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インタビュー/関口紘一
[2012.07.19]

シュツットガルト・バレエ団プリンシパル・ダンサー エヴァン・マッキー インタビュー

Suttgart Ballet Principal Dancer  Evan McKie
エヴァン・マッキー  インタビュー

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パリ・オペラ座でオーレリー・デュポンと『オネーギン』を踊って喝采を浴びたエヴァン・マッキーが、東京バレエ団とともにその優美な踊りを披露する。シュツットガルト・バレエ団の日本公演で来日した、エヴァン・マッキーに詳しく話を聞いた。

----9月28日、30日に東京バレエ団と踊られる『オネーギン』のリハーサルがお忙しいところありがとうございます。
マッキーさんが踊られたジョン・クランコの『白鳥の湖』をみせていただきました。素晴らしいジークフリートでした。背が高いのにとてもバランスがよく、しかも動きがとてもエレガントでした。これはやはり、ペーストフ先生にお教えを受けられたからでしょうか。クランコ独特の表現も安心して鑑賞できました。


マッキー ありがとう。ペーストフ先生の教えは、身体のパーツがそれぞれひとつの楽器であって、顔の表情とともにすべてが一体となることによって始めてオーケストラの演奏とダンスが共鳴できる、ということでしたから、特にそれを気をつけて踊っています。

----第一幕のパ・ド・シスがかなり複雑な構成になっていましたが、他のヴァージョンとは異なるし、間があるので初めて踊る時には緊張するのではないですか。

マッキー 私がクラシック・バレエの中で初めて踊ったのがクランコの『白鳥の湖』で、シュツットガルト・バレエ団で初めてもらった大役でした。でもその時はそれほど複雑とは感じなく、むしろ踊りやすかったです。5人の女性と王子は幼なじみでとても親しい、とクランコは表現したかったのだと思います。気高く威厳のある王子というより、親しみのある気さくな友だちも多い王子像を表したかったのでしょう。だから王子にもたくさん踊らせる振付にしたと思います。

----王妃にもっと王子として威厳のある態度をとりなさい。そして早く花嫁を娶りなさい、といわれてショックをうけた様子がよくわかりました。

マッキー 彼はもっと楽しく生きたい若い王子だったと解釈しています。
クランコの『白鳥の湖』は、他のヴァージョンと違ってダンスが多く、クランコならではのストーリーテリングの手法を使っています。

-----王子は主役らしく踊ります。

マッキー
 当時、クランコの周りには優秀な男性ダンサーが揃っていました。エゴン・マドセン、レイ・バラなどですが、『白鳥の湖』のオリジナル・キャストは多分マドセンとマリシア・ハイデだったと思います。

----リチャード・クラガンは?

マッキー
 クラガンもクランコ作品をたくさん踊っていますが。、彼はもう少し若かった。クラガンはハイデと『じゃじゃ馬ならし』を初演しているでしょう。

----私はハイデとクラガンの『じゃじゃ馬馴らし』を観ています、28年前でした。


マッキー
 ワーオ!

----昨年12月にオペラ座でクランコの『オネーギン』を踊られました。ニコラ・ル・リッシュが怪我をしたからと聞きましたが。


マッキー
 ル・リッシュはたいへん良いダンサーですが怪我をしてしまいました。私はシュツットガルト・バレエ団でレッスン中だったんですが、「すぐ来い!」「1時間後にこのチケットで電車に乗ってくれ」といわれました。衣裳だけ誰かがバッグに詰めてくれて、その時に着ていたそのままの服で飛び乗ったんです。
既にマチュー・ガニオなど友人のダンサーも居ましたが、タチヤーナ役のオーレリー・デュポンとは初対面でした。そして滅多にないことですが、オーレリーとは出会った瞬間に意気投合しました。オーレリーもこの役は2、3年前に踊ったことがあるだけでした。私もそれほどたくさん踊った経験があるわけではありませが、オープニングまで3日間しか練習期間がありませんでした。けれどもオーレリーとはとっても相性が良かった。彼女の異なった面がすごくよくステージに現れていた、と観客や他の人にも言われました。多分それは、自分が彼女をよく知らなかったので、彼女の普通とは異なった面を見ていたからではないでしょうか。彼女が信頼して心を開いてくれたために、いつもとは異なった面が現れてきたのではないだろうか、と思います。

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----身長も合っていましたか。

マッキー そう、身長もちょうどいいバランスでした。彼女はとても美しい方です。

----子供が二人いるとはとても思えないですね。


マッキー
 ええ、二人目は去年の夏に生まれたばかり。ですからオーレリーにとっては12月の『オネーギン』はカムバック公演だったと思いますが、とてもそうとは思えない素晴らしいものでした。子供を持った女性の方が逆にオープンな気持ちで踊ってくれて、細かいことを気にせずにステージに立てます。母親になったということが良い結果をもたらしているのだと思います。

