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あうるすぽっと 提供
[2009.05.26]

あうるすぽっとプロデュース『三番叟』 野村万蔵×近藤良平 対談

狂言師・九世野村万蔵さんとコンドルズ・近藤良平さんの強力タッグ結成! 狂言の中でも神聖かつ重要な演目を、正統と革新、ふたつの表現で舞うという画期的企画が実現しました。「挑戦」を前にしたお二人の決意とは…。

――「あうるすぽっと」のこけら落としでは、万蔵さんのお父様・萬さんが『三番叟』を舞っていただきました。今回は「あうるすぽっと」の2周年記念で、狂言の伝統にのっとった正統な『三番叟』と、近藤さんオリジナルのコンテンポラリーダンス流に解釈した『三番叟』、二作品連続上演することになりましたが、最初に企画を聞かれたときはどう思われましたか?
 

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野村 正直言えば驚きました。『三番叟』は狂言の中でも特別な、狂言そのものよりも古い歴史を持つ作品なんです。一演目ではなく、神に捧げる神事ですから、一番大切にしていると言っても過言ではありません。歌舞伎舞踊としての『三番叟』はありますが、現代のダンスで、しかもお囃子は古典そのままを使うとは……非常に面白いけれど可能なのか、やって良いものかと思いました。

近藤 僕も最初に聞いたときはとても驚きましたし、「そんなことして捕まったりしないか?」と思ったくらいで(笑)。

野村
 いや、企画を立てたプロデューサーは怖いもの知らずの方ですよね(笑)。

――近藤さんは、日本舞踊家・坂東扇菊さんとのコラボレーションを以前から続けていらっしゃいますよね?


近藤
 でも知識としても古典芸能を勉強したわけではないので、まったくの素人です。興味はあっても、日本舞踊そのものの勉強をすべきか、伝統芸能全体の歴史から始めるべきか、考えるだけでなかなか手が出せないというか。今回は良い機会なので、万蔵さんに僕を3日くらい拘束して頂いて、短期集中講座を受けるとかどうでしょうか?(笑)。

野村 お互い豊島区民で、家も近所みたいですしね(笑)。ただ、あまり勉強してしまうのは、今回の場合どうなんでしょう…。

近藤 確かに僕も迷っているんです。勉強させて頂いても出てくるものは同じかも知れないし、知らないまま作品に飛び込んで行ったほうが嘘がないかも知れない…。本来はきちんと型や場所が決まったものじゃないですか。
野村 ええ、特にこういうものは厳格に決まっていますね。最初に演じるとき、僕らは「披く(ひらく)」と言うんですが、そのときは一年くらいかけて稽古しましたから。

――万蔵さんはいつ披かれたんですか?

野村 僕はちょうど二十歳のとき、しかも成人式の当日に披きました。観世鉄之丞さんの「鉄仙会」という会でした。

近藤 振りを間違える、というようなことはないんですか?

野村 あぁ…間違えてはいけないんです(笑)。もちろん最初は一生懸命になりすぎて、お囃子の似たところを聞き違えたり迷ったりもありますが、そこは稽古を重ねるしかない。慣れが大事ですから。披いたときも、間違えなかったはずです(笑)。

近藤 お囃子、まだ数回しか聴いていませんが、ダイナミックでカッコイイですね。最初は映像で観たんですが、身体を低くしておいて急にジャンプするところとか、犬が敵に向かって威嚇している感じ、身構えて低く唸っているときのイメージに見えて。何だか動きとして、すごく僕にはフィット感がありました。すみません、変な例えで。

野村 いえ、でも面白い見方をされますね(笑)。

近藤 身体は経験したことがないのにフィット感を感じるのは、僕がやはり日本人だからなのかなとか、単に作品をひとつ作る以上に、絶対いろいろと考える機会になると思います。

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近藤 それと、今回の企画をいただいたタイミングも大きいと思って。僕今40歳なんですが、万蔵さんも同じくらいですよね?

野村 少し上ですね、43です。

近藤 もし20代でこのお話をいただいても、僕はできなかったと思うんです。精一杯やっても、ちょっとした不良の反抗程度で(笑)、ヤケで踊って終わってしまいそう。でも今なら自分の奥にちゃんと問いかけて、伝統を持たない僕に何ができるか、僕なりのダンスがどういうものかに向き合えると思う。あとは、失礼のないようにと思うだけです。僕ら海外でもよく公演しますが、イスラム圏とか宗教が違うところではタブーの振りがあったりするんですよ。「お尻の真後ろの面を舞台上で見せてはいけない」とか。

野村
 なるほど。動きのタブーはないと思います。ただ『三番叟』という踊りの意味や、何を表現する踊りなのか、という芯の部分を壊さなければ。

――万蔵さんも「現代狂言」など、従来の狂言に新しい表現を取り入れた創作をされていますが、つくる際に「ルール」のようなことは決めているのですか?

