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浦野 芳子
[2012.12.26]

『ダンサーRの細胞』上演を迎えて、ワークショップの意味と表現について、勅使川原三郎氏に聞く

勅使川原三郎監修演出・振付・美術・照明の『ダンサーRの細胞』には、同氏の“U18”と名付けられたワークショップに参加しているメンバーが出演する。
Under18、を意味するこのメンバー、実際オーディションで採用したのは13歳から16歳の5名になったので正確にはUnder16となったわけだが、特筆すべきは彼らが日頃、プロのダンサーを志してなにがしかの訓練を積んでいるわけではないこと。
それでも勅使川原の舞台に出演してみたい、と応募してきたメンバーなのだ。
公演本番まで2か月を切った12月上旬のある週末、彼らのワークショップを見学させていただいた。

1226dancer_r05.jpg 勅使川原三郎 (C) Abacaris Films

東京・池袋にある東京芸術劇場のリハーサル室のひとつ。リノリウムの上でそれぞれ自主的にストレッチとウォーミングアップを行っている4人がいた。もう一人の参加者は、歯を二本抜いたため本日のワークショップはお休み!…青春には忙がしさがつきものである。
その忙しいスケジュールをやりくりして、9月から毎週末、本番まで合計15回のワークショップと舞台稽古を彼らは体験することになっていて、私が見学に赴いたこの日は11回目。折り返し地点を無事過ぎたタイミングである。

まずはバーに足を乗せてのストレッチ。
ところが。
次の瞬間から全員がその場でジャンプを始める。
「外側じゃなくて内側を意識して」
「身体の全体をカタマリとは思わないで、ばらばらにしてみて」
「肩は脇の下から意識して」
「足首というのは身体の中でもとっても関節の多い部分なんだ。ネコ科の動物はそれを上手に使って動くから素早くてしなやかなんだね。反対に鳥類の足首は硬い。彼らはしっかりと木の枝に止まるのが日常だからね」
ひたすら跳び続ける彼らに、絶え間なく勅使川原が声をかける。ひとりひとりの身体を見つめながら気づいたことを、言う。
「K君、肩をもっと大きく緩めてみて」
「Hさん、足をもっと強く」
「M君、君はもっとできるはずだよ」…
その場でのジャンプを5分くらい続けたら、曲線を描きながら移動をはじめる。それをしばらく続けたら腕を曲線を描くように上げたり下げたりしながら、相変わらず跳び続ける。彼らの呼吸が次第に荒くなってきたところで床に仰向けになる。仰向けになって、今度は思い切り腹から息を吸う、ゆっくり吐ききる、を繰り返す。
「背中に広々としたものをイメージしてみて」

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上気した頬が少しおさまったと思ったらいきなり腹筋!!  足を床から少し上げてキープしながら交差させる、あのキツイやつを、30回、50回、70回…

そして深呼吸、また跳ぶ、跳びながら移動する、移動しながら体のいろんな関節の力を抜く、そして仰向けになる、呼吸する、また腹筋をする…
この繰り返しでワークショップの二時間があっという間に過ぎる。この間、勅使川原三郎はずっと、喋りっぱなしだ。U18の彼らの身体に向けて、さまざまな言葉を投げかけるのだ。
しかし、面白いことに、投げかけられた言葉は、彼らの身体から確実に反応を引き出す。まるで石が当たったかのように。

このトレーニングは、KARASのメンバーが日々行っているものとほとんど変わらないのだという。
「大切なのは、同じ動きを続けることで、自分の身体の変化をキャッチし、そこから感じた何かをどう扱い、自分の身体にフィードバックさせ進化につなげていくか思考すること」と、佐東利穂子も言っていた。

ワークショップの終盤、本番にも使用するというリヒテルの弾くバッハの平均律に合わせ、それぞれのリズムで歩き回る彼らの身体が印象的だった。音の取り方、足裏の使い方、まさに四者四様。ジャンプして身体の外側の力を抜き、呼吸により体幹部分の感覚を強く確かにした彼らの身体は、それぞれの感覚で音と空間を捉えはじめていたのだ。

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勅使川原三郎、ワークショップを語る

----たくさんの応募の中から、彼ら5人を選んだ、そのポイントは何でしたか。

勅使川原 新鮮にワークショップに立ち向かえる人である、ということです。こういうことがダンスだ、と限定していない人。最初から“踊れます”“こんなことができます”いう人ではなく、むしろダンスに興味はあるのだがどうやったらいいのかわからない、そういう人。このワークショップに参加することで何かを発見したい、そういうモチベーションを持っている人を選びました。

----オーディションには、いわゆる“踊れる子”もたくさん来たのではないですか。

勅使川原
 ぼくは、ダンスをするうえで、いわゆる“上手”ということを決して重要には思っていないんです。もちろん、体型、やキャリアでもない。今そこに表わされていることよりも、隠されたものをたくさん感じられる人に、個人としての可能性を感じるんです。
最初からうまく表現できている人というのは、どうも怪しい。人の目を惹きつけようとし過ぎて巧みに立ち回れるのは、もしかしたら心の中に葛藤があまりない人なんじゃないかと思う。むしろ、うまく出せない人の方が、さまざまな葛藤を抱えていて、その葛藤が出口を持たないために溜め込んでしまっていることがあるように思う。そんな人がダンスという表現方法を身につけた時の可能性は、大きいと思います。