----『オネーギン』を踊る以前にはオペラ座で踊ったことはありましたか。

マッキー
 シュツットガルト・バレエ団として踊ったことはありましたが、オペラ座のカンパニーと踊るのは初めてでした。女性は時々ありますが、パリ・オペラ座が男性ダンサーを外部から招くことは非常に希です。私にとっても初めてのとても良い経験でした。
最初のうちは私も部外者なんじゃないか、というふうに思って緊張しましたが、じつに気持ちよく迎え入れてくれました。私のように長身のダンサーは少なかったですが、動きは合っていると褒めてもらいました。

----シュツットガルト・バレエ団がオペラ座で公演した時はどんな役を踊りましたか。


マッキー
 ずいぶん前ですが、『じゃじゃ馬馴らし』でルーセンシオを踊りました。

----今回の『オネーギン』は、オペラ座芸術監督のルフェーブルさんからの指名ですか。


マッキー
 ええ、ルフェーブルはしばしばシュツットガルトに来ていましたから、ダンサーとしての私を知っていて指名してくれたのだと思います。

-----ペーストフ先生にはどこで習われたのですか。

マッキー
 アメリカのコロラドだったと思いますが、サマーコースをとっていた時に、ペースト先生が教えていまして、私をすぐに気に入ってくださって、シュツットガルトに来い、と。どうやら私がペーストフ先生のダンサーのイメージに合っていたためだと思います。
この時のサマーコースにはデイヴィッド・ホールバーグがいて、彼は私の親友でルームメイトでした。そのサマーコースのテーマはボリショイ、シュツットガルト、パリでしたが、私はボリショイ・スタイルをとり、デイヴィッドはオペラ座スタイルをとりました。そして私とデイヴィッドが一緒にペーストフ先生からスカウトされたわけですが、その後デイヴィッドはボリショイ・バレエを選び、私はオペラ座で踊り、ちょうどその時選択したテーマと逆になってしまいました。彼とは今でもその事を話題にして笑っています。

----一つの部屋から世界的ダンサーが二人も生まれるなんて奇跡ですね。


マッキー
 誰がルームリストを作ったかは知りませんが、がっしりした男の子が多かった中で、二人がルームシェアすることになって最初に出会った時は、お互いに同じような雰囲気だったので、思わず顔を見合わせました。
デイヴィッドは、すぐに私に「足を見せて」「足をあげてみて」と言いました。どのくらい踊れるか知りたかったのでしょう。その後は彼とは同じクラスで、いかに足をスムースにきれいにあげられるか、競っていました。最初からお互いに意識し合っていたのです。

----ペーストフ先生は宝石を見つける名人ですね。


マッキー
 今から思えばデイヴィッドもペーストフ先生にもっと習っていれば、さらに得るものが多かったと思います。もちろん、彼は美しいダンサーですが。

----そうすると一人でカナダからシュツットガルトに行かれたわけですか。


マッキー
 ええ、ワシントンDCからシュツットガルトに行きました。芸術監督のリード・アンダーソンもカナダ人でしたし、ロバート・テューズリーもいるということでしたので。あるいはそうなる運命だったのかもしれません、今、行かなければ永遠に行けないのではないか、という気持ちになっていました。

----おいくつでしたか。


マッキー
 15歳です。

----では一人でも問題なかったですね。


マッキー
 元々、すごく独立心の強い子供だったのでかえって嬉しかったです。

----クランコのバレエ学校からシュツットガルト以外のカンパニーに行くという選択肢はなかったのですか。

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マッキー カンパニーから与えられるものがあまりにも大きいのでほかの選択肢はなかったです。ノイマイヤー、フォーサイス、マクレガーなどなど、いろいろなタイプの踊りを踊るチャンスを与えてくれました。他のカンパニーでは若手にはこういったチャンスはなかなかないのではないですか。やはり、パリ・オペラ座やシュツットガルト・バレエ団は、クラシック・バレエからモダンなダンスまで新しいレパートリー揃っていますし、いろいろなタイプの作品をを踊らせてもらえる素晴らしいカンパニーです。
私も様々なタイプの演目を踊ってみたいし、カンパニーもそう考えています。たとえば、ABTなどにも知り合いがいますが、あそこのレパートリー数では充分ではありません。それにABTなどは大規模な集客を考えて、スターを作りたがる傾向にあります。シュツットガルトはそうではなくて、幅広いレパートリーの中からチャンスを与えてくれるカンパニーだと思っています。

