西川大貴×加賀谷一肇:ミュージカル『(愛おしき) ボクの時代』 インタビュー

DDD青山クロスシアターにて11月15日より上演されるミュージカル『(愛おしき) ボクの時代』は、オフ・シアターから発信し、オン・シアターへのステップアップを前提にした作品づくりを目標に、世界に通用する日本発のオリジナルミュージカルを育てていくプロジェクト公演。シーエイティプロデュースが企画・上演する。
2001年に設立、2017年よりDDD青山クロスシアターを拠点とし、小規模ながらもロングラン可能な上演形態を創り上げてきたシーエイティプロデュースが、オフ・シアターとしての劇場利用を活かし、日本のオリジナルミュージカル創作に意欲のある若手クリエイターとコラボレーションしていく企画の第一弾となる。
脚本・演出には俳優・アーティスト・演出家・脚本家・タップダンサーとマルチな才能を持つ西川大貴、音楽はジャズピアニストの桑原あい、振付はジャズやシアターダンスほか様々なジャンルのダンスをこなす加賀谷一肇、と同世代の若手アーティストが集結。またミュージカル『ミス・サイゴン』や『ゴースト』の演出を手がけたダレン・ヤップがスーパーバイジング・ディレクターとして参加する。
稽古中の10月半ばに、脚本・演出の西川、振付の加賀谷に意気込みを聞いた。

----まずはこのプロジェクトに参加されたきっかけを教えてください。

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西川 もともとは昨年の話になりますが、加賀谷君が出演していて僕がスタッフとして関わっていた『TOP HAT』という作品の稽古帰りに、たまたまプロデューサーの江口さん(シーエイティプロデュース 取締役)と一緒になりまして、焼き鳥屋さんへ2人で行ったんです。そこで、日本のオリジナルミュージカルを作っていかないといけないね、という話で盛り上がって、じゃあ西川君脚本書いてみるか、となりました。その時に、誰か一緒に作っていきたい人はいないかと聞かれて、加賀谷君、音楽の桑原あいの名前を挙げて・・・というところから始まりました。

加賀谷 その後に、大貴君からこんな企画をやろうと思ってるんだけど、と持ちかけられました。話を聞いて、日本でもとうとうそんなすごいことができるのかと思い、二つ返事で引き受けました。

----実際にプロジェクトを始動させてみて、困難だった点などはありますか。

西川 今の時点までは、もちろん大変ではありますがいい音楽ができているし、加賀谷君のムーブメントの面も順調に進んでいます。そこから役者さんが出してくれる演技プランや動きから演出も膨らませて、何の問題もなく順調に進んでいます。この先は、劇場に入ってお客様の反応を踏まえてどういう方向へいくべきなのか、ということが見えてくることも多いと思うので、今も大変ではありますが、そこからだと思っています。

----台本のト書きには「ダンス」ではなく「ムーブメント」という表記が多いですね。

加賀谷 決してダンスだけを主体とした公演ではないのと、ダンスにはいろんなジャンルやスタイルがありますが、身体表現と言いますか、人間の動きの中で表現したい、ということなんでしょうね。大貴君の好みかもしれませんが(笑)。

西川 いわゆるダンスだぜ!っていうシーンももちろんあります。すごくショーアップされたダンスシーンもあるし、そうではなくダンスという言葉よりムーブメントという方がしっくりくるシーンもあります。
最初、加賀谷君と振付何曲あるかなって話した覚えがあるんですが、ダンスナンバー自体は4〜5曲でその時からあまり変わっていないですが、ナンバーではないムーブメントも結構あるかもねって話していましたけど、結構どころではなくめちゃくちゃあります(笑)。

加賀谷 すさまじく(笑)。大貴君がやってみたいことを聞いた時から、ミュージカルだからおのずとダンスのシーンも多く入ってくると重々承知していたので、そんなに驚いたということはないです。作りがいがあるなというナンバーはあっても、大変、引き受けなきゃよかった!ということはないですね(笑)。

