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インタビュー/関口紘一
[2014.10.22]

【公演直前インタビュー】
首藤康之、「DEDICATED 2014 OTHERS」 の『出口なし』(白井晃演出)と『ジキル&ハイド』(小野寺修二演出)を語る

----首藤さんのプロデュース公演「DEDICATED」は今回開催の「DEDICATED  2014 OTHERS」で3回目になります。今までの公演の手応えはいかがですか。

1410kaat_01.jpg 「出口なし」リハーサル 撮影:大河内禎

首藤 DEDICATEDは自分の想いでプログラムを組める貴重な公演です。今まで二回公演した手応えはすごく感じています。
ぼくは舞踊を通して仕事をしてきました。いろいろなプロジェクトを行ってきましたが、今、現在、自分が大切にしている人たちとともに、舞踊を通して表現を創ってきました。2011年の東日本大震災の年にこの企画は始めました。震災はアーティストばかりではなくすべての人々にとって、大きな出来事になっていると思います。すべての人々が生きる価値観や自身の存在について考えたと思います。そしてやはり、ぼくは舞踊を通してものごとを考えてきましたので、もう少し意識的に今までやって来たスタッフ、ダンスパートナーや演出家とともに、お客様と作品を通していろいろなことを共有できないかなと思いました。
「DEDICATED」でも、「作品創りをする」という点では他の公演と違いはありません。ただ、「DEDICATED」では公演のコンセプトがまずあって、そこから作品創りに入っていくので、振付家や演出家、出演者はもちろん、関わってくれる周りのスタッフとも対話するということがとても重要になってきます。そこが他の公演とは違う点ですね。時間をかけて対話を重ねる中から、自分自身が考えているのとは異なる方向性が見えてきたり、思わぬ方向に転がっていくこともあります。スタッフは毎回同じメンバーで創っています。
そういった中で今回3回目を迎えるにあたり、選んだテーマは「他者」。自分にとっては重要なテーマです。
自分の存在というのは他者によって出来ている、というか他者に依拠しているということ。ぼくは見られる仕事ですから、お客様の眼差しによって自分という存在があります。それほど人の目を気にしている訳ではないんですが、実際問題、人の眼差しというものがある中でぼくは生きています。
今回、そういったことをテーマにすると、なにかひとつまた舞踊として見えてくるのではないかな、と思って今回に至っています。

-----今回の公演では、『ジギル&ハイド』と『出口なし』の2作品が上演されます。『出口なし』は、サルトルの同名の戯曲を題材とするものですね。私は、銕仙会能楽研修所で2006年に上演され、パリ・オペラ座のニコラ・ル・リッシュ他が出演した『出口なし』(コメディ・フランセーズのギョーム・ガリエンヌ演出)を見ました。

首藤 ぼくは見てないんですけど、フランス人にとってサルトルというのは、また、すごいテーマになるのでしょうね。ぼく自身は、ベジャールさんの『3人のソナタ』という作品があって、昔、パリで観たときすごく心を奪われて生々しい感じがしました。3人の関係性がすごく美しくて、これはどういうバレエだろうと思って調べたところジャン=ポール・サルトルの『出口なし』でした。まだ20代の頃だったのですが、それから『出口なし』を読んでみました。当時はよく分からなかったのですが、有名な一節があって「地獄とは他人のことだ」というのです。それがまったく意味が分らなくて。今回はその意味を追求しようと思っています。「地獄」というのはそれ自体悪いことなのか、もしかしたら好意的にとらえたワードなのか、わからなくて・・・追求してみたいなと。

