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インタビュアー/関口紘一
[2013.03. 5]

公演直前インタビュー/小林十市
国内ラストダンスは、ソロで魅せる『ハムレット・パレード』

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----昨年11月のバレエ協会の『振付悪夢』はとてもおもしろかったです。
あの絵はどなたが描かれたのですか。

小林十市(以下J.K.)あの絵は、天野弓彦さんという画家の方に特別に描いてもらいました。最初は写真でやろうかなと思ったんですが、それだと反射してしまって難しかったので、絵にしたことは正解でした。1枚絵の肖像画が4枚と、4枚合わせるとひとつの顔になる絵を描いて頂きました。すごい力強いというか、存在感がありました。特に目が凄いですね。椅子も良い感じだったし、それから声がまた強烈でした。この三つがあれば、僕は何もすることがない、と思ったくらいでした。
あの声は、ストラヴィンスキーとベジャールさんの関係を描いた作品があって、ベジャールさん自身も舞台に立っていて、オープニングに男性の群舞があってそれが終わってみんなでアドリブみたいな動きになる。その時、ベジャールさんが舞台を横切ってぼくの横に来るんです。そしてあの声、「ジューイチ」です。その部分だけ他の音が混ざっていないのでとり出せました。

----最近のダンスで、あんなに素直に自分の心を語った作品には出会ったことがありません。自分をカッコ良くみせたり、カッコ良く見える部分だけを舞台にのせる人は多いけれど。
J.K. 僕のは作品タイトルそのままですから。振付の仕事を受けたけど、どうしていいか分らない。ベジャールさんが出てきたので、助けてくださいとお願いしたら「自分でやれよ」みたいな感じで、でもちょっとアイデアをくれて、そこから振付けが出来てきて、でも実際はそれは夢のままだった、みたいな展開ですね。

----とてもおもしろかったです。十市さんといっしょに居る、という感じでした。
J.K. 結局、今のぼくは振付けると言っても新しいステップが見当たらない。何をやっても、もう既にどこかで試みられてしまっているような気がするんです。ずーっと考えていて、新しいステップというのはないな、と。新しいコンビネーションはあるけれども、そう感じるんです。

----確かにベジャールという大きな山があるのですからね。
J.K. だから、先輩ジル・ロマンが凄いのは、敢えてそこを通らないで自分の動きを探している。凄く大変な事だと思います。そうすると、結局オリジナルでいられるのは、構成と音のチョイスというところだと思うんです。オリジナル作品というと非常に難しいです。ジルは自分のもっている動きのボキャブラリーを深していますけど、僕の場合は、ああベジャールさんこうやってたよな、っていうパズルのピースを枠にはめて行く作業です。だから振付っていう感じはしないんですよね。構成を考えているだけで、動き的には自分がやって来たことをやっているだけだから。

----十市さんの場合は、ベジャールを踊りたいといってベジャールを選んでそこに行き、ずーっと踊っていたわけだし。そこからノイマイヤーに行ったとかキリアンを踊ったとか、そういう道とは違うからそれはむしろ当然のことなのだと思います。影響の受け方がまるで違う。ベジャールが『リング』を持って日本で上演したときだって、十市さんはジルを始めとする他のベジャール・ダンサーたちと、丁々発止と舞台で火花を散らして踊っていました。『振付悪夢』の中でもベジャールさんのステップが踊られていましたが、やはり、久しぶりに本物を観て無性に懐かしかったです。
J.K. ただベジャールさんのスッテプを並べている訳でもないんです。それはそう、こだわり方が違うから、このステップだったらこうでしょうという踊り方、舞台上での存在の仕方。それを自分はやりたいし観てもらいたいんです。それをやらないでまったく別の方向にいくと、やっぱり自分自身に嘘をついている事になるんです。なので振付けは、やはり無理だなということになってしまう。
自分で構成はしているので、コピーだとは思われたくはないですが、こだわりが「らしく」見えるなら本望です。

