ミュージカル「アルジャーノンに花束を」アルジャーノン役 長澤風海:インタビュー

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2020年 ミュージカル「アルジャーノンに花束を」公開舞台稽古より

ダニエル・キイス原作の「アルジャーノンに花束を」が、今年10月に銀座・博品館劇場でミュージカルとなって上演される。原作は日本でも発行部数300万部を超えており、各国で映画化、日本でもテレビドラマ化され、演劇としても上演されてきた人気の名作だ。2006年に荻田浩一の脚本・作詞・演出、斉藤恒芳の音楽でミュージカル化され、2005年度菊田一夫演劇賞(浦井健治)を受賞している。荻田版ミュージカルは2014年に再演されたのち、さらに2017年には矢田悠祐を主演に迎えて上演され、今回が4度目の上演となる。

32歳になっても幼児並みの知能しかない主人公のチャーリィ・ゴードンが、かしこくなりたいという一心で脳手術実験の被験者となり、やがて天才的な知能を得る。それによって得たものと失ったもの、ピュアだったチャーリィの魂が葛藤を抱え、それを経た上ではからずも清澄する、切なくも心温まる物語。
タイトルにもある「アルジャーノン」は、チャーリィより先に脳手術を受け天才となった白ネズミの名前だ。今回、このネズミのアルジャーノン役に再び挑むのは、クラシックバレエと中国武術の経験を武器にミュージカルやダンス公演、ストレートプレイまで様々な舞台に活躍の場を広げているダンサーの長澤風海。9月末、稽古の合間に話を伺った。

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2020年 公開舞台稽古より

----まずはこのコロナ禍での状況について、中止や延期になったご出演予定の舞台もあったと思います。

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長澤 そうですね。3月いっぱいは4月に出演を予定していたミュージカルの舞台に向けて稽古していました。1ヶ月稽古をして、もうすぐ最終稽古という段階だったのですが延期になってしまいました。それ以降はどんどん色々なものが中止や延期に、という連絡が続きました。仕方のない状況でしたね

----その間、トレーニングはどうされていましたか。

長澤 トレーニングも家の中ではできることが限られますね。もちろんバーレッスンなどはしていましたが。なるべく外に出ないように気をつけていたので、家でオンラインレッスンを受けたりしていました。あとは夜中に公園で一人で踊ったり(笑)。僕10年くらい前からずっと、公園で踊るのはたまにやっているんですよ。誰もいない公園で振付けをしたりとか。
緊急事態宣言が解除されてからも、どこかにレッスンを受けに行くという気持ちにはすぐにはならなくて、自分でトレーニングしていました。6月終わりか7月初めくらいには、レンタルスタジオが再開されたので一人で借りて、そこでリノリウムの感覚を確認したり、身体を少し大きく動かしたりしました。

----身体に変化は感じましたか。

長澤 やっぱり感覚が全然変わっていました。でも僕の場合は逆に、ちょっと余計だった筋力が落ちたりもしていました。もちろんジャンプとかはできなくなったり、踊る感覚が少しなくなっていると感じましたが、ジャズダンスやコンテンポラリーなどの映像を見て、他の人の振付を踊ってみたりして感覚を戻していく作業をしていました。

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2020年 公開舞台稽古より

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2020年 公開舞台稽古より

----コロナ禍にダンスキューブでインタビューさせてもらった海外のダンサーさんたちも、オンラインクラスを受けているという方が多かったです。

長澤 オンラインが充実してきたので、そこでまた新しい交流が生まれましたね。新たな関係値というか、そういうものが上がっているのはよかったなと思います。

----自粛期間中などに、何か新しく始めたことはありますか。

長澤 それが全然やる気にならなかったですね(笑)。電話がかかってきて「中止です」とか「延期です」って言われると、やっぱりどんどんやる気が下がっていってしまって。もう、新しいことなんて何もやる気にならなくて。付け焼き刃的に、たとえば筋力トレーニングをしてみたり、お料理をしてみたりもそんなに続くわけがなくて。

