バレエの魅力を、ひとりでも多くの人に伝えたい(後編)【飯島望未コラボアイテム発売記念インタビュー】

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ヒューストン・バレエのプリンシパルとして活躍する飯島望未さん。白鳥、ジゼル、ジュリエットなど、さまざまなヒロインを繊細な表現と強靭なテクニックで踊りこなすかたわら、シャネルのビューティ・アンバサダーを務めるなど、ファッショニスタとしても注目を集めています。バレリーナとしての日々、ファッションの仕事、ほっと一息ついたときの表情など、日常が垣間見えるインスタグラムも大人気です。

そんな飯島さんとチャコットのコラボアイテムが、発売されました。前回に続き、ファッションの仕事やバレエとの向き合い方についてさらにくわしくお話を伺いました。

 

自分の中にキャラクターが立ち上がる。
表現の面白さに目覚めたきっかけ

 

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「マリー(マリーアントワネット)」©Claire McAdams

――舞台では、可憐な役から妖艶な役まで様々なヒロインを踊られています。今回撮影を拝見していても、メイクや衣裳によって別人のように表情が変わるのに驚きました。

飯島 役によって全然違うねってよく言われるので嬉しいです。でも、昔は演じることに苦手意識がありました。芸術監督のスタントン・ウェルチがドラマティックな表現に厳しい人で、まだヒューストン・バレエに入ったばかりの16、7歳の頃、みんなの前で一人で演技をやらされことがあったりして。当時は思うようにできない自分にものすごくいらだっていました。それが変わった大きなきっかけが、『蝶々夫人』(ウェルチ振付、2013年)のスズキ役なんですよ。私が初めてもらった、がっつりと演技をするドラマティックな役です。

――スズキって、最後まで蝶々夫人を支え続ける侍女の役ですよね。アメリカから帰らない夫を待ち続ける夫人をそばで見ていて、いちばんわかっている人というか。二十代の女性には難しい役かなと。

飯島 蝶々夫人の苦悩を理解しつつ、彼女に対する自分の思いも見せていかないといけないので、そのバランスが難しかったですね。スズキは気持ちを前に出すタイプの役ではないけれど、最後の最後にはっきりと出すところもあって。参考のために、時代劇や時代小説を観たり読んだりとか、いろいろしてみました。

――時代小説というとどんな感じの?

飯島 たとえば藤沢周平の『蝉しぐれ』とか、悲劇的な結末に終わるものを読んでみたり。『蝶々夫人』の時代背景についても自分なりに勉強しながら、想像をふくらませていきました。ただし、どんなに勉強しても、最後は自分の想像でしかないんですよね。「どんなスズキを踊りたいか」を明確にして、自分なりのキャラクターをつくってやること。自分がどう表現したいかによって、歩き方から腕の運びまで、すべて変わってきますから。

――自分で想像してつくっていくことで、キャラクター像が明確になっていったんですね。

飯島 時間をかけて真剣にスズキと向き合うことで、気持ちがすっと入ってきたというか。それと、リハーサルを重ねるうちに「夫人がこう来たから、私はこう返そう」というふうに、相手とのやりとりの中で踊れるようになっていきました。相手の踊りを受け止めることで、自分はどう踊りたいかが明確になり、キャラクター像も深まっていくというか。

 

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「ジゼル」 © Yukihiro Kondo

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「シルヴィア」

 

――役づくりが明確になると、相手役の反応も変わる?

飯島 中途半端だと相手もやりづらいので、本当に「やり切る」ようにしています。振付にそのキャラクターが表現されているので、それを理解して身体に入れた上で、このマイムではこういう首のつけ方、こういう手の出し方と、ニュアンスは自分の中で明確に決めて。監督に「もっとこうしてほしい」と言われた場合は素直に直しますが、まずはこうしたいと思ったとおりに踊ります。そうするとそれが相手にも伝わって、ちゃんと返してくれるので。スズキ役がきっかけで感情表現の面白さに気づいて、もっといろんなことにチャレンジしたいと思うようになりました。

 

「まとう」「よそおう」ことから
生まれる表現

 

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――前回のお話に出た、シャネルの香水にインスパイアされた振付作品の映像も拝見したのですが、不思議な魅力がありました。香りのイメージから、振りはすぐに浮かんだのでしょうか。