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----結局、暫くはベジャールさん的なダンスを踊ることになりますか。
J.K. 今回のダンスアクト『ハムレット・パレード』もそこに行くことになりそうですね。
ぼくは今年の4月からヨーロッパで住むことになるんですけど、その前に、日本に帰国してから演劇の世界を教えてくれた青井陽治先生と、今までぼくをサポートしてくれたキョードーファクトリーの皆さんと一緒に仕事がしたいと思いました。前々から自分の中でずっとくすぶっているものがあります。
『エリザベス・レックス』というお芝居に初めて出た時以来、青井先生のワークショップに通っていました。教材は青井先生が翻訳した物だったり、シェイクスピアからは『ハムレット』と『マクベス』がありました。その中で、ハムレットの独白が六ヵ所って、それをワークショップでやるんです。ぼくが初めて出た時、題材を渡されて「わぁこんなにある」という感じだったのですが、その中から参加者が演じたいものを演じるわけです。初日だからすごい緊張して、何かやらないと進まないと思ってとりあえず、第1独白をやりました。そこから毎回参加するたびにそれをやっていきました。そうこうしているうちに、一人の役者さんが六ヵ所全部を通してやったんです。これは芝居が始まる前の、幕前で若い役者さんがやっていたものですが、状況説明の台詞があります。それをプラスして状況説明・独白、状況説明・独白と、それを全部演じる事を<ハムレット・パレード>と呼んでいるのです。
実際、僕は<ハムレット・パレード>を演じた役者さんを観たことがあって、すごくかっこ良かった!それで「ぼくもこれをやりたい」と思いました。4年通って三つまでは出来たのですが・・・。
2年前の11月に新宿BLAZEで初めて企画・演出した時に、本当はこれをやりたかったんです。でもまだ舞台を創ったことがまったくなかったので、無理かなと思って、結局、大柴拓磨君と『ファウスト・メフィスト』をやることになりました。
そして『ファウスト・メフィスト』や『振付悪夢』と段階を踏んで、『ハムレット・パレード』に挑戦することになりました。やっぱり、これをやらないと後悔するなと思ってチャレンジする訳ですが。
今、ぼくは身体の状態が怪我から復帰してから一番良いです。もちろん現役時代の頃とは違いますけど。しかし、この間も『中国の不思議な役人』を踊ったし、昨年からダンサーとしてのトレーニングもしっかりと積んできているので。今、状態の良いうちにやってしまおうということですね。それから、芝居からちょっと離れているので、喋りたいという欲求もあります。

----踊りますよね、音楽は。
J.K. 踊ります(笑)音楽はベートーヴェンの第7シンフォニーです。そこからしてベジャールさん的だと云う感じがするかもしれません。

----完全にソロですね。
J.K. 初めてですね。独白を喋るだけでも20分くらいで、全体的には1時間くらいにしたいのですが、かなり体力勝負になると思います。自作自演だし、全体的なバランスを考えてはいるのですが、どうなりますか。

----とてもチャレンジングな舞台になりますね。
J.K. 振付や踊ることもそうですが、台詞が、『ハムレット』ですから。言葉の重みをしっかりと語らなくてはなりませんし。

----踊りながら台詞を喋るということは、かなり負担になりますか。
J.K. 違いますね、どういう風に感情をもっていったらいいのか。前後というか、台詞、踊り、何か入れて、とか。その構成の仕方によっても台詞の動きへの影響というのが違ってくると思います。踊りは身体を動かせばいいとしても台詞はそうもいかないので、難しいところかなと思います。

----ハムレットになり切るということになりますか。

J.K. どうでしょうか?踊りもなるべくハムレットの気持ちに沿って、曲もそのようにチョイスしていかなければならない、と思っています。

----ベジャールさんの『ハムレット』はジャズでしたか。
J.K. ありました、ありました。デューク・エリントンです。ジルが踊っていましたが、あれは他のダンサーも踊っていましたし25分ちょっとでした。すごく上手くまとまっていますよね。お父さんの亡霊がパトリック・ド・バナでした。ジルと話したんですが、パトリックが亡霊を踊った時、髪を一部メッシュに白く染めていたんです。そして現在は当時染めていた所が実際に白髪になっているという話なんです(笑)