----ル・リッシュが出演した舞台の場合、能楽堂という場を死後の世界に設定して、能的な動きを採り入れた台詞劇でした。

1410kaat_02.jpg 「出口なし」リハーサル 撮影:大河内禎

首藤 能楽堂というのはすごく合ってますね。無の世界というか、音もしないし、死後の世界として能楽堂で公演するのは、良いアイディアですね。
『出口なし』で大きな役割を果たすモチーフは鏡のない世界。死後の世界には鏡というものがないから、他人の目線、他人の動きなどによって自分の存在を知るという話なのかなと思います。鏡を見るというのは視覚的なことですが、知覚的なことをいえば、1人だけで喋っていても自分というものは感じられないですよね。相手と話すことによって、自分はこういう考えをしているんだ、と気付いたり、質問の答えを言葉にしてみて初めて自分の想いを知るということも多々もあります。そういった体験をなにか意識化した作品にしていきたいな、と思っています。ぼく自身が演出する訳ではなく、演出は白井晃さんです。白井さんは大学でサルトルの研究をされていたそうです。去年サイトウ・キネン・フェスティバルで、ご一緒させていただいて、ちょうどKAAT神奈川芸術劇場のアーティスティック・スーパーバイザーになられたので、お願いしましたら快く引き受けてくださった。出演の中村恩恵さんはご自身の作品を踊ることが多かったのですが、今回はいつもとは違うアプロ−チの作品なので、良い経験になるだろうということで参加してくださいました。恩恵さんは「DEDICATED」に第1回目から参加してくださっています。それから女優のりょうさんも出演してくださることになり、6月から創作に入っています。

----ダンス作品ですが、動きはどのようになさるのですか。

首藤 白井さんはご存知のように演劇の演出家です。サルトルの戯曲は、上演すると60分から80分くらいの作品です。これまでの時点では、まず、台本を30分から40分くらいの台詞に書き換えてもらいました。それから本読みに入りました。まずは芝居を作ったんです。そこから言葉を抜いて行く、という作業をしています。

----それはとても興味深い創り方ですね。芝居もぜひ観てみたいです。

首藤 創りながら芝居としてもおもしろい、という話になりました。言葉をそのまま置き換えるのではマイムになってしまいますが、ゼスチャーやマイムをしたい訳ではないので、そこがとても大変でした。
でも、ほんとうに芝居としてもおもしろいテーマの作品だな、と思いました。
実際にお芝居をやってそこから言葉を抜いて、パフォーマンスを創る、という初めての試みです。

----台詞は全くなくしてしまうのですか。

1410kaat_03.jpg 「出口なし」リハーサル 撮影:大河内禎

首藤 どれだけ台詞をとっていけるか、という挑戦ですね。まずダンスではそんな創り方はしないので、中村恩恵さんもとても楽しんでいます。創り方のアプローチとしてすごくおもしろいと思います。
ぼくがいろんな演出や振付の方と作品を創りたいなと思うのは、それぞれ作品の入り方とかアプローチの仕方が違うからです。創り方を変えることによって、すごく自分が変わるんです。たとえばベジャールさんは本当に仕事が早い、今日はここからここまで振付けます、と言ってそこで終わります。それ以上のことはありません。キリアンさんは10秒創るのに、一日、二日、三日と何日もかけるような創り方をします。マシュー・ボーンさんの『SUWAN LAKE』の時は、その作品に関わった映画をみせてもらって、それからスワンとか王子についてどういうキャラクターだと思うか、ということを演出家をまじえたダンサー同士のセッションから始まりました。そういう風にいろんな方向性があります。その中でも、今回の芝居創りから始まるということはほんとうにおもしろいアプローチだなと思います。

今回はまた、2011年に初回の「DEDICATED」で初演した小野寺修二さんの構成・演出による『ジキル&ハイド』を上演するのですが、小野寺さんは作品とは、まったく別のところのようなピースをどんどん創っていくんです。そうしてそれが最後には、ジグソーパズルが出来上がるように完成するのです。これもまた、おもしろいアプローチです。だから出演者も、ギリギリまでどのようにまとまるか、分らないんです。大丈夫なのかな、こんなにこまごまと動きを作っていて、と思うのですけれど気が付くとパズルが完成してひとつの絵が出来上がっているわけです。