----そんな状況からの、今回は久しぶりの舞台となるわけですね。

長澤 そうですね。8月にソロで踊る機会は少しあったのですが、こうして興行舞台に立つのは2月に博品館劇場さんで上演された「Dramatic Super Dance Theater モーツァルト‥‥ ―オレは誰だ!!―」以来なので、半年以上あきましたね。

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2017年の公演より

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2017年の公演より

----ミュージカル「アルジャーノンに花束を」ですが、まずは最初に出演された際にネズミのアルジャーノン役についてはどう感じましたか。

長澤 この作品は2006年の初演から再演、再々演と重ねて今回が4度目になりますが、僕は2017年の再々演の時に出演しました。初演は観ていなくて、2014年の再演の時に銀河劇場で観客として観させていただきました。その時のアルジャーノン役は森新吾さんで、チャーリィ・ゴードン役が浦井健治さんでした。僕の中ではアルジャーノンは森さんだというイメージがあります。すごく強くて、普段は明るくて、カリスマ的な踊りが静の動きになったりとか、それはチャーリィの心象風景といいますか、アルジャーノンなんですけど、僕の印象では心の中のチャーリィという風に見えたので、生き霊みたいな話っぽくも見えたり、チャーリィの心、一つの風景という印象がすごくありました。僕も再々演でやらせていただいた時にはそこはすごく意識して、たとえばチャーリィのセリフであったり、心の動きの機微に対してスッと反応できるように、と。存在している世界が同じ舞台上ではありますが少し違う、全く別の世界にぽつんといるなと思って。能動的に自分から感情を作って踊るというよりは、チャーリィであったり、周りのドナーズベーカリーの人たちや研究所の人たちの、シーンごとの様々な感情をふっと受けて反応する、"透明"という意識でやっていました。歌であったり、音楽であったりを通過させた上で動く、というようなことを、最初に出演した時はすごく考えていました。

----アルジャーノンを演じる上で、まずはチャーリィを研究されたのですね。

長澤 そうですね、アプローチ的にはそうなのかなと思って。ただチャーリィだけというわけではないですが。僕自身、アルジャーノンが幼いチャーリィとしてセリフを言うシーンもあるので、後半になるにつれてチャーリィ寄りの心境になっていくとは思います。1幕の初めの方は競争するシーンとかテストを受けるところとか意外とポップな感じなので、やっていて最初が一番楽しいです。後半はどんどん暗く重くなってくるので。あとは2幕の最初の方のフェイとの出会いで「絵を描いてるの」と楽しそうに踊ったり、バーに行くシーンでは店員として踊ったりもしています。

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2020年 公開舞台稽古より

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2020年 公開舞台稽古より

----踊りとしてはどういったジャンルになるのでしょうか。

長澤 振付は港ゆりかさんで、僕も一緒に話し合いながらというところもありますし、荻田浩一さんの演出のもとでやっていますが、ダンスのジャンルというのは特にはないですね。

----前回と振付に変更はありますか。

長澤 振付は全く変わっていまして、一新されています。新曲があったり曲も変わったりしていて、そこでまた僕が踊らせていただいたりというシーンもあって、いま新しく作っているところです。曲やセリフに合わせて動いていて、ネズミっぽくというのはありますが、だんだんそれが1幕ラストに向かって激しい動きになったり。僕自身のベースとしてはもちろんバレエがありますが、フロアに入ったり音をとって細かく動いたりとか、港ゆりかさんのジャズとか、アクロバティック的な動きもあってジャンルは幅広いです。

