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インタビュー/関口紘一
[2012.12.26]

エレイン・クドウ、インタビュー
トワイラ・サープは、ダンサーはアスリートでなければいけない、と思っていました

本日はエレイン・クドウさんにお目に掛かるのをとても楽しみにしてきました。1986年でしたか、クドウさんがバリシニコフと来日されて、素晴らしい『シナトラ組曲』を踊られたのを見てたいへん感激しました。当時はまだクラシック・バレエの全幕物を中心に観ていたので、ああいった素晴らしい作品に接することも少なかったのでたいへん心に残っております。私はたまたまエレインさんのご親戚の方と会場でお話する機会があり、その方からバリシニコフは『シナトラ組曲』はエレイン・クドウさんとしか踊りません、と教えていただいたのを覚えています。
クドウ そうですか、昔ですね。確かにバリシニコフは私としか『シナトラ組曲』を踊りませんでした。

---あの時はワールドツアーでしたか。
クドウ ええ、思い出す努力をします。ワールドツアーじやなくて夏のツアーで、アメリカの大きな都市回って日本へ行くツアーでした。

----そうしますとクドウさんが日本で踊られたのは?
クドウ そう、86年のその時ともう一度、ABTの日本公演で踊りました。その二回だけ。もっと踊りたかったですね。

----『シナトラ組曲』を振付けたトワイラ・サープは音楽的な教養が豊かで、幅広い様々な音楽を使ってダンスを作っていますが、同じ音楽を使うことはほとんどなかったと思います。しかし「シナトラ・ソングス」だけは、4、5回振付けています。彼女にとってシナトラは特別ですか。
クドウ 彼女は「シナトラ・ソングス」のいくつかのヴァージョンの異なった作品を創っています。コンサート・ヴァージョンとして作ったのが7組のカップルが踊る『 9 シナトラ・ソングス』です。これがサープ自身のカンパニーのために作った最初の「シナトラ・ソングス」でした。この作品を見てバリシニコフが踊りたい、とリクエストしてきたのです。そしてできたのが『シナトラ組曲』で、今までのものを凝縮したような作品でした。最近日本でも上演されたブロードウェイ・ミュージカル『カム・フライ・アウェイ』には、『 9 シナトラ・ソングス』の振付がところどころで使われていました。
サープは初期の頃のジャズ、ピアノジャズを採り入れた作品を創ったこともありました。シナトラの声が好きというよりも、オーケストレーションやフレージングのクオリティが気に入っていました。またトラフィック・バンドなど曲も好きでした。ビリー・ジョエルの曲に『ムーヴィング・アウト』を振付けたように、ポピュラー・ミュージックもたくさんも振付ているし、クラシック音楽も使っています。『プッシュ・カムズ・トゥ・ショヴ』なんかはハイドンの曲ですね。

1226kudou_01.jpg 「イン・ジ・アッパー・ルーム」のリハーサル

----サープは小さい頃からシナトラの歌にも親しんでいましたね。
クドウ サープの子供時代のバックグラウンドというのは非常に興味深いものがあります。両親がドライヴィング・シアターを経営していたので、映画をたくさん観ながら成長しました。彼女はまた、バレエだけではなくバトントワリング、ヨガ、エアロビクスやボクシングなどを子供時代に習っていました。
ダンサーはアスリートでなければならないとして、分野を越えたトレーニングに励みました。そういうことが強い身体を創る。そのためには例えば朝のウォームアップの方法とかを事細かに研究していました。『イン・ジ・アッパー・ルーム』の中にはその要素が現れていると思います。

----作品の中に直接そうしたものの動きが反映されていますか。
クドウ いわゆるスタンパーなどもそうです。バレエのダンサーであってもそうした動きのクオリティはとり入れて動かなければなりません。『イン・ジ・アッパー・ルーム』の中のトウシューズ履いているグループとカジュアルなシューズを履いているグループも、動きのパワフルさは同じです。アスリートとして限界を越える身体能力を発揮して<イン・ジ・アッパー・ルーム>に行ってしまうわけです。

----そう言う動きを具体的に教えるのはたいへんではないですか。
クドウ 日本だけではなく、いろいろな国で教えています。ただバレエ・カンパニーではなければ、この作品は出来ません。バレエのテクニックはとても難しいですから、モダンダンスのカンパニーには持っていけないんですよ。ですからバレエダンサーがスニーカーの動きをしなければなりません。『眠れる森の美女』とは違うステップなので、それを教えなければなりません。

1226kudou_02.jpg 「イン・ジ・アッパー・ルーム」のリハーサル

----一度、出来るようになってもしばらくするとクラシックのステップに戻ってしまうのではないですか。
クドウ 普通はそうですね、戻ってしまいます。今回の新国立劇場の『イン・ジ・アッパー・ルーム』も震災の影響でリハーサルが中断しました。でも今回、私が来日する前にバレエマスターと練習を始めていてくれました。私はこの新国立劇場のダンサーには非常に満足しています。一生懸命だし、私の教えたスタイルを忠実にマスターしてくれます。ダンサーたちには敬意を抱いています。