----加賀谷さんはダンス公演やクラスでの指導などもされていますが、ダンスメインの振付とミュージカルでの振付は何か違いますか。

加賀谷 そうですね、レッスンの場合は生徒の皆さんのレベルを上げていくための動きの羅列でコンビネーションを作るときもあります。レッスンでも舞台でもそうですがダンスはやはり音楽ありきですので、ポピュラーミュージックだったりマニアックな曲だったり様々ですが、音楽重視で歌詞に当てて作ったり音楽に合わせて作ったりもします。ミュージカルの場合はストーリーがあってキャラクターがあって、台本があり演出があるので制限もありますし、作る時は考えないといけないことが結構違ってきます。作品に携わるときは、僕の振付やダンサーとしてのチャンスの場ではないですし、いつも必ず役目として大切にしなくてはいけないことを勘違いしないようには気を付けています。

----今回のオーディションには約400名の応募があったと伺いました。

西川 はい、書類選考をして200名以上の方に実際にお会いして、そこから60人に絞り、いまの17名プラス3名のスウィングキャストに決定しました。

----応募された方はどんな方が多かったですが。

西川 本当にバラバラで、いろんな方が来てくれました。事前にタップできる人も募集します、と謳っていたので本当にタップダンスしかしてきていません、という方もいましたし、歌が得意な方や、ストレートプレイしかやっていないという方もいました。アイドルの方もいましたし、今までに舞台の経験はないけど特技はたくさんあります!って人も。マジックができる、和太鼓が叩ける、モノマネがとか、特技欄がいっぱいの人もいました。

----そういった方たちが今回応募しようと思ったのはなぜだと思いますか。

加賀谷 やっぱりこの企画に皆さん魅力を感じだんだと思います。もちろんミュージカルが好きでという人もいますし、大貴君やダレンさんのネームバリューなんかもあるとは思いますが、今回のコンセプトや面白さ、これを日本でやれるということだと思います。

西川 日本でもオリジナル作品をしっかり作っていかなければ、こういうトライアウト的なことをやっていかなければ、という思いの種みたいなものを持った方が、多くいらしたという事だと思います。向上心やクリエイティブ精神のある人はみんな何かしら考えている、という中で何か刺激されたんだと思います。そこにこういう企画を立ち上げたことで、「だよね!」って思って参加してくれた。この「だよね」という気持ちがあったんじゃないかと思います。

----日本発のオリジナルミュージカルということですが、作品作りのきっかけは何だったのでしょうか。

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西川 いちばん最初は、「ボクたちの話」を書きたいというところから始まりました。身近な日本の話を書きたいと。そこでふと思ったのは、昨日もみんなと話したんですが、今の世の中には物が溢れていて、スマホだったりWi-Fiだったり、目に見えないものにコントロールされて生かされているという感覚になってしまうことが、疲れていたりするとあって。あとは人や具体的なものではなくて、絆とか親子の血とか、ぜんぶ目に見えないもので行く末が決められていて、運ばれていくような感覚を得た時があって、それがこの作品の種になっている部分があります。

----あらすじを読んで、日本の懐かしい部分や、ある意味絵本のようだなという感覚を持ちました。

西川 そうですね。いまの話をそのまま素直にやるんだったら、たぶんストレートプレイや音楽劇の方が調和性があると思いますが、敢えてミュージカルとして成立させるにはどうしたらいいんだろうと。そこに生まれる面白さがあると感じて、色々と考えて形にしていっています。

----オフシアター用にコンパクトに作ったものを、いずれはオンシアターを目指すことを視野に入れているということですが。

西川 そうです、そのためにDDD青山クロスシアターは6〜7人でもパンパンになるくらいの大きさのステージですが、そこに17人出ます。たぶん過去最多なんじゃないかな、楽屋どうしようって感じです(笑)。今後もし100回、200回とロングラン公演ができるとなったら、と考えるとスウィングさんも絶対必要ですし。

