「小さな変化」を信じて挑戦を続けたい(後編)【中村祥子コラボアイテム発売記念インタビュー】

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Kバレエのプリンシパルとして活躍する世界的バレリーナ・中村祥子さん。舞台に向けてレッスンやリハーサルに明け暮れる時間と、家族で過ごす時間は、どちらもかけがえのないものだといいます。

そんな中村さんとチャコットのコラボアイテムが、10月16日(金)に発売されます。前回に続き、都内で行われた撮影の現場で、バレリーナという生き方についてさらに詳しくうかがいました。

 

恐怖しかなかった「白鳥」登場のシーンが
今は大好きになりました

 

――これまで様々な作品を踊られていますが、ターニングポイントとなった作品や、踊り始めた頃と解釈が違ってきた作品はありますか。

それはやはり『白鳥の湖』です。プロとしてスタートを切ったウィーン国立歌劇場バレエ団で、初めて主役をいただいた作品なので。王子との出会いや愛する心、裏切られた苦しみやそれを許すまでの思いなど、本当にいろいろな感情を表現しなくてはならない。自分の経験とともに、白鳥も成長していったと思います。

 

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――初役のときはどんな感じだったのでしょうか。

とにかくプレッシャーで押しつぶされそうでした。内面の表現より、バレエの代名詞のような『白鳥の湖』という作品のイメージしかなく、いったいどうしたら「白鳥」になれるんだろうと悩んでいました。白鳥の姿にされた女性の物語なのだから、「白鳥」になろうとしなくていい、一人の女性でいいんだと気づくまでに、かなり時間がかかりましたね。

――最初にオデットが一人で登場する湖のシーン、大好きなのですが、ああいうときの心境もその頃と今では違いますか。

最初の出って、すごく緊張するんですよ。あの瞬間、舞台袖ではコールドの白鳥たち全員が出番を待っているので、みんなが見ている中、一人で出て行かなくてはならない。最初の頃は緊張しすぎて、最初のアラベスクのポーズから王子に会うまでは何をしたか覚えていないくらいでした。それが経験とともに変わっていきました。

ある時、出までの一秒一秒がすごく「自分のものになっている」と感じたんです。一つひとつの動きが気持ちよく、空気さえも自分の味方になったような、不思議な時間を持てるようになった。「ここから自分の人生が始まる」って思えるような。その時から、あんなに怖かった登場のシーンがすごく好きになったんです。

――王子との出会いの表現も、パートナーによってかなり変わりますか。

王子役のダンサーがどういう表現でくるかは、リハーサルでだいたいわかっているわけですが、決して毎回同じではありません。感じることは毎回違う。その日、その瞬間ごとに出会いの花を咲かせていかなきゃいけないと思います。リハーサルとまったく違うことをする王子もいますけど、それはそれで楽しめる(笑)。Kバレエでは、私も遅沢(佑介)さんに「祥子ちゃんは舞台ではぜんぜん違うから困る」ってよく言われます。

たとえば『ロミオとジュリエット』のバルコニーのシーン。リハーサルではちゃんとロミオの位置を確認してから走り出すんですけど、本番は「ロミオ、キャッチしてー!!」と、その時のうれしい感情が爆発して、相手の顔を見ずに真上を見て走っていたようで、彼はいつ飛び込んでくるのかと焦ったようです。それは、ちゃんと私を受け止めて、リフトも失敗なく決めてくれる遅沢さんだからできること。私は舞台上でそういうパッションを楽しむのが好きです。それを可能にしてくれるパートナーに、いつも感謝していますね。

 

「鏡の中の自分」にとらわれずに
今の気持ちを素直に踊る

 

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――前回、以前はジュリエットが苦手だったというお話もありました。

ジュリエットは少女なので「小さくてかわいい」イメージがあって、とくに背の高い私には似合わないんじゃないかと思っていたんです。Kバレエで初めてジュリエット役をいただいたとき、熊川(哲也)芸術監督に相談したら「祥子がジュリエットかどうかは、観客が決めることだ」と言われたんです。「ジュリエットは合わないと自分で決めてしまったらそこで終わり。観客にもそう見えてしまう」と。その時から、「鏡の自分」で踊らないことに決めました。鏡に映る自分の姿にとらわれずに、その瞬間瞬間の感情を素直に出していけば、それはお客様に伝わっていくはずだから。ジュリエット役は、様々な経験を経た今のほうが、自然に踊れるようになった気がします。ジュリエットを踊れたことは、昔の「強い」自分から抜け出す一歩として本当に大きかったかもしれません。

――日々の生活で感じることが、バレエに昇華されていくんですね。

たとえば「パートナーの手を取る」動きだけも、様々なことを表現できます。握り合う手の圧や温かさだったり、手をつなぎたいのにつなげないもどかしさや切なさだったり。バレエは正確さが厳しく求められるダンスではありますが、作品の表現に必要であれば、肩が上がっていても背中が曲がっていてもいいと思うんです。クラシックの王道的な作品『眠れる森の美女』だって、王子に近づき、手を差し出す振りを生き生きと自然に見せるには経験が必要です。

――前回、ご主人のヴィスラフさんに出会うまでは、ご自分には「バレエしかなかった」とおっしゃっていましたね。

若い頃に「役を生きる」喜びに気づいていたら、もっと動きが変わっていただろうなとは思います。でも、たぶん段階を踏んで経験することが必要なので、ある段階を乗り越えた先でやっと気づけることがある。だから踊れる限り、経験をバネに表現を深めていきたいです。

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――家族を持つことでたくさんの喜びを知ったけれど、自分の時間が少なくなったと感じている方も多いのではないかと思いますが、祥子さんはいかがですか。

私にはスタジオで自分自身と向き合う一人の時間があるから、それで十分。それ以上あったら寂しくなってしまいます(笑)。スタジオでの時間がすべてを整えてくれ、自分をゼロに戻してくれる。バレエと家族の時間、両方があってバランスが取れているんです。

――今の祥子さんにとって、バレエとは何でしょうか。

以前は「私はバレエを踊っています」「バレエが生きがいであり、使命です」みたいに思ってしまっていたけれど、今はもっと自然な何かですね。クラシックの舞台でも、新作をつくりあげていく過程にも、新鮮な出会いがある。バレエを通して、新しい自分を見出していきたいと思います。これからも終わりなく、ずっと。

――どうもありがとうございました!

 

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

 


 

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...「きれいになりたい」という欲は、いくつになっても絶対にある。バレエなんて、日々の変化が見えないくらいの積み重ねなんですよ。...

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