今回の白井さんとの取り組みは、絵はできあがっているのですが、それをどう見たら良いのか分らないという状態です。声は聞えるけれど写真ははっきりしない、というわけです。そして声が消えて、写真がはっきりとしてくる、ということになってくると思います。
アプローチの仕方それぞれがおもしろいですね。
また、今回、『出口なし』には女優のりょうさんも出演されるのですが、職種の違う方と一緒に創るということはまた、いつもと違うおもしろいアプローチです。彼女は台詞を言うことについてはプロです。恩恵さんとぼくは身体表現だと大丈夫なんですが、話すとなるとまた違います。そこで、お互いの経験値や持っている素材を交換し合うことができます。それはとても大切なことで、ダンサー同士でもあります。ぼくと恩恵さんもそうですが、キャリアが違えばそのダンサーの持っているものは違うので、クラシック・バレエを基本としてやってきたことは同じでも、仕事をしてきた振付家が違うとやはり、その人が持っているものは違います。持っているものを交換して自分の中で変えてまた出して行くと、いろんな可能性が起きます。同じ人とでも環境が変わると、いろんな顔が見えるので非常に興味深く思えるのです。

----そうですか、振付というのは人それぞれ方法が多種多様で違うのですね。

1410kaat_04.jpg 「ジキル&ハイド」リハーサル 撮影:大河内禎

首藤 一緒に仕事をしていて「あー、いいなあ、ほんとうに充実しているな」と思う瞬間はもちろん、本番でもあるのですが、そういう創っているときのプロセス、段階を踏んでいる時こそ、すごくおもしろいものなのです。作品は出来上がってしまうと一人歩きするところがあるので、自分のところから離れてしまうこともありますけれど。もちろん、その作品自体をどんどん高めていくという方法もあるのです。でもやはり、稽古の中で何か新しい動きが創れた時などは、赤ちゃんが新しい言葉を憶えるような違った充実感があります。

----すると、これからはりょうさんが少し苦労される訳ですね。

首藤 そうですね。今までは恩恵さんとぼくはすごく苦労していましたから。でもその苦労が作品に良い影響を与えるようになると思います。りょうさんも動くことに対してはすごく興味を持たれているようです。

----3人の芝居というとまた、ソロやパ・ド・ドゥとは違いますよね。

首藤 そうです。やっぱりすごくおもしろいです。ぼくは二人で踊っていてもいつも第3者との関係性はすごく感じています。デュエットを踊っていても観客が第3者になっていたり、支えてくれるスタッフが第3者になったりするので。二人ということはあまり、ぼくの中に無いです。二人だったら世界はそれだけで完結するわけですが、第3者がいることによっていろいろなことが変わってきます。ですから、3人目というのは非常におもしろい存在です。サルトルの『出口なし』も3番目の人物が入ることによっていろんなことが起きますし。ぼくたちも現実の世界でそういうことが多いですよね。作品を通してお客様にそう言うことを考える機会になるといいなと思っています。

サルトルのこの作品は、他者ということについて考えさせてくれる作品なので、それはとても大切なことだと思います。今は社会がものすごいスピードで動いているたいへんな情報社会で、ひとつのことを追求するとか考えるという機会が少なくなってしまったのではないか、とも思われます。ですから、地に足をつけて、ひとつのテーマを何かを通してゆっくり考えるということをが必要なのではないか、と思います。

----首藤さんが踊られた新国立劇場の『Shakespeare THE SONNETS』などを観るとダンスがとても素晴らしいです。ダンスで観客を充分に感動させられる、それなのに映像とか芝居とか、マイムとかいろいろと関心を広げられていかれています。それがちょっと不思議でした。舞踊ではるかに大きな可能性があるのではないか、と思うのですが・・・