----スウィングキャストのシステムも最近は日本のミュージカルでもみかけるようになりました。

西川 絶対に必要なシステムです。
スウィングとは、キャストが急なアクシデントや故障などによって、本番に出演しないことが最善だと判断された場合、代わりに出演する俳優のことです。
複数ポジションをいつでも演じられるように稽古しており、この存在によってキャストが無理せず身体を休めることができたり、公演中止となることを防ぐことができます。

----スウィングは大変なポジション、マルチな方でないとできないイメージもあります。

西川 そういう「プロフェッショナルな役職」として認識されるようになって欲しいです。いまの日本の現状だと、キャストの選考にあぶれたまだ若手の人をギャランティを抑えて雇う、みたいな風潮があったりして。

加賀谷 スウィングキャストとして迎え入れる側も海外のシステムの真似事をしているような感じで、あまりきちんと理解されていない、便利な代役みたな扱いだったりね。僕もスウィングのいるカンパニーに携わったことがありますが、スタッフ側のフォローがなかったり、なんというかリスペクトがないなと感じたりしたこともあります。

西川 海外側に言われて、言葉は悪いですが入れさせられた、みたいな感じで。スタッフ側もあまり知識がないまま、キャスト側もスウィングって何だろうという感じで、どう関わっていいのか分からなかったり。だからみんなが分かってない、スウィング本人も分からない、誰も教えてくれないという状況になっていたり。
そうではなくて、キャストに体調不良や何かあった時に、気軽にスウィングさんにちょっとダンスナンバーだけ代わってと言えたとしたら、その1日ダンスナンバーを休めば回復するかもしれない。それを言えなくて1日頑張ってしまったがために、1週間出られなくなってしまうこともあると思うんです。キャストを守るためにも必要だし、スウィングを受け入れる体制があったらスウィングさんもやりやすいと思うんです。例えば、もう1時間スタジオ使わせてもらえませんか、とか、こういうやり方の方がやりやすいです、とか言える環境になっていけば。現実的な部分ではギャランティの面でも海外ではキャスト以上を払っているところもあります。キャストとスタッフの両方の仕事をしているわけですから当然の仕事量ですし、そういった面でもリスペクトされるポジションになっていって欲しいと思います。専門職になっていって欲しいですね、スウィングに向いている人っているんですよ、オールラウンダータイプ、ユーティリティプレイヤーという人が。

----タイトルについてですが、()が付いているのには理由がありますか。

西川 劇場でのお楽しみです(笑)。

加賀谷 そうなの?(笑)。

西川 僕、シーンごとにタイトルを付けているんです。ダレンと相談しながらやっていますが、シーンによっては「愛おしくない ボクの時代」って付けている場面もあるんです。それが最終的に「愛おしき」になれるのか、実際に見て、そう思える人と思えない人がいるかもしれません。

----開幕してからも4日間6公演ずつ、2回のプレビュー公演期間と稽古期間が設けられていますが、その間にもかなりブラッシュアップされるつもりなのでしょうか。

加賀谷 必要であれば。トライアウトという言葉に縛られずに、最高のもの、納得できるもの、お客様に満足していただけるものになればいいと思っています。やってみて気付くことって、どの作品をやってても絶対にあるんです。それが通常ですと、もっとこうしたいなと思うことがあっても今から変えるのもな・・とか、キャストが今更それを言うのもな、と思ってしまったりしますが、それを反映させていけたらと思います。

西川 大抵どの公演でもそういうのってあるんですよ、キャスト側もスタッフ側も。

加賀谷 あっても言えない状況というのがあるんですが、今回はそれを解消できたらいいなと思っています。

----今回はそういったことも可能な日程を組んでいるわけですね。

西川 無理に変えようとは思っていませんが、お客様のレスポンスや実際に公演をしてみての温度感などを得て変えるものもあるかもしれません。今もベストを目指して作っていますが、AとBという選択肢があった時に、双方にどんな反応の違いがあるのかなというのを、極端な話両方やってみることができるんです。