----では振付もかなりブラッシュアップされているのですね。

長澤 そうです。もう新演出というような形で、やはり前回とは劇場も違うのでセットも変わっていますし、セットをうまく使ったりという動きもあります。

----2006年の初演から4度目の再演です。それだけ再演を望む声が多いのだと思いますが、この作品にはどんな魅力があると思いますか。

長澤 本当にすばらしい作品だと僕も観たときに思いました。もちろん原作もですし、荻田さんの演出と斉藤恒芳さんの音楽も。観た時も、再々演で演じた時にもなんですが、魂が震えたんですね。そういう作品ってなかなかなくて。やっぱり心の奥底の本当に切ないという気持ち、辛いという痛みが、大切なものだと思うんですよね。大切な痛みというものが浸透してきて、その痛みを知ることで人は優しくなれる。最後にチャーリィの知能がまた後退してドナーズベーカリーに帰ってきて「俺たちのチャーリィが帰ってきた」っていうシーンとか、すごく心に刺さるんです。周りの人たちもチャーリィを通して辛さとか痛みを感じて、チャーリィもまた一緒で。それは最終的に優しさになっていくという、そういうところがこの作品は、本当に人間の根本的な、痛みを知ることで優しくなれるんだよということをもしかしたら言っているのかな、とすごく心に響きます。そういうものが心の奥底を震わせてくれる、すばらしい作品だと思います。僕、初めて原作を読んだのが22か23歳くらいの時で、電車の中で読んでいて号泣したんです。恥ずかしい、と思いながらもずっと泣いてました(笑)。

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2017年の公演より

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2017年の公演より

----アルジャーノンという存在はまた難しい役どころですね。

長澤 前回はシーンごとに切り替えて、そのままはっきり表現していたんです。楽しい感情の時は楽しさを出すというか、完全に透過させるようなイメージでやっていたんですけれど、今回は前回の時よりも、なんだかこうセリフや気持ちとかが入ってくるんです。それは矢田くんや水さんもですが、3年経った深みがあるというか。僕自身も前回はすぐに通過させていたものが、なんかちょっと自分の中でふっと心を動かして通過させていくというように、その過程が3年前よりは上手くできるようになったかな、とここ最近振付がついてきてから思っています。

----チャーリィのように手術をして世界の見え方が変わるというのとは違いますが、コロナウィルスによって世界が急に変わったことで、舞台を観る人たちも3年前とは感じ方が違いそうですね。

長澤 世界がこれだけ変わってしまって、痛みとか、ある種のそういうものを観る人も演じる側も抱えていて、舞台ではそれが表現として"心を出す"ということで、観ている人も多分一緒なんですよね。僕は自分が観ている時も一緒に踊っていると思っているし、お客さまも観ながら一緒の世界にいる。まだ制限はされていますけれど、やっぱりそういう時間って必要じゃないですか。人生においてそういう空間に一緒にいられるということ、一緒にすばらしい時間を過ごせるということを、改めて僕は感じているので、多分観に来てくださる方たちもすごく感じると思います。痛みがあったからこそ、本当に幸せな気持ち、当たり前に享受していたもののありがたみというのが、ものすごく分かる。「劇場に観に行ける!」って、僕の母がそうなんですが「ようやく行ける!」って、やっぱりそういうエネルギーを感じます。人生の中で、この半年くらいの期間で何パーセントかの幸せが失われたと思うんです。ただ逆に、ひとつひとつまた始まっていく、日常へ戻っていくことに、何倍もの幸せを感じられるような気がしています。踊っていて、やっぱりエネルギーが違いますね。

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2020年 公開舞台稽古より

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2020年 公開舞台稽古より

----演じるに当たって特に気をつけている点や、こだわりなどは何でしょうか。

長澤 いま、ステージングに身体がついてきてようやく動けるかなというところなんですが、やっぱり独りよがりにならないように、ということかな。僕がここ3〜4年くらい気をつけていることなんです。意外とこういう人間じゃない役が多かったので。"こうやって踊りたい!"と主張するのはこの作品では違うと思っていて、しっかり周りの空気の動きだとか、音楽のひとつひとつ、セリフの一言一言を受け止めて動く。その過程を今回はもう少し大事にできるかなと思っています。だからやっぱり静の動きに寄っていくのかな。激しく動く時も押し付けがましく踊るのではなく、僕の身体を通した上でそのシーンの空気を凝縮して出せたらな、というのはすごく気をつけてやっています。
あとは僕の場合は結構動くので疲労が身体に直接きますから、動きの流れを身体に通して血流を巡らせて、29回も公演がありますからどんな時でもイーブンに踊れるように、アップダウンがあまりないように普段から身体をしっかり作って臨んでいるという状況です。

