑)、自分の向き合い方しだいで身体つきまで変わる。そこが大変であり面白い。
ダンサーは人間なんだなあ、とあらためて思います。ロボットじゃない。身体は正直、すべてが現れる。だからダンサーはみな、自分に闘いを挑んでいます。 私も40代という年齢と新たな環境に向き合い、迷いあり、悩みあり、それでも今の自分を見つめつつ日々挑戦しています。
「瀕死の白鳥」の「顔」
今年7月の舞台にむけて、草刈民代さんに「瀕死の白鳥」を指導していただく機会がありました。民代さんに最初に言われたのは「『瀕死の白鳥』はオデットじゃない、鳥だからね!」ということでした。
「白鳥の湖」のオデットはもともと人間だけれど、「瀕死」は鳥で、人間のような感情があるかすらわからない。ただ、自分の死が近いことだけは感じている。昔はこんなふうに羽ばたけた、でも、今はもうそこまで羽を上げることもできない。美しい白鳥として生きてきた記憶をたどっている...。
民代さんは、私がファンタジーを膨らませられるようなアドバイスをたくさんくださり、本当に貴重な時間でした。
「瀕死の白鳥」は後ろ向きのパ・ド・ブーレで登場し、最初のコーナーを曲がったところで初めてお客さまに顔を見せます。「そこで全てが決まっていくよ」と民代さんに言われました。その顔が「私」の顔であってはだめだし、「悲しいです」と演技している顔でもだめ。本当に「瀕死」をつかみきれた時に生まれる美しさがあると。
このシーンを繰り返し練習しました。奥深いです。動きはシンプルだけれど、若いうちはなかなかつかみきれない作品だと思いました。 様々な経験を積み、これまでのバレリーナたちの踊りをヒントにしつつ探究していくと、その時その瞬間に感じる自分の「瀕死」が見えてくる。それを深めることで、さらにその先の「瀕死」に出会えていくと思います。
バレエは簡単ではないです。特に踊りと表現力の探究には終わりがないなとあらためて感じています。
新しいリズムに乗って
もっと自分の身体やプライベートの時間、家族と寄り添う時間を大切にしたい。バレエにとどまらず、より広く「表現」に目を向けたい。そんな思いと向き合うべき時期だと感じて、フリーの道を選びました。でも、"自由"ゆえの難しさも感じています。
踊っていくためには、やはり毎日規則正しくレッスンするリズムをつくるべきだと思うけれど、もっと自由なペースでトレーニングとケアを組み合わせて踊り続ける身体をつくる方法もあるのか。どうすれば今の自分にとってベストなのか。
40代に入ってからは、より幅広い視野で「踊ること」を見つめるようになりました。
踊りの世界もプライベートも、 あらゆる時間を大切に積み重ねていきたい。 どんな年齢にも迷いや悩みはあり、 それでも自分と向き合う日々は同じだと思います。 「今」に合った生き方を探し、自分なりに輝けるものにできるよう、努力していきたいし、次に振り返った時、この「今」をしっかり受け止め、前進したと思えるようでいたいです。
今は、次にどんな可能性を見出し高めていけるかを模索しつつ前進している。そんな気持ちです。
坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi
Chacott / SHOKO NAKAMURA
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