壁を乗り越える【中村祥子コラボアイテム発売記念インタビュー】

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日本を代表するバレエダンサーの一人、中村祥子さん。2020年からはフリーのダンサーとして、精力的に活動を続けています。

チャコットとのコラボアイテム発売に先立ち、都内で行われた撮影の現場で、バレエ上達の秘訣や、一人の女性として輝き続けるためのヒントについてうかがいました。

意識のスイッチを入れる

基礎のポジションを身につけるためには、日々のレッスンで意識を持ち続けることが大切です。毎回「意識のスイッチ」を入れられるかどうかがポイントです。

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たとえば腕のラインは、胸の中心点からひじ、小指の先までがつながっていると意識します。ポール・ド・ブラをする時は特に「胸から発したエネルギーが指先まで届いている」イメージをもってみましょう。振りに気を取られて意識を忘れてしまうと、ポジションが決まらず、腕の動きが生きてきません。指先までエネルギーを行き届かせ、ポール・ド・ブラにも気持ちをのせて踊りましょう。

トゥシューズでの立ち方は、国によっても違いはありますが、ドゥミポワントからポワントに行く間の「ハイドゥミ」にも意識をもちます。ハイドゥミを意識することでなめらかなコントロールができ、パとパの間もスムーズに動けるようになると私は感じています。 ときどき鏡で自分の姿をチェックしながら、「意識のスイッチ」を確認する習慣をつけられるといいですね。

ファンタジーを伝えて

バレエの表現は、様々な経験を通して自分の中から出てくるものです。 たとえば「手を出す」動きは誰にでもできますが、その人が何を思い描いて手を出したかで、伝わり方が変わってきます。言葉がなくても、思いは動きを通してちゃんと伝わるのですね。

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自分なりのファンタジーを描いて表現することは、子どもたちにもできると思います。たとえばポール・ド・ブラの練習でも、「手の先にお花があると思って。そのお花を見ながら手を動かしてごらん。何色の花かな?」などと声をかけると、みんな様々な"花"を想像し、目で追いながら動いてくれます。

意識せずに腕を動かしているときとはまったく変わって、目線が定まり、動きがとても生き生きとしてきます。

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いったんバレエのポジションを忘れて、思い切り気持ちを表現する機会を得ることも大事です。時には身体を解放して、思いきり走り回ってみる。そうすることで、動きが自然になり、感情の表現もしやすくなると、身体トレーニングの先生にもうかがいました。自然に表現することは、意外な難しさがあります。たとえば「ジゼル」1幕の狂乱のシーンは、村人たちそれぞれが一人の人間として、驚きや心配する気持ちを立ち姿で表現しなければいけない場面ですから、背筋を伸ばして脚は第5ポジションのまま、表情だけ心配そうにジゼルを見ていたら不自然ではないでしょうか。

気持ちを素直に表現する経験は、いろいろな作品や役柄に生きてきます。「つらい」シーンであれば、自分がいちばんつらかったときの身体の感じを思い出したり。背中が丸まっていたってかまわないのです。経験したことのない感情なら、先生や他のダンサーに学びつつ、自分で想像しながら踊ることも大切。普段の生活で味わう喜びや悲しみ、様々な経験を、バレエに活かすことができると思います。

壁を乗り越える

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若いダンサーたちが夢に向かってがんばっている姿を、自分と重ねてしまうことがよくあります。 今の時代、お手本になるダンサーの映像もすぐ見られますし、役立つ情報がインターネット上にたくさんあります。でも、ダンサーにとっていちばん乗り越えるのが難しい壁は、自分の弱点と向き合うことだと思います。鏡の中の自分に自信がもてなかったり、ほかの人と比べて落ち込んでしまったり、「自分には無理」と思いこんだり。 そんな時にマインドをチェンジするためのきっかけづくりやアドバイスなど、声がけできる環境があれば、そのダンサーがまた新たに前進していくための助けになるのかなと思います。

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私も大きな「壁」には何度もぶつかりましたが、大好きな気持ちが大きくて、つねに無我夢中で進んでいました。それでも最高に落ち込んだ時には、誰かがアドバイスやヒントをくださり、乗り越えることができました。とても出会いに恵まれていたと思います。 大きな壁の前にいる時、どんな言葉が響くかはそれぞれ違います。一度「乗り越える」経験をすると、「こっちに進んでみればいいんじゃないかな」と、自分で気付けるようになることもあります。

「好き」な気持ちを持ち続けていれば、前に進むためのヒントにきっと出会える。振り返って「今の自分があるのは、あの時あきらめなかったからだな」と思える日が来るかもしれません。 壁を乗り越えた経験は、自信や美しさにつながる。悩みや迷いを抱きつつ、それでも前進し続ける女性は、強さがあり、美しさもあってとてもすてきだと思います。 

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

 


 

Chacott / SHOKO NAKAMURA
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