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2020年 公開舞台稽古より

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2020年 公開舞台稽古より

----今回はなかなかハードな公演日程ですね。

長澤 やばいです(笑)。公演日程表を見たときに「え、これは五線譜?」ってなりました(笑)。「メリー・ポピンズ」に出演した時も公演回数は多かったですが出ずっぱりではなかったですし、2回公演が続く日程が今回多いですね。また僕ね、いま1幕の3分の2くらいやりましたが、たぶん前回より出番が多いようなんです。でも身体をきちんと作って稽古すればいいだけなので、あまり心配はしていないです。出ずっぱりの矢田くんは大変ですよね。前回と違って少しはけるポイントとかもあるようですが、それでも大変そうです。「風海くん、今回大変だよね」って言われて「矢田くんもね」って(笑)。二人で「大丈夫かな。がんばろうね、3年前とは違うから、成長してるから」って励まし合いながらやっています(笑)。チャーリィとアルジャーノンの対話をしてますね。

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----演出の荻田さんとはもう何度もご一緒されていますね。

長澤 そうですね。荻田さんと初めてお仕事したのがちょうど10年前なんです。2010年の「Dance Symphony」という男性だけのダンス作品だったのですが、10年経ってこんな状況なのにまたご一緒できて、それもすごく幸せなことですし、よかったなと思います。また荻田さんの演出って、絵を作ったあとにどんどん細分化していって繊細にしていくところが、やっぱりすごいなと思います。理にもかなっていますし、流れが見えた上で繊細にしていくという演出の仕方なので見ていて勉強にもなります。演出もやってみたくなりますね。

----最後に改めて作品への意気込みを。

長澤 昨年、森新吾さんが亡くなって、やっぱりアルジャーノンは森新吾さんだなと思っていて、でも僕自身もアルジャーノンだと思っていて、そしてコロナ禍があって。なんかこう様々な痛みが通過していく中で、色々と思い出すんです。このミュージカルは僕が観た中で魂が震えた作品で、大好きな先輩の森さんが演じていた役で、すごく光栄で、もちろん森さんとは違う表現にはなりますけれど、でも心の中で色々思い出すんですよね、コロナ禍になってから。ここ10年くらいの間で一緒に踊った人の感覚や一緒に歌った人の感覚とか、いただいた言葉だとか。そういうものを心の底に置きながら、感謝の気持ちを持って、そして一人の表現者としてこのすばらしい作品に、僕のやってきた、踊ってきた、表現してきた年月を注ぎ込みたいと思っています。また新たな10年のスタートじゃないですけれど、これから訪れる幸せな世界、すばらしい世界に思いを馳せながら、このかけがいのない舞台の時間を生きていきたいなという思いです。
あとはとにかく健康に気をつけて、新吾さんお願いしますって天に祈ります!

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2020年 公開舞台稽古より

ミュージカル「アルジャーノンに花束を」

●2020年10月15日(木)〜11月1日(日)
●博品館劇場

原作:ダニエル・キイス「アルジャーノンに花束を」(ハヤカワ文庫)
脚本・作詞・演出:荻田浩一
音楽:斉藤恒芳

出演:
矢田悠祐
大月さゆ 元榮菜摘 青野紗穂 大山真志 長澤風海 和田泰右
戸井勝海
水夏希

●公式サイト
https://music-g-h.com/

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インタビュー&コラム/インタビュー

インタビュー・写真=上村 奈巳恵

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