「小さな変化」を信じて挑戦を続けたい(前編)【中村祥子コラボアイテム発売記念インタビュー】

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ウィーン、ベルリン、ハンガリーと欧州の名門バレエ団で活躍し、2015年からはKバレエカンパニーのプリンシパルとして鮮烈な輝きを放ち続ける中村祥子さん。

舞台を降りれば小学生の息子さんの母親でもあり、舞台と家族との時間はどちらもかけえがえのないものだといいます。

そんな中村さんとチャコットのコラボアイテムが、発売されました。これに先立ち、都内で行われた撮影の現場で、女性として輝き続けるための"チャレンジ"についてうかがいました。

 

「強い役」は得意だけどお姫様は苦手。
以前はそう思っていました

 

撮影現場で次々と美しいポーズを決める中村さん。「ドラマティックな表情がほしい」というカメラマンの希望にこたえ、『白鳥の湖』のオデットなど全幕バレエの1シーンを披露。スタジオ内は興奮に包まれました。

――今日はお会いできてうれしいです。オデット、ものすごく魅惑的でした......。

中村 小さい頃から、「黒鳥」みたいな強い女性の役が似合うねと言われてきて、自分でもそうかなと思っていたんですよ(笑)。だから逆にお姫様系やジュリエットのような少女の役は、自分で苦手にしちゃったかなと。

――つまり、今のほうがお姫様役は踊りやすくなったということでしょうか。

中村 表現の幅が広がったとは思います。様々な人生経験を経て角が取れたというか、"丸さ"や包容力を表現する力加減を覚えたのかなと。以前はもっと"力"で踊っていたから。踊りのエネルギーを強く出せる自信があったので、そういう表現に突進しがちだったかもしれません。今も強い役は大好きだけれど、「いつもいつも、力だけで頑張らなくてもいいんだ」と感じるようになりました。

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――ベルリン時代、同じダンサーでポーランド出身のヴィスラフ・デデュックさんとご結婚されています。そういった変化はやはりヴィスラフさんとの出会いが大きいのでしょうか。

中村 そうですね。彼と出会う前は、バレエだけに集中していました。ヴィスラフはそんな私をいろんな場所に連れ出して、新しい世界を見せてくれた人です。彼は8人兄弟の大家族に生まれ育ったせいか、すごく人とのコミュニケーションを大事にする人で、困っている人がいたら誰でもすぐに手助けしちゃうようなところがあります。もちろん私が大変なときも、いつでも助けてくれます。

私はあまり感情を出せないほうだったんですけど、家族ができてから、身体に入ってくる様々な感情を、舞台で自然に出せるようになってきました。相手に合わせたり合わせてもらったり、家族と気持ちの受け渡しをしているうちに、心の幅が"増えた"のかなと。オデットやジュリエットのような悲劇を体験することはまずないけれど、日常生活で感じたことは舞台で生かせるんです。

今は舞台で一人の女性として「生きる」ことを楽しんでいます。ひとりでに涙が流れるくらい、その役柄の感情を生きられたときは、ものすごく幸せを感じます。

 

相手に「気持ちを伝える」ことで
生まれるもの

 

――それにしても、子育てとプリンシパルとして舞台に立つこと、切り替えがすごく難しそうに感じます。

中村 息子が小さかった頃は、家では息子のこと、劇場に行ったら踊りにベストを尽くす、それしかない! と自分に言い聞かせていました。本番の直前まで息子と砂遊びをしていて、時間になったら劇場に行ってメイクしてスイッチが入る、みたいな。最近は息子も大きくなって、少し余裕が出てきたようです。最近息子に「ママがバレリーナでよかった」と言われたときは、不思議な安堵を感じました。彼が自分を認めてくれた気がして、ホッとしたのだと思います。

――家族生活をうまくやっていくための秘訣はありますか。

中村 私はうまくいかないことがあると黙ってしまうほうなんですが(笑)、「どうしたの? 思ったことは何でも言ってほしい」とよく夫に言われます。言ってくれれば解決法が見つかるかもしれないのに、気持ちを言葉にしないのはすごく損だよって。彼は私が本当に落ち込んでいるときはそっとしておいてくれて、気持ちが治まった頃に声をかけてくれますし、私も「ありがとう」や「お願い」などの気持ちは必ず言うようにしています。黙ってすれ違うのではなく、声をかけあうことで、止まっていた時間も動き出す気がしますね。

