今、この瞬間に花開く 桜のようなダンサーでありたい(後編)【永久メイコラボアイテム発売記念インタビュー】

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名門マリインスキー・バレエでセカンドソリストとして活躍している永久メイさん。『ジゼル』『ロミオとジュリエット』などの舞台で主演し、その愛らしく透明感あふれる踊りは数多くのファンを魅了しています。

そんな永久さんとチャコットのコラボアイテムが発売されました。都内で行われた撮影の現場で、前回に続き、バレエとの向き合い方について、さらに詳しくうかがいました。 

 

厳しさの意味を理解できたとき
先生が大好きになりました

 

――前回、厳しいバレエ学校時代があったからこそ今がある、というお話がありました。モナコ・プリンセス・グレース・ダンス・アカデミーでの学校生活について、もう少し詳しくおうかがいできますか?

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永久 13歳で入学して4年間学んだのですが、規則がとても厳しくて、自己管理ができないと退学になるケースも多かったですね。クラスの人数はとても少なくて、17歳で最終学年になったときは5人でした。朝は8時から2時間、クラスレッスンを受けるんですが、これがめちゃくちゃきつくて。

――動きっぱなしですね。

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永久 はい。クラスの内容は2週間ごとに変わるしくみで、その間はバー・レッスンもセンター・レッスンもすべて同じ振りです。2週間めの最後の日は、試験みたいに振りを全部覚えて、最後まで通します。ちょうどひとつの作品をつくりあげるように、動きの質も音楽性もすべて高めていくというやりかたでした。

最初の2年間、指導してくださったのはローラン・フォーゲル先生で、フリーデマン・フォーゲルのお兄さんに当たる方でしたが、本当に怖くて。当時は英語がよくわからなかったのですが「もう日本へ帰れ」みたいなことも言われたと思います。

――ホームシックになりそうです。

永久 最初の頃はつらくて、毎日のように泣いて家にビデオ電話をしていたくらいです。なぜ先生はこんなに傷つけるようなことを言うんだろうと思っていました。でも、その頃は精神的にも幼くて、言われていることの意味がわかっていなかったんですね。

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Photo : Alice Blangero

最終学年に上がり、卒業公演で『ラ・バヤデール』のパ・ド・ドゥを踊ることになったとき、2年ぶりにフォーゲル先生に指導していただくことになりました。そこではじめて「こんなにすばらしい先生に教わっていたんだ!」と理解できて、先生のことが大好きになったんです。私がどう踊りたいかを瞬時に感じ取って、その表現をもっと美しく、効果的に見せるにはどうすればよいかを的確に指導してくださる。

マリインスキー・バレエでエルヴィラ・タラソワ先生の指導を受けるようになったとき、性別も国籍も違うのに「あ、フォーゲル先生と似てる!」と思ったんです。タフに向き合って厳しいアドバイスをくださるところや、私の体調まで感じ取って、さりげなく気遣ってくださるところとか。私は本当に先生に恵まれていると思っています。

 

美しい上体の使い方は、
マリインスキーならでは。
身につけるには、練習あるのみです

 

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Photo : Svetlana Avvakum

――バレエ学校時代と今は、レッスンのしかたも違いますか?

永久 カンパニーに入ると、レッスンの内容は毎回違いますし、先生も細かくお手本を見せてくれるわけではないので、みんな腕や上体は比較的自由に使っています。一人ひとりが、自分がきれいに見える位置を知っているから。バレエ学校時代に厳しく鍛えられた土台があるからこそ、いろいろ自由に考えることができるんだと思います。

マリインスキーは、ワガノワで学んだ人が大部分なんですけれど、みんな上体の使い方がすごくきれいなんです。モナコ時代、初めて生で観たマリインスキーの舞台が『ジゼル』だったんですけど、コールドを観て「上体の動きが全然違うな」と感じました。肘下や手、指先の微妙な差だけれど、その動きがそろっていると本当に美しい。その使い方ができるようになるために、今もレッスンで何度も何度も、繰り返し注意してもらっています。

――舞台の本番前はどのように過ごされていますか。

永久 緊張のしかたが、その日によっても、踊る役柄によっても全然違いますが、何も考えずに自分を無に戻す感じでしょうか。『ロミオとジュリエット』を一緒に踊ったヴィクター(・カイシェタ)によく言われるんですけど、私は本番前「絶対に話しかけないでね」というオーラを出してるみたいです(笑)。

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Photo : Romeo and Juliet by Svetlana Avvakum
© State Academic Mariinsky Theatre

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Photo : Romeo and Juliet by Svetlana Avvakum
© State Academic Mariinsky Theatre

緊張しすぎているなと感じるときは、「あそこはこうしなきゃ」というふうに一つ考えることを決めると落ち着くこともあります。ごくたまに「リラックスしすぎているかな」と思うときは、あえて「ここで失敗するかもしれない」と考えて、意地でも自分を緊張させてみたり。本当に、毎回毎回違いますね。

 

バレエができないときこそ
「バレエって本当に楽しい!」と思える

 

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――バレエを習っている子どもたちや若いダンサーの中には、メイさんに憧れ、目標とされている方も多いのではないかと思います。そんな読者へのメッセージがあれば、ぜひお願いします。

永久 そうですね......。バレエってつらいこともあるから、楽しいんだと思います。リハーサルが厳しいからこそ、舞台で踊り切ったときの気持ちは言葉にできないくらい。私はバレエができないときほど、「バレエって楽しかったな」「早くレッスンしたい!」って思うんです。

バレエ学校時代も、マリインスキーに入ってからも、けがで帰国しなくてはならなかった時期がありました。日本で家族のもとにいられることは嬉しいんだけれど、早くあの厳しいレッスンやリハーサルに戻りたくなる。今回のコロナ禍で、同じような思いをした方はたくさんいると思います。私にとっても今回の帰国は長かったけれど、自分の身体を見つめ直すきっかけになりました。

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Photo : Giselle by Natasha Razina © State Academic Mariinsky Theatre

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Photo : Sleeping Beauty by Natasha Razina © State Academic Mariinsky Theatre

十代のうちは、バレエ以外でもいろいろと乗り越えなくてはいけないことがあるかもしれません。もっとバレエをやりたいのに、勉強しなくてはいけないとか。でも、そういう時こそ、目の前の今あることに精一杯向き合うことが大事なんじゃないかと思います。そうすることで、その先にきっと何かが見えてくる。そして、「やりきった」と思えたら、それは必ず自信につながると思います。

――ありがとうございました!

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

 


 

【 今、この瞬間に花開く 桜のようなダンサーでありたい(前編)】

...1年後こうなりたいとか、この役をやりたい、みたいな目標は特にないんです。ただ、今できることを精一杯やりたい。先のことを考えるより、今しないといけないことがいっぱいあるから。... 

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