----そうなると観客側としては、アンケートなどもたくさん書きたくなりますね。

西川 そうですね、アンケートもですし、ぜひSNSでもハッシュタグを付けて発信して欲しいです。

----では最後に、見どころなどをお願いいたします。

西川 とても実験的なことをやろうとしてはいますが、小難しいことをやろうとしているわけではなくて、ジャンルでいうならポップソングミュージカルです。やはりミュージカルって、音楽が良くなかったらダメだと思っていまして、曲が良くてこそ、そこから惹きつける力があると思うので、ミュージカルに馴染みがある方もない方もスッと入っていける音楽がたくさんありますし、それに影響を受けたお芝居だったり、インスピレーションを受けて作ったムーブメントというのを楽しんでいただけると思いますので、気軽に来ていただきたいです。

加賀谷 ダンス面では、いろいろなジャンルにやったことがない人もトライしていますが、それを成立させてしまう熱や表現力を一人一人が持ってます。その魅力を言葉にするのは難しいのですが・・。

西川 僕からみていると、"2020年らしさ"って、今までの歴史の積み重ねがあって、古き良きものと新しいものが境無く混在しているようなものの様な気もしていて。まさに加賀谷君がそういう存在だなって思っています。同年代ですが、オールドスタイルのジャズダンスをとてもリスペクトしていたり、ヒップホップも踊れるしタップもコンテンポラリーも踊れる。そして持っているものがそれぞれ相互作用しているような気がします。それがこの作品やプロジェクトのやりたいことにジャストフィットして、振付ができ上がっていっているので、加賀谷君の振付そのものが見どころです!

加賀谷 見どころとは違うかもしれませんが、振付という立場ですとスタッフさんとの打ち合わせにも居合わせることが多いのですが、いろんな人がこの作品、大貴君のやりたいことに愛情と熱意をもって関わっているんだなと感じています。キャストもスタッフも本当に士気が高くて、それがまずすごいです。作品に対する好みはもちろんどなたにもあるとは思いますが、好みではなかったとしてもそれをもっとこうしたらいいのに、とか意見として返してもらえたら嬉しいです。SNSとかでは割とありがたい感想をいただくことが多いのですが、そうではなくて反対の意見であっても積極的にハッシュタグつけて発信してもらえたら、僕ら目を通しますから。なるほどと思うことはスタッフとキャストと話し合っていくのが今回のプロジェクトですから、嫌いだった場合も熱意を持って私は好きじゃなかった!と声を大にして言ってほしいです(笑)。

西川 賛否両論というか、意見が分かれるような、そういうプロジェクトになったらいいな、とも思います。

加賀谷 さっき仰っていたように物語は絵本のような要素もあるし、ショーアップされたシーンや抽象的なシーンもありますが、思ってたのと違う、とか何でもいいんです。良い意見はもちろん嬉しいですが、そうでない感想もどんどん発信してください。

----今日はお稽古中のお忙しい中、ありがとうございました。開幕を楽しみにしております。

ミュージカル『(愛おしき) ボクの時代』

<脚本・演出>西川大貴
<音楽>桑原あい
<振付>加賀谷一肇
<スーパーバイジング・ディレクター>ダレン・ヤップ
<出演>
天羽尚吾/猪俣三四郎/上田亜希子/梅田彩佳/岡村さやか/奥村優希/
風間由次郎/加藤梨里香/塩口量平/四宮吏桜/関根麻帆/寺町有美子/
橋本彩花/深瀬友梨/溝口悟光/宮島朋宏/吉田要士 (※五十音順)
※スウィング制度により、出演者は変更になる場合があります。詳しくは公式サイトをご覧ください。

〈会場〉
DDD青山クロスシアター

〈公演日程〉
1stプレビュー公演:2019年11月15日(金)〜18日(月)
2ndプレビュー公演:2019年11月23日(土祝)〜26日(火)
本公演:2019年11月30日(土)〜12月15日(日)

公式サイト https://www.bokunojidai.com

インタビュー&コラム/インタビュー

インタビュー・写真=上村 奈巳恵

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