----そうですか、おもしろいですね。映像とかは使いますか。
J.K. 映像は使います。映像ではクローディアスとガートルードとポローニアスとオフィーリアになり、それを映像でぼくが演じます。『ハムレット』は物語りが暗いですし、踊りも雰囲気も暗くなってしまうと心配しています。ぼく的には笑いの要素が欲しいのです。イメージしているのは、パントマイム的な、演劇ごっこ的な感じです。間、間に滑稽な味があるといいなと。観客に「ふっ」と微かに笑ってもらう時間が映像に欲しいと思っています。原作を読んでいるとこういうこともしたいな、と思うこともあるのですが、ワークショップで始めた独白部分のダンサーとしての表現を創るというのがメインです。『ハムレット』全体を追うとこれとは違ったものになるでしょう。<ハムレット・パレード>という軸をキープして、ダンサーとしての表現を創っていきたいと思っています。

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----そこまで演劇の分野に入り込んでいるダンサーはいないと思いますね。演劇のワークショップの題材を使ってダンスを創るという試みは、とてもおもしろいです。
J.K. 観客がストーリーを分っているだけに逆に怖いですが、踊りに関しては自分のやりたいこと、この動きがやりたいと思えばやる、ということに尽きますね。踊れる期間は限られていますから。
それからオフィーリアの独白部分もあるんです。これを入れると完全版<ハムレット・パレード>になります。それを通して演じた人は今までいないと思いますが、今度挑戦してみようかなと思います。オフィーリアは「女形」的といいますか、なんとなく観ている人には分かりやすくやろうと思っています。これもベジャールさんっぽいかもしれませんね(笑)。
ハムレットの台詞は重いし強烈なので、どこかで遊びを入れたいし、踊りもありますが、やはり息抜きがないと短い時間でも窮屈なんじゃないかなと思っています。映像との絡みでそう云う点も出せればいいかなと。

----ベートーヴェンですしね。
J.K. 第7シンフォニーは良いですね。ベジャールさんも何回か使っていますが、今回、その気持ちがわかるような気がしました。最初はバロック音楽とか考えたんですが、それでも「ああーなるほどね」と思ってもらえるかも知れないけど、なんか面白くないというか。音もガツンとあったほうがいいよな、と思いまして。
やっぱり、大柴拓磨君との出会いがきっかけとなって、こうやって創作していくんだと云う事を、段階を踏んできた延長でここまで進んでこられたかなあという感じです。

----フランスに移住することを決められたそうですが。
J.K. 単純に家族と一緒に過ごすためです。娘も8歳になりましたし日本語を教えたいです(笑)。フランスのバレエ教師の国家資格が取れましたので、向こうでも教えが出来るので行くことに決めました。もちろん、他にもいろいろと試みるつもりですけれども。ベジャール作品の振りを教える機会があったりすると嬉しいですね。
フランスではオランジュに住むことになりますが、あそこには10,000人くらい入るローマ劇場があって、毎年オペラフェスティバルをやってます。そういうところをですから、また何か日本と関わるチャンスがあるかもしれません。

----本日はお忙しところありがとうございました。『ハムレット・パレード』は、現在の十市さんのすべてを投入する作品になると思います。大いに楽しみにしております。

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小林十市 ダンスアクト
『Hamlet Parade・Last Dance』

●3/28(木)・29(金)
●新宿BLAZE
●出演=小林十市
●5,500円(全席指定・1ドリンク付)
●開演時間=28日19:00、29日19:00
●お問い合わせ=キョードー東京 0570-550-799
(オペレータ受付時間 平日12:00〜18:00/土日祝10:00〜18:00)