----上手い、下手、ではないと。

勅使川原 むしろ、下手だからやりたい、という人の方が伸びます。どのジャンルにおいても同じだと思うのですが、このレベルでとどまってはいけない、もっと、もっと、という気持ちが自分を育てるのです。それよりほかの方法は無いと思います。

----このワークショップで伝えているのは、ダンスの技術ではないのですね。

勅使川原 技術、という言葉にはある種の語弊があると思っています。なぜなら技術とは一律のモノではないからです。バレエも、ヒップホップもそれぞれに技術がある。だから、技術を用いる以前に、自分が自分の身体で何を意識できるか、コントロールできるのかということが大切だとぼくは考えます。
彼らはいいですよ。自分の動きに対してまだ自信が無いので。ぼくは技術はとても重要だと考えています。

----自分の身体に対する感受性が、舞台表現の出発点になる、勅使川原さんはそう考えておられるのですね。

勅使川原 できる、知っている、と思ってやっていることと、身体から自発的に発していることとの間には大きな隔たりがあります。何をやりたいか、ということをその人の身体が持っているかどうかが、大事なんです。
今はすぐに結果を求めるあまり、練習をしてどのくらいでこういう段階に達します、とか、発表の場の有る無しなどが重視されてしまう。マニュアルでやればできるようになる、そういうものもあっていいですが、それはダンスじゃないと思っています。
ぼくの考えるダンスとは、時間をかける中で自分の身体と向き合い、そこで何かを持続して追求するから表現になる、そういうものだから。だからぼくのやるワークショップには答えが無い。その代り、作品以前に重要なことがあるんだということを、時間をかけてじっくり伝えたいと思っているんです。つまり表現へ向かう土台づくりです。

----カタチや型を見せることではなく、身体を使って語る、伝える…

勅使川原 創作には、自分の生きている時代から何を感じ何を問題にしているかと言うことの裏付けがある、つまり発言です。だから、ぼくたちは、誰々がやっている踊りをやりたい、ということをわざわざ舞台ではやるつもりはないですし、踊り方も自分の言葉として独自のモノでありたい。踊り方を創ることが、自分たちの言葉を持つことであり、それが価値でありユニークということなのだと思います。

1226dancer_r01.jpg 『ダブルサイレンス』 写真:Bengt Wanselius

----そういう意味では、佐東さんの身体は実にたくさんの言葉を発しますよね。彼女が初めて勅使川原さんのワークショップに来た時というのは、どんな感じだったのでしょう。

勅使川原 踊れるかどうかといったら、まったくそうではありませんでした。どちらかというと内向的でしたから、強がったり、これ見よがしに自分をアピールしたりということもなく、どちらかと言うと弱々しく、フラジャイルな壊れやすい空気をまとっていた。しかし、決して何かを真似ようとはせず、自分の中から何かを掴みだそうとしていました。“何かのようになりたい”のではなく、理想の自分像に対する客観性を持っていました。この客観性は、ダンサーにとってとても重要な要素です。楽しいから、上手だからやるのではない、もっと何かあるはずだという探究心、学ぼうとする努力ができる、そういう気配を感じる人に、ああこの人には表現に向かう価値があるな、と思うのです。

----知らないこと、わからないことがたくさんある若い時に、それを体験するというのはとても大切なことかも知れません。

勅使川原 そうです。だからなるべく若い時期にこのワークショップに出会えてもらえたら嬉しい。時間をかけて自分と対峙する中で、いろんな可能性が開けてくると思う。簡単にできてしまう経験というのは、“できる”と“無理”のふたつしか道を作らなくなるかも知れないでしょう。

----時間をかける中で、自分の中にいろいろな方法論、つまり道が出来上がっていく。

勅使川原 知らないことをどのようにして知るか、に対して謙虚に向かうことが、技術、つまり道を発展させるのだと思います。そして、それはダンスだけでなくあらゆる状況や場面で活かせることだと思います。
ぼくのワークショップは細々ともう三十年も続けてきたのですが、いろんな人が通過している。音楽家や料理家、評論家などそれぞれの道で成功している人もたくさんいるんですよ。

1226dancer_r06.jpg 『ダンサーRの細胞』

 

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東京芸術劇場リニューアルオープン記念 芸劇dance
勅使川原三郎ディレクション
U18ダンスワークショップ・プロジェクト
『ダンサーRの細胞』


●詳細
http://www.chacott-jp.com/magazine/information/stageinfo2/-danceu18-r.html

●プロモーションムービー
http://www.geigeki.jp/ch/ch1/index.html

●開催決定
勅使川原三郎/KARASコンテンポラリー特別ワークショップ
2013年1月14日(月/祝)・15日(火)
チャコットカルチャースタジオ 渋谷スタジオ
チャコットカルチャースタジオ 池袋劇場通りスタジオ
詳細はこちら→http://www.chacott-jp.com/j/studio/info/detail507