インタビュー&レポート

インタビュー: 最新の記事

インタビュー: 月別アーカイブ

(インタビュー/関口紘一)
[2009.08.26]

前田美波里インタビュー

maeda.jpg

10月6日から上演されるミュージカル『ステッピング・アウト』は、2001年から全国公演を行っていて、今回が4回目の上演。日本初演以来ずっと主役のメイヴィスを演じ続けてきたが今年が最後の出演となり、ステッピング・アウトする前田美波里にインタビューした。
(舞台写真は全て「ステッピングアウト」公演より)

---『ステッピング・アウト』は今回で4回目のご出演となりますね。

前田 私はこの作品を愛していたものですから、くり返し出演しておりました。8年前に初めて上演した時には、日本の皆様には作品の内容が今ほど切実に感じられなかったようですが、今はひしひしと解る、実に今日のテーマが描かれているという気がいたします。たった8年ですが、今のお客様のほうが確実に感激していただいているように感じます。
介護の問題とか、暴力を振るう夫の話とかは、8年前には人様の前から隠されていたのかもしれません。この作品はそういうことをカルチャースクールの中でお喋りし合うという、とても身近な形でドラマになっています。実際、8年前より、私も成長したのかもしれませんし、作品が古くないのです。ユーモアをもって描かれているのですが、人間がどうしても捨てきれないというか、常に持つ、日常の悩みを非常に上手くミュージカルにしていて、ブロードウェイのミュージカルとは一味違った舞台です。

----最初はストレート・プレイでしたから、そうした日常性があるのでしょうね。

前田 演じる者にとっては、日常の何気ない会話が一番難しくって、どれだけナチュラルに演じられるかが大変です。
歌はジャズがベースになっていて、心の葛藤がうまく音楽にのるように歌われ自然に芝居に溶け込んでいます。音楽監督の前田憲男先生が「よくできてるなあ」っておっしゃっています。居心地のいい音楽なので、聴いているほうは聴き易いんですが、歌う方は意外に難しいんですよね。
『ステッピング・アウト』は簡単に言うと、悩みは尽きないけれども、私も勇気を出して一歩踏み出そうかな、というお客様が元気になるミュージカルです。
「美波里さんのミュージカルを見ると勇気づけられるわ」とおっしゃるってくださる方が多いんですけど、そういう作品に私が恵まれているということと、そういう作品とともに成長させて頂いたことが重なっているからだろうと思っています。

----8年間でご自身の演じ方も変わってきましたか。

maeda03.jpg
maeda04.jpg

前田 演じながらどんどん変わりましたね。ただ、この役は演じるというか、普段の自分とダブるところがあって・・・お人好しだったりおせっかいだったり、人が良過ぎて損するようなところがあったり、でもそれで、観た後にメイヴィスという一人の魅力的な女性像が浮き彫りになります。今までは、どうにかして近付こうとか色々変に演じようと努力したんですが、それがかえっていらなかったんです。そうしなければならない役柄もたくさんあるんですけれども、この役はないように感じます。観客の方もほんとうにフランクに反応してくれますし、泣くところは涙して、笑うところは、昔はこれだけやってるのにどうして笑ってくれないの、と思ったりしたんですが今ではごく自然に笑っていただけます。奥様たちが明るくなったのでしょうか、日本人って表現することがすごく下手でしたけれども、いろんな意味で変わってきているのでしょうね。
私自身も8年前にはまったく介護なんて関係なかったんですが、途中でちょうど母を亡くしましたし、介護をやりながら仕事と両立させるために悩んだ時期がありましたから、ほんとうに小さな台詞でも、ああいいとこ書いているなって改めて思います。兄弟の身勝手さとか、すごくいいところをリアルに描いている作品ですね。
最後にラインナップして踊るところがあるので、演出の竹邑類さんが、「これは、おばさんたちの『コーラス・ライン』だ」ってよく仰います。『コーラス・ライン』はダンサーたちがダンサーとしての悩みや自身の幼児体験などを話しますが、こちらの作品は自分の今現在持っている悩みを思わずさらけだしてしまう、という感じです。全員が主役で、全員が悩みを持っています。
ロンドンのお芝居を観て、ライザ・ミネリさんが映画にして、映画になったものを観て、ロンドンがまたミュージカル舞台化したんです。その初演を私たちが日本で演じました。映画のほうはミュージカルじゃなくて音楽劇ですね、本格ミュージカルとして舞台化するにあたって、音楽を新しく作曲しています。