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――それはパートナーと踊るときも同じでしょうか。

中村 バレエでも、思ったことはパートナーに全部言っちゃいます。だから、遅沢(佑介)さんや(宮尾)俊太郎さんには「祥子さんは注文が多いです」と別のインタビューで言われていたようです(笑)。言わずに遠慮したままでは踊れないので。お互いの考えを知ることが何か素敵なものを生み出し、よい作品に繋がっていくと思っています。

――すべてがバレエにつながっていくんですね。

中村 自分がその作品から何を感じ取るか、相手の表現から何を受け取るか。お互いの感性がオープンであってこそ、魅力的な舞台ができあがっていくのではないでしょうか。

 

美しさへの「欲」を持ち続けること。
ミリ単位の積み重ねが、自分を変えていく

 

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――今回のコラボアイテムについても教えてください。

中村 かわいさやクールさ、セクシーさなど様々なイメージを表現できる、3着のレオタードをつくっていただきました。ダンサーは踊る役柄に合わせてウェアを選んだりしますけれど、ふだんのレッスンでもぜひ、いろんな自分を表現してほしい! 袖を折り曲げたり、スカートやパンツに合わせたり、着こなししだいで表情が変わるので、自分なりにキャラクターを想像しつつ気分を上げていっていただきたいですね。できれば3着とも着てほしいなあ(笑)。3着のレオタードから、3つのファンタジーを生み出してほしいんです。

服を選ぶときって、自分の得意な路線ばかりを選びがちですよね。でも、時には服に自分を合わせることも必要だと思うんです。ふだん着ないものも受け入れて"着飾る"ことで、違う自分を発見できる。レオタードでも様々なスタイルのものに挑戦して、自分の足りない部分を見つめて新たな一面を見出すことも楽しいと思います。

それと、私は以前からノーソーイングニットのパンツとスカートを愛用していたので、今回のコラボでも、新商品として出させていただきました。踊りやすさやラインにこだわってつくっているので、ぜひ手に取っていただきたいですね。

――なるほど......。こんなに身体のラインが出るウェアは、祥子さんだからカッコいいけど自分には無理かなって、ちょっと思ってました(笑)。

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中村 挑戦は本当に大事ですよ。着てみないと自分の課題がわからない。大胆なウェアが恥ずかしければ、初めは上にTシャツを羽織って慣らしてもいいし。女性として魅力的になるための第一歩が挑戦だと思うんです。色や形から自分にないインスピレーションを生み出すことも、表現には必要なことです。

――たしかに。年齢を重ねるほど「これは無理かな」と思うことが増えてきています。その一方で、心の中にはまだ欲がいっぱいあるんですけど(笑)。

中村 「きれいになりたい」という欲は、いくつになっても絶対にある。バレエなんて、日々の変化が見えないくらいの積み重ねなんですよ。私にもコンプレックスはたくさんあります。でも、小さな努力を続けていくと、ミリ単位で身体のラインが変わっていたりする。少しずつでも変わり続けることで、突然可能性が大きくひらけることもある。"少し"の変化をあきらめない欲は持ち続けたいと思います。

――ものすごく説得力があります......。身体も感性も磨くことで、いくつになっても変われる。それを実感できるのは、大人の醍醐味かもしれませんね。

中村 チャコットのモデルのお仕事は長くやらせていただいているので、過去の写真を見ると身体の変化がわかります。今はできなくなったこともある。でも、この身体を受け入れて、好きになることからしか前には進めません。今の自分だからこそ表現できる美を追求していきたいですね。

――今日は素敵なお話をありがとうございました!

 

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

 


 

【「小さな変化」を信じて挑戦を続けたい(後編)】

...鏡に映る自分の姿にとらわれずに、その瞬間瞬間の感情を素直に出していけば、それはお客様に伝わっていくはずだから。... 

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