----震災の時は驚かれたでしょう。
クドウ 最初は「ああ地震てこのくらいなものなんだ」と思っていましたが、あまりに凄いことになっているのでたいへん驚き、とってもナイーブになりました。

----2回ステージを作られたということになりましたね。

クドウ ええ、でもまた戻って来られてとても幸せです。

----舞台がとっても楽しみです。
クドウ ミー・トゥ。

-----クドウさんとサープはどういう出会いだったのですか。
クドウ 私がABTにいた時、『プッシュ・カム・ト・ショヴ』をバリシニコフに振付けるためにサープが来ました。その時、私は入団したばかりでコール・ド・バレエでした。カンパニーの人たちは、どちらかというと「なに、このモダンダンスの振付家は・・・」みたいな目でみていました。でも私は新人でしたから、心を開いてサープに積極的に協力しました。それで彼女は私を気に入っていたのだと思います。

----サープはダンスに対して厳しく、極限まで踊らせるようなものを創りますね。
クドウ いつもハイネナジーの人なんです。

Push Comes to Shove Choreography by Twayla Tharp  (c)Twyla Tharp 「プッシュ・カムズ・トゥ・ショヴ」撮影:瀬戸秀美
Push Comes to Shove
Choreography by Twayla Tharp
(c)Twyla Tharp

----バリシニコフはそう言うことにも敬意を持っていたのですか。
クドウ 彼はポップ・カルチャーや映画やミュージカルが好きでした。ジェームズ・キャグニーの歌やダンスが大好きだったし、アメリカのポップ・カルチャーに興味を持っていたので、二人はぴったり意気投合しました。サープはテクニックにもたいへん意欲的だったし、バリシニコフもたいへん実力のある人だったから、それをどうやって作品に生かしていくかという創り方でした。ですから彼らの最初の作品『プッシュ・カムズ・ト・ショヴ』などを踊るのは、ほんとうにたいへんでした。私は30年後には福田圭吾に教えましたが、彼もとってもたいへんだったと思います。

-----クドウさんがバリシニコフと初めて踊った時はいかがでしたか。
クドウ そりゃあ、緊張しましたよ。でも「シナトラ・ソングス」の前にも確か一回彼と踊っています。

----彼は踊りやすかったですか、優しかった?
クドウ 優しくなかったです。彼は難しい人でしたが、素晴らしいダンサーでした。これは間違いないです。

----今度、クドウさんはワシントン・バレエ団のバレエ・マスターになられたんですね。ワシントン・バレエって日本人にはあまり馴染みがないんですが。
クドウ そうね、大きなカンパニーではないんです。バレエ中心のカンパニーですが、少しコンテンポラリー・ダンスも踊ります。セプティーム・ウエバー芸術監督は振付家です。彼の振付作品は『アリス・イン・ワンダーランド』が良く知られているかも知れません。ほかには『グレイト・ギャッツビー』などもあります。彼はなかなかいい物語の語り手です。

----アメリカ的な素材を使って振付けることが多いということですか。
クドウ そうです。今年、ヘミングウェイの『日はまた昇る』を振付けます。

----ワシントン・バレエではサープ作品を上演しますか。
クドウ ええ、いろいろ上演しています。トワイラ・サープの70歳の誕生日の記念に「トワイラ・サープ・ナイト」を企画し多くの彼女の作品を上演しました。『 9 シナトラ・ソングス』とか、それから『サーファー・アット・ザ・リヴァー・ステックス』というおもしろいタイトルの作品も上演しました。(これは『三途の川でサーフィン』というくらいの意味)

----アメリカのバレエはフィジカルなことも大きな要素となると思います。
クドウ そうですね、日本人のダンサーももう少しアスリート的であったほうが、さらにいい面が現れるかもしれません。その点だけを比べればアメリカ人のダンサーのほうが少しアスリートかもしれません。

----ヨーロッパのバレエとアメリカのバレエは、どういったところが異なると思われますか。
クドウ ヨーロッパの感覚はとても現代的ですね、アメリカはネオクラシック的。バランシンの影響が強いですから。コンテンポラリー・ダンスでもアメリカでは意外とバレエのテクニックを使っている場合が多いです。

----ヨーロッパのモダンダンスというのはアメリカから入ったのですよね。
クドウ でも今はもっと違ったひねりが入っていますね、キリアンとか。バランシンからの影響の受け方もヨーロッパとアメリカでは違いますからね。

----『イン・ジ・アッパー・ルーム』と『プッシュ・カムズ・トウ・ショヴ』新国立劇場のダンサーに教えて、どのような感想をお持ちですか。
クドウ 新国立劇場のダンサーは非常に真剣で一生懸命練習してくれて満足です。ちょっとパワー的に弱いところがあったかも知れないけれど、彼らは一心にそれを克服してくれました。クラシック・バレエの大作ではあまり大きな役のつかないようなダンサーも凄く頑張ってくれました。私はとても満足しています。

----本日はお疲れのところお時間をとらせましてすみませんでした。たいへん興味深いお話をありがとうございました。

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「イン・ジ・アッパー・ルーム」のリハーサル