----前田さんは今回が最後のご出演になるとお聞きしましたが。

前田 ええ。今回が最後です。この作品を卒業して、また新しい作品をやることになりますので。

maeda02.jpg

----最近でこそ、ミュージカルと言えばどこでもやっていますが。

前田 デビューしてから45年になりますが、私はミュージカルからスタートしました。15歳の時に『ノーストリングス』のオーディションがあって、それからこの世界に入りましたが、日本にミュージカルはなかなか定着しませんでしたね。何年も、演じたいのにどこもやらないという歯がゆい思いをしていました。劇団四季の『キャッツ』からですね、日本でミュージカルを観るという観客が育ってきたのは。それまでは何をやっても本当にミュージカルはお客さんが入りませんでした。日本のミュージカルも随分創られて、小品ですが、音楽家や作家の方が随分頑張っていい作品ができました。『山彦物語』はブロードウェイにまで行っています。私は初演のメンバーですが、またやろうという声もあります。劇団四季が子供のミュージカルを全国でずーっとやり続けていたのが大きいですね。地方を回って、親よりも子供のほうがミュージカルを観るのが当たり前のようになって、『キャッツ』で完全にお客さんがミュージカルは楽しいものなんだ、と思うようになりました。今はもうどこの劇場でもミュージカルやってますけどね。15歳でこの世界に入った時は、何をどうやって勉強したらいいのかも皆目分かりませんでしたからね。その時からはだいぶ事情が変わってきたわけです。

-----実際、どのように勉強されたのですか。

前田 私たちの時代は、歌は歌で習い、踊りは好きだからやってるみたいな感じでした。やはり、役者としてきちんとした演技ができる上で歌えて踊れないとミュージカルの役者とは言えないと、有吉佐和子先生にははっきり言われました。
『コーラス・ライン』のオーディションに受かって劇団四季にお邪魔して、8年間ゲストとして出演させていただいたときですね、基礎的なことを学んだのは。
今は、小学校に入る前からお母様方がタップを習いに行かせ、日舞を習いに行かせ、ジャズやクラシックを習いに行かせて、さあミュージカルへ。「ハイ、じゃあ『アニー』を受けましょう」って。いかに今の子供は幸せか。
私たちは全然解っていなかった。私の初舞台なんて、踊りはダンサーが専門、その他大勢の芝居は東宝現代劇、歌は二期会。確か浜木綿子さんが宝塚を辞められて最初の作品でした。それから水谷良重さんは、現在の八重子さんですが、タップができて歌えて踊れる数少ない方だったから、素晴らしく格好良く見えました。歌の場面っていうと、舞台の人物がスーッと入れ変わって二期会の方たちが出てきて歌いました。これが当時のミュージカルだったんですよ。ダンスはあの頃、NHKで活躍していた堀内完さんのユニーク・バレエ団がスターダンサーズっていうチームを組んでいて、ジャズも踊れてクラシックも踊れるという人たちがダンスシーンでは踊っていましたね。