----フォーサイス、ノイマイヤー、みんなシュツットガルト出身者ですよね。


マッキー
 クランコのバレエが好きな理由の一つとして、私は元々、俳優になりたかったということがあります。というのも私の家族はみんな劇場関係の仕事をしていました。そして私は音楽が大好きだったのですが、ある時踊りでそういうことが表現できると分かり、身体を使って表現するのが凄く楽しいことに気付きました。そこからダンスの方に進むことにしました。まさにクランコのバレエと言うのは、身体を使った踊りを通じて演技をするというものなので、ぴったりでした。
クランコのバレエは非常に自然に創られていると思います。音楽の選択もそうだし、一つ一つの動きも自然です。例えば、クランコのバレエはリフトが多すぎると批判する人もいるし、ノイマイヤーのバレについても同じような批判をする人がいます、しかし、人間の普通の感情で音楽がどんどん盛り上がっていくとリフトにまで行く、それが普通だと思います。私たちはそう言うバレエをしてきたので、気持ちが盛り上がればリフトをする、そいうことは人間のごく自然な動きだと思います。

----シュツットガルトで自分のいい道を見つけられたわけですね。しかしマクレガーなども踊っていますが...。


マッキー
 マクレガーはすごく親しい友人でもあって、私のために三つの作品を創ってくれました。『Eden/Eden』『Nout,lus』『Yantra』です。マクレガーが私をコール・ド・バレエから引き抜いてなにか踊らせたい、といってくれたのです。

----クランコ作品とはだいぶ違いますね。


マッキー
 確かに大いに違います。ただ、身体全体を使うという考え方は同じです。観客に対して、何かが起きている、と伝えることに関しても同じ手法だと思います。マクレガーのパートナリングもクランコと同じように複雑です。

----クランコのバレエを踊っていて、すぐにマクレガー作品を踊ったりすることは簡単にできるのですか。


マッキー
 それは毎日違うレストランに行くのと同じかな。毎日違うものを食べて楽しむように、違うものを踊りたいと思うのです。シュツットガルト、パリ・オペラ座、ロイヤル・バレエなどはいろんな要素を取り入れるカンパニーです。ただ誰でも踊れる、というわけでもありません。王子役に徹している人もモダン・バレエしか踊らないという人もいます。上記の三つカンパニーは、何でも踊れるダンサーを育成を目指しているのではないかと思います。

----マッキーさん自身でパ・ド・ドゥを振付けられているそうですが、どんな作品ですか。


マッキー
 フォーサイス、ノイマイヤー、ピナ・バウシュなどもみんなここからスタートしているノヴェール協会で、ワークショップがあって振付ました。多分世界で一番有名な振付のためのワークショップです。私はいろいろなことに興味があって、執筆もしているし、写真家としても活動しているというようなわけで、振付もチャレンジしてみようかなと思って、このコースをとったのです。

-----オペラ座でカブレラと踊られた作品はどんな作品ですか。


マッキー
 これは私ために創られた作品です。シュツットガルト・バレエ団に10作品くらい振付けているロイヤル・バレエ学校出身のダグラス・リーの作品です。彼はシュツットガルトのプリンシパル・ダンサーだったのですが、人間らしからぬ身体が好きなんです。変な動き方ができる生き物、みたいな踊りが出来るダンサーが好きなんです。そう言うダンスができるということで、私とアリシア・アマトリアンにいろんな作品を振付けています。踊っている時の感覚もすごく変わっていて、ナチュラルではないです。クランコ作品は人間らしさを出さなければならないのですが、彼のダンスはまったく逆です。脳のまったく別の場所をつかわなくてはならない踊りです。クランコのバレエを踊った翌日に踊ったりするとすごくおもしろい。変わった動きなのでなかなかすぐには身体が対応しなくて、一晩眠るとやっと踊れるようになったりします。

----写真はどういうものを撮られのですか。人間ですか、風景ですか。


マッキー
 人間。オペラのシンガーとかダンサーが演じていたり踊っているシーンでも、普通のポートレートでもありません。誰々の役を演じてみせて、と注文をつけて演じてもらい、それをずっと撮ります。それを何枚か重ね合わせてひとつの作品にする、といったものです。写真展も何回か開催したこともありますし、写真集を出すことも考えています。

----本日はリハーサルでお忙しいところありがとうございました。東京で踊られる『オネーギン』とても楽しみしています。

1207m_int5117.jpg オネーギンのエヴァン・マッキー
Photo/Stuttgart Ballet
1207m_int0012.jpg タチアーナの吉岡美佳
Photo/Kiyonori Hasegawa
1207m_int0179.jpg 「オネーギン」より Photo/Kiyonori Hasegawa
1207m_int1654.jpg 「オネーギン」より Photo/Kiyonori Hasegawa

 

ジョン・クランコ振付『オネーギン』
音楽/ピョトール・I・チャイコフスキー
衣裳・美術/ユルゲン・ローゼ
タチヤーナ/吉岡美佳
オネーギン/エヴァン・マッキー
レンスキー/マライン・ラドメーカー
オリガ/小出領子
グレーミン/高岸直樹
9月28日、30日 東京文化会館
詳細は http://www.nbs.or.jp/stages/1209_onegin/schedule.html