バレエの魅力を、ひとりでも多くの人に伝えたい(前編)【飯島望未コラボアイテム発売記念インタビュー】

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ヒューストン・バレエのプリンシパルとして活躍する飯島望未さん。白鳥、ジゼル、ジュリエットなど、さまざまなヒロインを繊細な表現と強靭なテクニックで踊りこなすかたわら、シャネルのビューティ・アンバサダーを務めるなど、ファッショニスタとしても注目を集めています。バレリーナとしての日々、ファッションの仕事、ほっと一息ついたときの表情など、日常が垣間見えるインスタグラムも大人気です。

そんな飯島さんとチャコットのコラボアイテムが、発売されました。都内で行われた撮影現場で、ファッションやバレエとの向き合い方についてお話をうかがいました。

 

服が好き、メイクが好き。
本当の意味で「洗練された人」でありたい。

 

――2019年3月にプリンシパルに昇進され、数多くの主役を踊られる一方で、ファッションの世界でもご活躍されていますが、そのきっかけは?

飯島 もともと服が大好きで、以前はバレエ関係とは別に、好きな私服を載せるインスタグラムのアカウントを持っていたんです。そちらでは、自分がバレエダンサーであることをあまり言っていなかったんですが、ある時、バレエの写真を載せてみたら、「バレエの人だったんですね!」「このインスタがきっかけでバレエを初めて観ました」等々、予想外の反響をたくさんいただいて。SNSを通じていろんな方がバレエに興味をもってくださったので、ファッションとバレエのアカウントを一本化したんです。ファッションを入り口に少しでもバレエの間口を広げていきたいなと思いました。そんなころにシャネルとi-Dマガジンのコラボのお話をいただいて。

 

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――連絡は直接インスタのほうに?

飯島 ええ。シャネルとのコラボ企画でショートムービーを撮影するからアジア人のダンサーを探している、新しい香水CHANEL N゜5L'EAUをテーマに振付もしてほしいというオファーだったんです。びっくりして、最初は偽物じゃないかと思いました(笑)。でも、シャネルの服も香水も母が愛用していて。シャネルは憧れと同時に親しみを感じる、私にとって特別なメゾンなので、お話をいただけてとても嬉しかったです。

 

――2019年1月には、シャネルのビューティ・アンバサダーに就任され、ほかにも数多くのファッション誌に登場されています。 

飯島 ファッションの仕事を通じてデザイナーや写真家、メイクアップアーティストなど様々なプロと出会えて、もっとクリエイティブでありたいという気持ちが強くなりました。なかでもシャネルのお仕事では毎回、本当の意味で「洗練された人でなければ」と思わされます。この服を着こなせて、メイクも似合う人間であるためには、外見だけでなく中身もちゃんと磨こうって。シャネルのスタッフの方たちは、いつもバレエダンサーとしての私と真摯に向き合い、尊重してくださるので。そういうところも本当に素敵だなと思います。

 

バレエの魅力を知ってほしい。
SNSがそのきっかけになれたら

 

――プリンシパルに昇進されたことで、何か変わったことはありますでしょうか。

飯島 劇的に変わったことはありません。ただ、プリンシパルになると基本的に誰も何も言ってくれなくなる。だからこそ、責任感がさらに強くなった面はあるかなと思います。

――主役を踊られる機会が多い今、本番前は緊張しすぎることもありますか。

飯島 本番前は、ほどよい緊張感を楽しんでいます。たまに、もうほんとに逃げ出したくなるくらい緊張することもありますが、そういうときは「大丈夫、大丈夫」って自分に言い聞かせています。最初から最後までイメージトレーニングしたり、手だけ動かしてマーキングしながら自分を落ち着かせたり。リハーサルや舞台で出し切ってしまう分、家に帰ったら、バレエのことは全然考えないほうです。そういう点では、ストイックではないかもしれませんね。