野村 その時々に考えることも変わりますが、結局は演じる場所、能舞台に対する尊敬の念だけは忘れない、ということでしょうか。例えば客席に下りて行き、その同じ足袋のまま能舞台に上がることは決してしません。能舞台は土足で踏み入ってはいけない神聖な場所ですから。
狂言というものの歴史や精神性の象徴が能舞台なんです。あとは…あの世に行ってから、ご先祖に激怒されないかどうかでしょうか(笑)。

近藤 そういう感覚ってスゴイな。

野村
 今回の話も、父に相談しましたし。はっきりではありませんが、「任せる」みたいなことを言ってましたので。

近藤 うわ、またドキドキしてきました(笑)。

野村 真面目にやれば良い、ということですよね。

近藤 もちろんです! それにこの企画の良いところは共同創作ではなく、それぞれの表現を追及できるところだと思うんです。

野村 確かに、中途半端なコラボレーションではお互いの良いところを消してしまうこともありますからね。今回は同じ土俵、同じ音楽だけどまったく違う表現をお客様にお見せすることになる。

近藤 非常にクリアですよね、とことん自分の踊りをつくることができる。

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――改めてお伺いしたいのですが、万蔵さんにとって『三番叟』という作品はどういう位置づけにあり、どんな魅力を持っているのでしょうか?

野村 年間を通して舞台に立ちますが、そのなかでも一番緊張するし、精神的にも肉体的にもコンディションを万全にして臨む作品です。舞台上で神様になる舞ですから、自分に不浄があってはいけない。お客様も巻き込んで、心洗われる空間と時間をつくり出し、平和を感じていただかないといけないものですから。必ず毎年踊りますし、特にお正月が多いのですが、自分の肉体や芸を確認する機会にもなりますね。

近藤
 素晴らしいですね。

野村 家では全員必ず習う曲ですが、舞うときはその家の「顔」、芝居で言えば座長が舞うものなんです。黒式尉(こくしきじょう)という、黒いお爺さんの面をつけて舞うのですが、面の中で一番大切にしますし、装束も箪笥の一番上に置きます。取り出しにくいので真ん中あたりに置いたことがあるんですが、父に「中途半端な所にしまうな!」と怒鳴られました(笑)。それに今は作る職人さんがいなくて履けなくなってしまいましたが、『三番叟』と『釣狐』という演目だけは、皮の足袋を履いて演じるものだったんですよ。それほど特別なものなんです。

近藤 僕らはいかにいい加減に暮らしていることか…。特に僕は小さいころ南米に暮らしていて、根無し草的なところがありますからね。両親は日本人ですが、自分のなかの日本人的なものに、どこか疑いを持っているんです。今回はそこが強みにもなりそうだし、逆に自分のなかの日本人に直面する可能性もあって、そこは興味深いです。

野村 僕も非常に楽しみです。『三番叟』という演目は、長い歴史の中で洗練され、自分で言うのもなんですが、なかでもうちの三番叟は非常にカッコよく洗練されていると思うんです。元は農耕の動作から生まれた舞ですが、そういう土俗的な動きは薄れている。でも洗練され完成度が高いぶん、ちょっとやそっとでは変えられなくもなっているんです。だから、近藤さんが自由な発想で取り組む結果、何が飛び出してくるのか本当に楽しみです。僕から伺いたかったんですが、過去に自分でつくってきたダンスを「古典」だと思いますか? 言われたら、型のように何度でも踊ることができるんでしょうか。

近藤 うわー、すごい質問ですね(笑)。同じように身体が動くかはわかりませんが、再現できるとは思います。僕の踊りはジャズやヒップホップのように型のあるものではないけれど、それでも好みの動きや流れはあるもので、何作も作るうちに“近藤節”のようなものができてくる。それは他人に振付けても変わらないもので、「古典」とは言わないまでも、「自分ベーシック」みたいなことはありますね。でも、今日のお話だけでも、たくさんヒントをいただいたような気がします。いつにも増して、さぼらず真面目に取り組みますので、宜しくお願いします!

野村
 こちらこそ、宜しくお願い致します。

(取材・文 尾上そら / 写真 市来朋久)

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あうるすぽっとプロデュース 
「三番叟」SANBASO〜伝統と現在〜

  • 9/8(火)・9(水)
  • あうるすぽっと
  • 演目・出演=
    第一部「狂言三番叟」野村万蔵
    第二部「コンテンポラリー三番叟」
    構成・振付・出演=近藤良平 出演=コンドルズ選抜
  • 全席指定 5,500円
  • 開演時間=両日19:00
  • お問い合せ=あうるすぽっと 03-5391-0516
    http://www.owlspot.jp/performance/090908.html