1410kaat_05.jpg 「ジキル&ハイド」撮影:MITSUO

首藤 ぼくがやりたいことは舞踊です。基本は舞踊です。ぼくの中ではカテゴリー分けというものが全くありません。芝居に出たり、マイムを演じたりというのは完全に人との出会いと捉えています。この人とやったことがたまたま演劇だったりとか・・・
この人と何かやりたい、そう思うんです。そうしてコラボレーションした時に、完成したものがお客様にとって演劇になるかもしれない。でもぼくの中ではすべてが舞踊であって、常にそういう意識なんです。いつも舞踊という意識はあり、舞踊をずっと追求していきたい、と思っています。よく聞かれるんですが、ぼくは今年43歳になるのですが、「いつまで踊るのか」と。パリ・オペラ座バレエ団だとかとそろそろ定年の歳です(笑)。が、やればやるほど追求したくなってきているのが正直な気持ちです。舞踊という1本の道で見ているのではなくて、いろんな人と出会うことによって舞踊が突き詰められるのではないか。例えば、ひとつの行き先があって、大通りを真直ぐ行けば着くのだけれど、横の道に入っていろんな人と経験を持つことで、行き着く先に何か自分の目的地らしきものがあるのではないか、という感じがしているのです。

----そうですか、よく分かる気がします。「DEDICATED」にもそういう意識が反映されている訳ですね。

首藤 そうですね。今回上演する『ジキル&ハイド』は再演なんですけれども、今、小野寺さんといろいろと創り込んでいます。前回は大スタジオ公演でしたが、今回はホールになって舞台が大きくなるので、少しイメージも変わると思います。

----『ジキル&ハイド』も随分といろいろ小道具を使われていましたね。


首藤 ええ、普通バレエダンサーだといつも人を対象として踊るので、クラシック・バレエの作品を踊っていた時は、物を使うということはほとんどしませんでした。

----ダンサーによっては物を扱うのをすごく嫌がるそうですね。

首藤 そうなんです。物は言うことを聞いてくれないので、慣れていないと難しいですね。物といってもそこに存在することは何か意味があるんだと思います。水であればこれはもう人間にとって絶対に必要な物だし、そういう感謝の心とか、すべてがいろいろな意味があって存在している、椅子でもそうですし。すべてこれはこうで、という絶対的なことはないと思います。お客様に観ていただいて、これはこうぼくは思いますけどお客様はどう思われますか、というところにポイントがあるというか、これはこうですとか、こうみてください、とは言いません。お客様と一緒に考えるという地点に行けたらいいな、と思います。

----小野寺さんとは何回目のお仕事になりますか。

1410kaat_06.jpg 「ジキル&ハイド」 撮影:MITSUO

首藤 5回目になります。彼はぼくにとって最も重要な演出家の一人です。その度にぼくの可能性を最大限、引き出してくださり、いろいろな価値観を共有できるんです。

----小野寺さんの作品の中でも、首藤さんは常に軸を保って動いていますね。


首藤 バレエはすごく華やかな世界ですが、じつに地道な世界でもあるんです。ターンアウトの稽古から始まって毎日クラスに参加していないと、技術が保てないというところがあります。ぼくは、やっぱりクラシック・バレエをベースにしていて良かったな、と思います。今でもクラシック・バレエのレッスンをすると自分自身がニュートラルな状態に戻れて、身体のセンターの軸だけでなくて、精神的な軸も保てます。常にクラシック・バレエの基礎を忘れないということは一番大切にしていることです。

----本日は公演前でお忙しいところたいへんありがとうございました。とても興味深いお話をありがとうございました。「DEDICATED 2014」は大いに期待しております。

首藤康之 DEDICATED 2014 OTHERS

●10/24(金)〜26(日)
●KAAT神奈川芸術劇場ホール
●演目・出演=
・Jekyll & Hyde『ジキル&ハイド』
 構成・演出=小野寺修二
 原作=R.L.スティーブンソン
 出演=首藤康之
・Huis clos『出口なし』
 構成・演出=白井晃
 原作=J.P.サルトル
 出演=首藤康之/中村恩恵/りょう
●S席7,500円/A席6,000円(全席指定・税込)
●開演時間=24日19:30、23・26日15:00
●お問い合わせ=チケットかながわ 0570-015-415
http://www.kaat.jp/