――オフの日は、どんなふうに過ごされていますか。

飯島 映画を見たり読書したり、絵を描いたりとか。映画はジャンルを問わずなんでも見ますが、特にウェス・アンダーソン監督の作品が好きです。本は、川端康成の『眠れる美女』とか安部公房の作品とか、ちょっと奇妙な味わいのものが好き。川端康成は言葉のチョイスがきれい。彼はバレエが好きだったって聞きました。最近勧められて読んだのは『聖なるズー』(濱野ちひろ著)という本。動物性愛をテーマに、愛と暴力について考えていくドキュメンタリーなんですけど、全然汚い感じではなく、めちゃくちゃ興味深くて。


――リハーサル、舞台、ファッションのお仕事、SNSでの発信とものすごくお忙しい日々なのではないかと想像しますが......。

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飯島 全然忙しくはないです(笑)。ヒューストンではバレエしかしていないですし、ファッションの仕事は帰国したときにまとめて入れているので。SNSも無理はせず、必ず毎日アップしなきゃとか、「いいね」をたくさんほしいとか、そういうつもりでやっているわけじゃないんです。ただ、ひとりでも多くの方に、バレエの魅力をわかってほしくて。SNSがそのきっかけになれたらと思っています。

今はコロナ禍で難しいけれど、状況が落ち着いたらやはり劇場に足を運んでいただきたいですね。ライブがバレエの醍醐味ですから。東京の劇場でも、世界的に見て素晴らしいダンサーたちが、素晴らしい作品を上演しています。ダンサーは長い時間をかけて訓練し、作品と向き合います。それなのに、お客様の多くがバレエ関係者で、一般の方になかなか観に来てもらえないのはすごくもったいないと思うんです。もっと劇場が身近な存在になって、「この週末、『白鳥』やるんだって。観に行こうよ」みたいなカジュアルなノリで、足を運んでもらえるようになったらいいなと。

――たとえば歌手や俳優のファンになっても、ライブのチケットを買うまでには段階がありますよね。その人のSNSをチェックしはじめ、公演情報を見てさらに興味が湧いて......というふうに。

飯島 ええ。私もゆくゆくはもっと知識をつけて、サポートや制作に回り、少しでもバレエに貢献出来たらいいなと思っています。バレエは私の一部で、もはや好きともいえないくらいですけど、「バレエを観る」ことは間違いなく好きなので(笑)。

 

「好き」のすべてがバレエに、
 私らしさにつながる

 

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――今回のコラボアイテムについても教えてください。

飯島 どれも、「あったら欲しいな」と思ってつくっていただいたものばかりです。特に、今着ているのはバレエをやっていない方にも、ぜひ着てほしいアイテムなんです。私、ニットがすごく好きなんですが、これはただのタートルネックじゃなく、ちょっと透け感があって肩が落ちたデザインになっています。ふだんに着られて、ラインがきれいに見える服をつくりたいなと思って。

――首から肩がほっそり見えて、ダンサー気分を味わえそう。レオタードやグッズも個性的です。

飯島 カーキのレオタードは、「着こなしを自由に変えられるウェアがあればいいな」というアイデアから2way仕様になりました。ボレロは暑くなったら外せますし、2カラー持っていれば色違いで組み合わせてもかわいいと思います。

――最後に、SNSの読者やファンのかたにメッセージをお願いします。

飯島 ファッションもメイクもバレエも「表現」という意味で共通しています。私も以前はバレエばかりやっていたけれど、大人になってから様々なことに興味を持ち始めました。それらが全部、バレエにつながっています。日本では「他を切り捨てて、ひとつのことに突き進む」ような美学が評価されがちですが、私にとってそれは「無理」なんです。同じように、ファッションもスポーツもアートも好き! みたいな女の子は多いと思うんですが、それはすごくいいこと。今の時代では「二足のわらじ」も、絶対にプラスになる。グレない程度に(笑)、なんにでも触れてみるほうが、豊かになれるから。どんな興味も経験も、必ず自分のコアに吸収されて、自分らしさにつながっていくと思います。

――ありがとうございました!

 

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

 


 

【バレエの魅力を、ひとりでも多くの人に伝えたい(後編)公開中】

...「敷居が高い」のは決して悪いことじゃない。
でも、だからこそ一度ライブで観てほしいんです...

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