----今まで主演された作品で一番印象的な舞台といいますと。

前田 一番と言うといつも困ってしまうのですが、節目節目となった作品がやはり自分の心に残っています。初舞台の『ノーストリングス』もそうですけれど、20代後半にオーディションを自分の力で受けた『コーラス・ライン』です。一度落ちたんですけれど頑張って、自分の力で努力して3ヶ月の稽古の末、勝ち取った役というのは、やはり忘れられない思い出ですね。
今年また30年ぶりですか、『コーラス・ライン』が上演されていますね。私、宣伝担当なんですよ(笑)。私はこの作品に育ててもらった、といってもおかしくない、この作品から舞台人になったので、自分の出る舞台ではないのですが宣伝担当をやっております。あの感動を皆さんにもう一度味わっていただきたいと思いますし。
それから『アプローズ』。実は26年前、劇団四季でやらせて頂いてるんです。ブロードウェイの初演ではローレン・バコール、日本では越路吹雪さんがやられて、その次に私。『イヴの総て』という映画を基にしたミュージカルで、主人公の大女優の役ですが、四季でやらせて頂いた当時は、未だ若くて大女優を充分に消化して演じることができなかったんです。でも昨年リベンジで演じることができ、松尾芸能賞という賞まで頂戴しました。来年はその作品を持って、東北、北海道地方、能登演劇堂などを回ります。

-----小さい頃バレエは習われていたのですか。

前田 森下洋子さんに憧れていたんです。彼女のことは小さい頃少女雑誌のグラビアで観ていたので、全然先輩だと思っていたんですが、実は同じ歳でした。チュチュに憧れたのか、森下さん可愛かったし。小鳩くるみさんとか松島とも子さんとかもね。私は芸能界に入る気なんてまったくなかったんです。バレリーナになるのが夢で、バレエは鎌倉のパヴロワ先生のお弟子さんの野口力子先生のところで習い始めました。東京に出てきてからは堀内完ユニーク・バレエ団で習いました。元君が未だ小さい頃ですね。中学2年生の時にちょっと病気しまして1年休むことになって、バレエは諦めましたけど。
私、チャコットさんといえば、『タンゴ・アルへンティーナ』がブロードウェイにかかった時に、自分でやりたくてお願いして、まだタンゴの靴なんかなかった時にコンサートの靴を作っていただいて、衣裳も全部デザインしていただいたことがあります。未だに大切にとってあります。今も舞台でチャコットさんの衣裳を何着か着ています。『アプローズ』でも履いている靴は特注で創っていただいたものですし、もうチャコットさん抜きのミュージカルなんて考えられませんね。長い旅公演などで踊る場合、一番怪我の少ない靴を選ぶとチャコットさんのものになっちゃうんですよね。そう、とにかく、ステッピング・アウトやアプローズでも靴に限らず、みんな随分お世話になっているんですよ。

----最後にニュージーランドのオピニオンリーダーに就任されたとお聞きしましたが、どんなことをなさるのですか。

前田 団塊の世代の人たちにもっとニュージーランドに行っていただきたい、ということで。旅が好きだったからでしょうか、私に白羽の矢が立ったのです。私がむこうに行って勉強しつつ、機会を創って皆さんに紹介していきます。ニュージーランドには温泉もありますし、ロトルワ市と別府市は姉妹都市ですし、ワイポワの森のニュージーランド最大の巨木「タネマ・フタ」と屋久島の縄文杉は世界で初めて姉妹木の関係を結んでいます。
ニュージーランドは豊かな自然がまだまだ残っているところですので、もっとたくさんの方に愛していただきたい、と思っております。

(読売新聞のYOMIURI ONLINE yorimo にて前田美波里さんの案内でニュージーランドを巡る記事がみられます。
https://yorimo.yomiuri.co.jpより特集ページへ)

-----本日はお忙しいところ、たくさんの楽しいお話をありがとうございました。
 


ミュージカル「Stepping Out」 >>>発売中

●10/6(火)〜12(月・祝)
●博品館劇場
●出演=前田美波里/榛名由梨/末次美沙緒/杉村理加/桧せいら/山崎美貴/本多祐子/真山葉瑠/池田知穂/宮内良
●7,800円(全席指定・税込)
●開演時間=10/6・9 19:00、7・8 14:00と19:00、10〜12 13:00
●お問い合わせ=博品館劇場 03-3571-1003
http://www.hakuhinkan.co.jp