飯島 全然! 私、振付の経験はなかったですし、めちゃくちゃ難しかったですね。テーマになったN゜5L'EAUの香りは独特で、トップノートとミドルノートで全然違いますし、はなやかさと儚さなど様々なものが入り混じっていると感じたので「矛盾」というテーマにしました。

――あの作品でも、衣裳とメイクによって全然キャラクターが変わりますよね。ジーンズとTシャツで踊っているところは、カッコいい東京の女の子という感じで、赤い衣裳で白塗りメイク、ロングヘアの部分はものすごい情念を感じるというか。

飯島 強さと弱さ、新しさと伝統など、自分の中にある二面性を表現したかったので。ディレクターはローラ・ラバン・オリビアというフランスの女性の方だったんですが、撮影場所が東京ということで、ちょっと湿っぽい、日本的な闇の部分を出したかったというのもあります。私は「陽」よりけっこう「陰」なものが好きなんですよ。ジーンズのほうは、逆にさわやかな感じでぱきぱきと動いてみました。ローラがどんな表現にしたいのかと事細かく尋ねてくれて、そのイメージから衣裳やメイク、ロケ地などが決まっていきました。おばあちゃんや双子の登場も、彼女のアイデアです。シチュエーションが具体的になったことで自分の中から出てくるものもあって、実はロケ地で即興的に踊ったシーンもたくさんあります。

 

ダンサーのまとう熱量や空気感を
肌で感じてみてほしい

 

――コロナの影響もありますし、アメリカのバレエ団は来日公演が少ないこともあって、飯島さんのダンスをなかなか生で観られないことが残念です。舞台だとダンサーの体から感情をダイレクトに受け取っている、と感じることが多いので。

飯島 そうですね。映像でも伝わるものはあるけれど、ダンサーのもつ熱量や空気感を肌で感じる、というのはやはり劇場でしかできない体験だと思います。バレエに限らずオペラもしかり、パフォーミングアーツ全般がそうです。

――ちなみに、好きなダンサーは?

飯島 ディアナ・ヴィシニョーワやアリーナ・コジョカルなど、感情表現が素晴らしいダンサーに憧れます。中村祥子さんも大好き。脚はもちろん、上半身の使い方が本当に美しいですよね。好きなダンサーの表現方法はかなり研究して、自分の表現に取り入れています。人間味を感じる、ドラマティックなダンサーに惹かれますね。

――ヒューストン・バレエ団や、ヒューストンの劇場事情についても教えてください。

飯島 ヒューストン・バレエ団はアメリカで五本の指に入る規模の大きなバレエ団で、マクミランやバランシン、フォーサイスやビントレーなど、古典からコンテンポラリーまでバラエティ豊かな作品がレパートリーに入っています。プリンシパルの加治屋百合子さんをはじめ、日本人ダンサーも活躍していて、アットホームな雰囲気です。新作より、『白鳥の湖』など古典作品の人気が高いのは日本と同じですけれど、公演回数が多く、年間を通じてたくさんのお客様がみえますね。バレエに限らず、子どもの時からアートが身近にある環境かなと思います。

 

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イリキリアン「dream time」© Amitava Sarkar

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ジェロームロビンス「the cage」© Amitava Sarkar

 

――日本でももう少しカジュアルに「劇場に出かける」文化が根付くといいですよね。

飯島 アメリカと日本では、教育もサポート体制も違うので難しいことですが。バレエは伝統があり、高い技術と芸術性がないと成立しないアートだから、「敷居が高い」のは決して悪いことじゃない。でも、だからこそ一度ライブで観てほしいんです。ガラ公演なんかは、いろいろなダンサーや作品が一度に観られるのでおすすめですね。私のSNSをきっかけに、ふらっと劇場に足を運んでくださった方が、未知のダンサーや作品と出会って「この人めっちゃいい!」「なんかこの踊り好き!」って思ってもらえたら嬉しいです。

――飯島さんの踊りをライブで観られる日を心待ちにしています。今回はたくさんの興味深いお話をありがとうございました。

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

 


 

【バレエの魅力を、ひとりでも多くの人に伝えたい(前編)公開中】

...SNSも無理はせず、必ず毎日アップしなきゃとか、「いいね」をたくさんほしいとか、
そういうつもりでやっているわけじゃないんです...

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